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ヨガの練習で、バンダを意識するようにと聞いたことがあると思いますが、イマイチよく分からないという方も多いと思います。バンダは目に見える筋肉などとは違うため、どうしても自身で体感するまで理解がしにくいかもしれません。
しかし、エネルギーをコントロールするために、バンダはとても大切なものだと考えられ、古典ヨガの経典でもバンダについて記されています。
ヨガの練習で行うバンダとは?
バンダとは「締め付け」を意味し、身体の中の生命エネルギー(プラーナ)を失わないための大切なヨガのテクニックです。
私たちはプラーナと呼ばれるエネルギーによってあらゆる活動を行っています。筋肉を動かすのも、声を発するのも、思考も、心臓を動かすのも、プラーナがないと行えません。
『ハタヨガ・プラディーピカ』では、プラーナが体内から完全に抜けてしまうことを「死」と呼びます。このプラーナが体の中から逃げていかないように、しっかりとフタを閉めるのがバンダです。
ヨガで使う3つのバンダ
ヨガ理論ではでは、お腹の位置に炎があり、そこで生まれた熱であらゆる生命活動を行うと考えられています。この炎の位置にあるのがウディーヤナ・バンダです。
ウディーヤナ・バンダでは、腹部で生まれた体内のエネルギーの流れをコントロールします。
身体の土台(根)の部分にあるのはムーラ・バンダです。ムーラ・バンダの位置は、通常排泄や生理、生殖活動など、身体の外に出ていくエネルギーを司っています。
しかし、この部分をコントロールしないと、生命活動に必要なエネルギーさえ外に出て行ってしまいます。
最後は喉元にあるジャーランダ・バンダ。人は呼吸や飲食で、必要なエネルギーを体外から取もり込んでいます。もしジャーランダ・バンダが開いている状態だと、せっかく体内で生んだエネルギーの熱が出て行ってしまいます。
この3つのバンダをコントロールすることによって、自分の体の中のエネルギーを守ることができます。とくにヨガの練習を行っている時には、体内で積極的にエネルギーを生み出しているので、バンダを使いながら練習することによって熱を失うことなく、疲れにくくなります。
1:ウディーヤナ・バンダ
ウディーヤナとは「飛翔・飛ぶ」という意味です。このバンダを実践すると、プラーナ(生命エネルギー)がスシュムナー気道を登っていくことからこの名前が付いたそうです。
ウディーヤナ・バンダの実践では、お腹を引っ込めるだけではなく、胸の方に引き上げます。
ヘソの下から上に至るまで、腹部をひっこめる。このウディーヤナ・バンダは死神である象を追いちらすライオンのようなものである。(『ハタヨガ・プラディーピカ』3章57節)
日本では、丹田の位置と説明されることが多いです。ウディーヤナ・バンダを行うことで、身体全体のバランスが良くなって姿勢を楽に維持できるようになります。
お腹を深く凹ませるウディーヤナ・バンダの練習は空腹時にしか行えませんが、浅いウディーヤナ・バンダはあらゆるアーサナや歩くときなどにも実践でき、自分の身体をコントロールしやすくなります。
ウディーヤナ・バンダの効果
ハタヨガ教典の中に書かれているウディーヤナ・バンダの効果には以下のものがあります。
- 老人になっても若々しい
- 死に打ち勝つことができる
- 解脱が自然に起こる
ウディーヤナ・バンダは象に打ち勝つライオンのようなものだと言われます。ウディーヤナ・バンダの練習では内臓を引き上げ、下に流れがちなアパーナを元の位置に戻します。
消化の火を起こし、必要な場所に循環させる効果があるため、人は死や病から打ち勝つことができるのかもしれません。
また、ウディーヤナ・バンダによって解脱(サマディ)が起こるとされますが、それはスシュムナー気道の中をプラーナが自由に上昇するからです。
ウディーヤナ・バンダの効果は、ムーラ・バンダと一緒に行うことで強まります。
2:ムーラ・バンダ
身体の土台の部分にあるバンダは、ムーラ・バンダです。
かかとで会陰部を圧して肛門を収縮し、アパーナの気を上方へ引き上げるならば、それはムーラ・バンダと呼ばれるムドラーである。(『ハタヨガ・プラディーピカ』3章61節)
アパーナ気は排泄や生理、生殖をつかさどるエネルギーであって、下向きに流れています。ムーラ・バンダでは、アパーナ気を上向きに上昇させることによって、体内のエネルギーが外に出ていくのを防ぎます。
