座って胸の前で合掌をする人

「オーム・シャンティ」マントラを3回唱えるのはなぜ?

ヨガのクラスの最初と最後には、「オーム・シャンティ」という短いマントラを3回唱えることが多いと思います。なんで3回なの?という質問を抱く人もいますよね。

マントラを唱える回数が3回である理由には、様々な説があります。

今回はヴェーダンタ哲学で説かれる、3回のオーム・シャンティの意味をご紹介します。

オーム・シャンティの意味

オーム・シャンティは、オームとシャンティの2つのマントラの組み合わせです。

オーム:宇宙(ブラフマン)を表す聖音、完全な至高の状態
シャンティ:平和・平穏・幸福

オームシャンティの意味
ヨガでは常にシャンティな状態を目指します。シャンティという幸福は、快楽とは対照的な幸せのかたちです。快楽とは一時的で条件のある喜びです。

私たちの心はいつも外の世界の情勢に影響を受けて感情的になりがちです。感情の働きは時に大げさに喜び、時に深く嘆きます。だからヨガでは、一喜一憂するあらゆる感情の波を穏やかにしようと試みます。

喜びや楽しみの感情はポジティブなものだと考えられがちですが、特定の対象に対する「好き」という感情は、「嫌い」という感情も生んでしまいます。

高級なチョコレートを頂いたらすごく美味しくて幸せを感じることができても、そのチョコレートを食べきってしまった後に普通のチョコレートでは満足できなくなってしまったら、結果的に不幸かもしれません。

条件がなく、いかなる時でも穏やかな心を保つことで、途切れることのない喜びであるシャンティ(平穏)を手に入れられると考えられています。今の状況に幸せを感じながら、それを失ってしまっても変わらずに幸福であることを学びましょう。

形のあるものは全て無常であるため、いつか必ず手放さなくてはいけません。たった一つ変わらない真実は、自分自身の内側の幸福だけであるとヨガでは説きます。

3回のシャンティは3つの苦悩を取り除くために

シャンティ、つまり「平和」とは問題や苦悩がない状態を意味します。

どうして3回マントラを唱えるのか?という質問には諸説あり、様々な説明を聞いたことがある方もいるかもしれません。

インド思想の土台となるヴェーダンタ哲学では、世の中の苦悩は3つに分類することができると考えます。その3種類の苦悩を取り除くことによって平和な状態、幸せな状態に到達することができるため、シャンティを3回唱えると説かれます。

3種類の苦悩とは?

1.自分自身で作る苦悩:
幸せになるためには、自分自身で作り出す苦しみを取り除く必要があります。私たちが直面する苦悩は、自分の心が原因になっている場合が多くあります。例えば人間関係。

自分にとって最も身近な家族関係が上手くいっていないと大きな悩みになりますが、自分自身の考え方や言動を変えることによって、対人関係がとてもよくなることは多々あります。

家族と喧嘩ばかりしているのであれば、自分から「ごめんなさい!」と思い切って謝ってみるのも手です。家族との関係は勝ち負けではありません。どちらが正しいかジャッジすることよりも、一緒に楽しく過ごせる方法を考えた方が良いですね。

また仕事などの悩みで、逃げ道がないと思っていても、それは思い込みであることが多いです。まずは心を平和で冷静な状態に整えることで、人生の多くの悩みを解消することができます。

自分自身の内側が平和で幸せになれば、その幸せは自分の周りにも伝わっていきます。まずは自分自身の平和を祈って、自分で作り出す苦悩を取り除きましょう。

2.他人による苦悩:
自分には責任のない他者によって生み出された苦悩。子供が学校に行っている時に大きな怪我をしたなど、自分が気を付けていても回避できない苦しみもあります。ストレスを抱えている他人からの八つ当たりで、攻撃的な態度をとられる場合もあるでしょう。

だから、2つめのシャンティは他者のために唱えます。自分にとって好きな相手も苦手な相手も、周りの人が苦しむことなく、シャンティな状態であることを祈りましょう。

3.災害による苦悩:
人の努力では避けることができない苦しみ。主に、自然災害や事故が3つ目の苦しみです。予測できる限りの災害に対する対策は大切ですが、必ず安全ということはあり得ません。

3つの苦悩のイメージ図

3つ目のシャンティは、「これらの災害から守ってください」という意味を込めてシャンティを唱えます。世界全体の平和を祈ります。

マントラを唱えることの効果

ハタヨガやタントラでは、音はプラーナ(生命エネルギー・気)波動だと考えられています。また、私たちの体や心もプラーナの振動によって生命活動を行っています。

つまり、純粋な波動をもった音を唱えることによって、心も体も純粋な状態に整うと考えられています。

マントラはサンスクリット語(梵語)というインドの古い言葉でできています。ヴェーダ経典などの天啓文学(神からの言葉を記したもの)もサンスクリット語で書かれており、神の言葉と考えられることもあります。

日本で有名な仏教の般若心経なども、元々はサンスクリット語で書かれていました。

このサンスクリット語のマントラは、とても純粋な音の波動を持っているため、意味を理解していなくても効果を得られると言われています。しかし、できるだけ意味を理解することで、さらにマントラの効果は高まります。

オーム・シャンティのマントラを唱える時には、そのマントラの意味する平和の響きに心を集中しましょう。自身の心を穏やかな状態に導くことができます。

平和とは内側にあるもの

マントラは古代ヴェーダの時代からインドに伝えられてきたものであり、様々な宗教的儀式で使われてきました。

現在でもヒンドゥー教のプージャ(儀式)でマントラを唱える時には、音の力によって物質世界を変えようと試みます。例えば、病気や災害などの障害を破壊したり、金運や学業の成功を招くために、それらの力を持った神や超自然的な力を操ります。

同じインド発祥でもヨガのマントラは対照的です。常に自分の内側のエネルギーに訴えかけます。もしも自分の内側を平和に変えることができれば、外の世界のあらゆるものの影響を受け取らなくなります。

ヨガのアーサナの練習の最初にオーム・シャンティのマントラを唱えるのであれば、その音が自分の内側に沁みわたっていくことを感じましょう。身体も心も穏やかにリラックスしている状態であれば、アーサナの効果もより深く受け取ることができます。

また、クラスの最後にオーム・シャンティを唱える時には、ヨガの練習で育てることができたシャンティな心を広げるイメージを持てると良いでしょう。

ヨガのクラスの中で幸せを感じることができれば、それを自分の生き方に活かすことでヨガの効果は何倍にも高まります。穏やかでいようと思っていても、日常生活である職場や家庭では、ついつい感情的になってしまうかもしれません。

しかし、それに気がついて、自分の心を客観的に観察することができれば、必ず心は変わっていきます

心を込めてオーム・シャンティを唱えましょう

なんとなく、穏やかで美しいからと唱えていたマントラも、意識して唱えることで潜在意識に深く刻み込むことができます。

最初のオーム・シャンティは必ず自分自身に向けて、自分を大切にすることを意識しましょう。ヨガは自分に意識を向けるアプローチなので、一見セルフィッシュなものに感じてしまう方もいるかもしれません。

しかし、まずは自分自身が変わらないと周りを変えることはできません。自分自身を大切にすることで、平和な幸せは少しづつ広がっていくのではないでしょうか。