呼吸から考えるヤマ、ニヤマ1

ヤマ・ニヤマを呼吸から考える

呼吸が整うことで生まれるいい循環

呼吸について説明する時、プラーナを抜きにして語ることはできない。人は無形の魂と有形の肉体から成り、プラーナは魂と体を結びつけてくれるエネルギー。プラーナが流れることで体が動き、プラーナがなければ肉体は動かない。

だから、プラーナの巡りを適切な状態に保つことは重要なことだ。ヨガにはプラーナーヤーマという技法があるように、プラーナの質を呼吸で変えることができる。心地よくてポジティブな呼吸は、人を内側からも外側からも変えてくれる。

八支足では最初にヤマ・ニヤマがあり、その後にアーサナ、プラーナーヤーマが続く。ヤマ・ニヤマを意識した生活をすることで、心が安定し、結果的に呼吸が安らかになり好循環が生み出される。

せっかくヤマ・ニヤマを行うなら、正しく取り組んで、自分の中にいいものを育てたい。呼吸は生きている証拠で、命そのものと深いつながりがある。呼吸の質を高めることは生きることそのものの質を高めること。今回は、八支足の基本であるヤマニ・ヤマについて呼吸の視点から考えていこう。

【ヤマ】

ヤマは禁戒と訳されることが多い。人や社会に対してやってはいけないこと、他者への行為をよくするための自制だ。一見、人のために避けるべきことを掲げているかのように見えるが、実はそればかりではない。

本来の目的は、自分の心の平常さを保つための人に対する心の持ち方なのだ。まさに“情けは人のためならず”。社会で暮らしている私達は自分のことだけ考えて生きていくことはできない。

人とのかかわりや社会の中で自分の基盤である日常生活がしっかりしてこそ、気持ちのいいヨガを体験できる。こだわりすぎてもかえって、息苦しくなる。ヤマを正しく実践するとはどういうことか、呼吸の視点から読み解いていこう。

アヒンサー:体にも呼吸に対しても非暴力

アヒンサーは、最低限の機能的な呼吸に必要な条件だ。アーサナを通して体を痛めてはいけないように、苦しい呼吸をすることは体によくない。それは呼吸への暴力とも言える。

呼吸を無理やりコントロールせず、尊重してあげよう。穏やかな人の呼吸は周りの人の呼吸も自然に落ち着かせることができる。

サッティヤ:言葉で嘘はつけても、呼吸は嘘をつかない

人はだませても、自分はだませない。嘘がバレるかもしれないという心配から呼吸が短くなり、焦って呼吸が乱れる。それを無理やり長くしようとすると苦しくなる。

だから、無理に作ろうとしたり、よく見せようとしたりしなくていい。苦しいくらいなら、最初から嘘はつかないに超したことはないのだ。

アスティーヤ:ちょっとしたネガティブ思考が実は人の呼吸を奪っている!?

自分のものではないものは取ってはいけない。モノしかり、時間しかり、自由しかり。しかし、人は人の呼吸を奪っていることがある。

人を不安にさせたり恐怖心を与えたり人の自由を奪う行動だ。呼吸を通じて相手に伝わり、相手の呼吸をも奪ってしまう。そうならないためには相手の価値を認め、お互いの空間を保つようにしたい。

アパリグラハ:自分の身の丈を知ることが、安定した呼吸を保ってくれる

たとえうれしい報酬であっても、自分が従事した仕事以上に報酬を受け取ると、相手とのしがらみができてしまう。すると自分の自由がなくなり、息苦しくなる。

自分の力量以上に仕事を引き受けると、こなしきれずに呼吸がツラくなる。自分の限界を知って、受け入れる度量を見極めておこう。呼吸がバロメータになってくれる。

ブランハチャリア:パートナーとの信頼関係には整った呼吸が必須

本来、禁欲と訳されるが、社会に生きる私達は家族を作ることも使命の一つ。大事なのはパートナーとの信頼関係だ。浮気をすると見つかることが心配で呼吸が乱れる。乱れた呼吸は相手に伝わり、二人の関係性を壊していく。

パートナーとの間に築いた信頼は呼吸を安定させ、自由と落ち着きが芽生えてくる

【ニヤマ】

ニヤマは、勧戒、自らに課した戒律、するといいことを意味している。誰しも、心地よく生きたいと思う。しかし、どんな過ごし方をしたらいいのかわからない人が多い。または、心地よさにこだわるあまり、不自由さや不便さを感じることもあるだろう。

自由や心地よさは、どこでもいつでも感じられるものではあるが、一方で、手にするのが難しいものでもある。なぜなら、心地よさだけを求めて暮らしていたのでは、心地よさに気づけないからだ。

心地よさを探しに遠くへ旅に出ても必ず見つかるものではない。心地よさは自分の中にあるのである。ニヤマは呼吸を通して五つのポイントを教えてくれる。

シャウチャ:清らかさか、雑念かどちらとつながるかは自分で選べる

ハートの中の清らかな場所とつながるように呼吸をしよう。少なくともマインドの中で清らかでないもの、ねたみや競争心などとはつながらないないように。

清らかなものとつながっている時、人の心は純粋性を取り戻す。好みや善悪にとらわれず、世界をありのままに見ることができる。

サントーシャ:今の自分に満足すると、呼吸は落ち着く

人は満足心を覚えない限り、もっともっとほしくなる。常に何かを求め続け、欲望で心は休まらないから、呼吸が荒々しく、決して心地よく感じることはないだろう。

だが、一度満足することを覚えるとハートが自由になって、呼吸が楽になる。自分にとって必要なことがわかるはずだ。

タパス:ストレスでかたまった心と体を、ポジティブな呼吸で解消

金の中に不純物がある時、熱を加えると不純物が離れていくように、心と体の中においても適度な熱を与えると毒を取り除くことができる。

社会ストレスは心と体に不純物を作る要因。ストレスを消し去ることは不可能だが、気持ちよい呼吸をすることで不純物を取り除くことができる。合理的に毒を取り前に進む熱をくれる。

スワディヤーヤ:自分の内側はすべて呼吸に現れる

呼吸は鏡だ。自分の内側にあるものが全部、呼吸に表れる。例えば、鼻から音を出すウジャイー呼吸をして、ただ呼吸の音を聞いていよう。自分がどこにいるのかだんだんわかってくるはず。

人は外見や形、色など表面的なものとつながりやすい。しかし、呼吸の音を通じると、内側の奥深くともつながることができる

イシュヴァーラプラニダーナ:特別なものを感じながらする呼吸は自分を変える

神性とつながりを深めること。インドでは呼吸は神からもらったギフトとされている。どれくらい呼吸が大切なものなのかを思い出して、感謝、愛、思いやりなど自分にとって何か特別な物を感じながら呼吸をしてみよう。

すると、プラーナが別次元のものになる。生命を守るプラーナがより正しく方向づけられる

文=Yogini編集部

教えてくれた人=Chaki
ちゃき。近代ヨガの源とされるクリシュナマチャリアの教えを長年学び指導している。クリシュナマチャリア師のご子息とお孫さんから直接指導を受ける。藤沢・鵠沼海岸にて自然を感じながらヨガを学べるヨガスタジオジョーティ主宰。http://www.healingyogajapan.com/jyoti