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「物忘れが多くなった!」「人の名前が思い出せなくなった!」と感じたことはありませんか?
脳の老化は万人に訪れますが、そのスピードは人それぞれ。最近の研究では、ヨガをやっていると脳の老化スピードは遅くなるだけでなく、身体の変化を予測する領域や、合理的な意思決定を行う領域が鍛えられることが示唆されています。
脳科学の研究から、ヨガがどのように脳を変えるのか見ていきましょう。
脳の老化は20代から!?
脳は主に3つの領域から成り立っています。
灰白質 | 神経細胞が集まっている部分 |
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白質 | 神経繊維が集まっている部分 |
脳脊髄液腔 | 代謝物や老廃物を循環させて血液に戻す部分 |
このうち、白質と脳脊髄液腔は年齢を重ねても減ることはありませんが、灰白質は20歳代から減少し始めることが示されています。1)
ある脳の領域の灰白質量と、その部分が担う脳の働きには相関関係があることも示されている2)ことから、灰白質量をなるべく減らさないようにすると、歳を重ねても脳を若々しく保つことができると考えられます。
灰白質量の減少スピードは人それぞれですが、高血圧の人、アルコールをたくさん飲む人、太っている人は灰白質量が減りやすいということがわかっています。いっぽう、灰白質量の減少スピードを遅らせることができるのが、ヨガ・呼吸法・瞑想です。
ヨガをやると灰白質の減少が緩やかに!
ヨガをやる人とそうでない人の灰白質量を比較した研究3)によると、ヨガをしている人では灰白質量低下スピードが緩やかであり、脳の老化を遅らせる可能性があることが示されました。
更に、ヨガの経験年数が長いほど、脳の島皮質(とうひしつ)、眼窩前島皮質(がんかぜんとうひしつ)などの灰白質量が多いことも示されました。それぞれどんな働きがある領域なのか見ていきましょう。
ヨガで鍛えられる脳の部位
島皮質:身体・感情の変化を予測する
島皮質は、オリンピックで金メダルをとる人たちの脳で活性が高いことで知られる部位です。オリンピックで10位以内に入る選手たちならば、その身体的な差というのはほとんどないそうです。何が勝敗を分けているのかというと、この“島皮質”という脳の部位の活性具合ではないか、と注目されています。
島皮質は、身体や感情の変化を予測し、それを自律神経系などに伝える役割をしています。金メダルを取るようなアスリートは、島皮質が発達しているおかげで、身体の変化を正確に予測し、あらかじめ心拍や呼吸数、体温を競技にふさわしい状態に調整したり、筋肉を動かす準備をしたりすることができると考えられているのです。
逆に、チャンピオンになれない人は、島皮質がそこまで働かないため、緊張などによるわずかな身体の変化に対応できず、いつも通り身体を動かしているにも関わらず普段のパフォーマンスが発揮できないという状況になってしまいます。
ヨガの熟達者が身体的にも精神的にも波がなく落ち着いているように見えるのは、ヨガによって島皮質が鍛えられ、自身の身体・感情の変化を正確に予測し、上手く変化に対応できているからだと考えられますね。
眼窩前島皮質:合理的に意思決定する力をヨガで鍛える
眼窩前島皮質(がんかぜんとうひしつ)は、感情や意欲、創造性を司る前頭葉にあります。前頭葉は老化が最も早く進む場所としても知られ、老化が進むと「怒りが治らない」「頑固になる」「意欲が湧かない」と言った症状が出始めます。
前頭前野の中でも眼窩前島皮質は、相手の感情を読み取る力や価値の判断、意思決定に関わっているとされる部位です。眼窩前島皮質の働きが弱いと、自分にとって不利になる決定をしがちになってしまいます。4)
ヨガを長年やっている人はこの眼窩前島皮質の灰白質が多いということは、何かを選択する際、自分にとってふさわしい選択肢を選ぶことができる力をヨガで鍛えることができると推測できます。
継続は力なり
こうした脳の変化は、ヨガの経験年数と比例することもわかっています。なかなか効果として感じにくい部分だと思いますが、コツコツ継続することでいつの間にか手に入っている変化だと言えるでしょう。
脳の老化も気がつかないうちに数十年かけて進むものです。でも鍛えれば、神経可塑性(かそせい)と言って、脳の神経を回復し、再構築できることも研究によって示されています。
つまり、一旦は老化によって失われた神経も、瞑想やヨガなど、何か新しいことの経験、学習などで脳を鍛えることによって、何歳になっても新しいネットワークを構築できるのです。
脳にとって良いのは、自分にとって興味があることを意欲的に行うことです。ヨガに興味がある皆さんは、ヨガの脳への効果だけでなく、好きなことをできているという点でも脳にとって良さそうですね! このままヨガを継続して、いつまでも若々しい脳を保ちましょう。
参考資料
- 宮城県内の住民を対象とした脳の加齢に関する画像研究(参照日:2020年11月12日)
- Taki Y, et al, Brain Cogn, 2011; 75: 170-176
- Villemure C, et al, Front Hum Neurosci, 2015; 9: 281
- 医療NEWS(参照日:2020年11月12日)