ムーラ・バンダの効果
ハタヨガ教典に書かれているムーラ・バンダの効果です。
- 排泄の回数が減って若返る。
- アパーナ気が腹部(マニプーラ・チャクラ)の炎に達して火を長くする
- クンダリー(潜在エネルギー)がスシュムナーの中を昇る
ムーラ・バンダによって新陳代謝が向上するため、排泄の回数が減るのではないかといわれています。また、消化系や生殖系の病気に効果があると考えられています。
ムーラ・バンダを行うとウディーヤナ・バンダと一緒に締まることを感じる方もいると思います。土台であるムーラ・バンダを締めて引き上げると、アーサナが非常に安定します。
3:ジャーランダ・バンダ
喉を引きつめて、心臓の部分にしっかりとアゴをつける。これがジャーランダ・バンダと呼ばれるバンダであって、老いと死をなくす。(『ハタヨガ・プラディーピカ』3章70節)
深くジャーランダ・バンダを行うときには、しっかりとアゴを胸元につけて締め付けますが、アーサナの時などにはウジャーイー呼吸を行うことで適度にジャーランダ・バンダが閉まり、体内で生み出したエネルギーが外に出ていくのを防ぐことができます。
ヨガのアーサナの練習でエネルギー不足を感じる人は、ジャーランダ・バンダを意識して呼吸すると効果を感じやすいです。
ジャーランダ・バンダの効果
ハタヨガ教典に書かれているジャーランダ・バンダの効果です。
- アムリタ(甘露)をせき止める
- 喉の疾患を無くす
人の生命の源であるアムリタ(甘露)は、喉元から腹部に落ち、炎の源となります。このアムリタが切れてしまうと人は生命を維持できません。
ジャーランダ・バンダを締めることによって、アムリタが腹部に落ちて燃えつくされるのを防ぐことができます。よって、ジャーランダ・バンダを行うことでも老いと死を克服することができると信じられています。
また、バンダで左右の起動を止めることによって、中央のスシュムナー気道が活発になります。
3つのバンダを同時に行うバンダ・トラヤ(マハーバンダ)
ウディーヤナ・バンダ、ムーラ・バンダ、ジャーランダ・バンダの3つを同時に行うことをバンダ・トラヤと呼びます。
肛門を収縮してウディーヤナをなし、イダーとピンガラの両方をとじて、気をスシュムナー気道に導く。
この方法によって、気はラヤ状態に達する。その時には死も老も病も起きない。(『ハタヨガ・プラディーピカ』3章74-75節)
肛門を収縮するとはムーラ・バンダを意味します。ムーラ・バンダの正確な位置は肛門よりも少し前の位置にありますが、ヨガのクラスでは初心者に対して肛門を閉めることを意識するように指導することが多いです。
イダーとピンガラの両方の位置をとじるというのはジャーランダ・バンダを意味します。イダーとピンガラは左右の鼻孔から繋がっている2つのナーディです。この2つの気道を止めることによって中道のスシュムナー気道が活発になります。
サマディを実現するバンダ・トラヤ(マハーバンダ)
ラヤとはサマディ(三昧)の別名です。マハーバンダを習得することによって、体内の潜在能力であるクンダリーが覚醒し、中央のスシュムナー気道の中にプラーナが流れ、人間の超自然能力が発揮できるようになります。
そのようなラヤ状態では、心の中のあらゆる思念は消え、本来の自分の姿を知ることができます。
このバンダ・トラヤは、いにしえの偉大な大使たちが行じられたところの最勝のバンダであって、すべてのハタ行法の完成をもたらすものであることを、ヨーギーたちは知っていた。(『ハタヨガ・プラディーピカ』3章76節)
3つのバンダを完璧に行うためには、アーサナやプラーナヤーマの鍛錬が必要になります。バンダだけで解脱に到達するのは難しいでしょうが、この一文でどれだけバンダがヨガの実践において大切なものかが分かります。
バンダを意識すれば、ヨガは深まる
バンダは筋肉の収縮とは違うので、最初は感じることができない人もいるかもしれませんが、日々のヨガの練習でバンダの位置に意識を向けることによって、少しづつ感じられるようになってきます。
練習の最初は、ウディーヤナ・バンダではお腹を凹ませること、ムーラ・バンダでは肛門を締めること、ウディーヤナ・バンダでは喉をアゴに付けるところから始まります。
練習が深まると、特定のアーサナを行っていなくてもバンダを感じることができるようになります。バンダをうまく使えば、身体の中のエネルギーが上手く循環するのを感じることができるでしょう。