普段の呼吸とヨガにおける呼吸
生まれた瞬間から、誰に教わるわけでもなく、絶え間なく続けている呼吸。意識せずに繰り返しているからこそ、鼻が詰まってやっと、普段の呼吸の楽さに気付いた、なんて経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
ヨガで呼吸は「プラーナ」といい、この言葉は「生命のエネルギー」という意味も持ち合わせています。ヨガの呼吸は「プラーナ・ヤーマ:プラーナをコントロールして巡らせること」で体内のエネルギーの流れと質を変えていくことができると考えられています。
この考え方が、普段何気なくおこなっている呼吸とヨガにおける呼吸との大きな差ではないでしょうか。
つまり、ヨガでアーサナを取ることに一生懸命になりすぎて、呼吸が止まってしまっては、せっかくアーサナをとっても、プラーナは循環させられないということになります。
呼吸の仕組み
それでは呼吸はどのような仕組みで行われているのでしょうか。肺は胸郭に存在する袋状の一対の臓器です。肺自体に筋肉はないので、肺そのものが膨らんだり縮んだりしている訳ではありません。
息を吸う時には、筋肉により胸郭が広がることで受動的に肺に空気が入ります。また息を吐く時には、筋肉の作用で胸郭が小さくなることにより、空気が押し出されます。
この胸郭の体積の変化に必要な筋肉を総称して「呼吸筋」と呼びます。
浅い呼吸の弊害
肺活量(思い切り吸って吐いて換気できる量)は成人男性で約3500cml、成人女性で約2500mlあるのに対して、一回喚起量(普通の呼吸で換気される量)は男女ともに約500ml程度です。
自然な呼吸に対して、深呼吸ではよりたくさんの空気を換気できていることは実感いただけると思います。
つまり、普段の呼吸だけでは、そもそもごく一部の呼吸筋しか使われていません。さらに生活の中で、大きく体を動かすことも少なく、小さい画面に集中したりすると、呼吸はどんどん浅くなりがちです。
同じ姿勢で同じ呼吸筋しか使わず生活をしていると、使われていない呼吸筋はどんどん凝り固まり、さらに浅い呼吸になってしまうという悪循環が起こります。
アーサナで呼吸筋に刺激を
肺を広げて空気を取り込むのは筋肉の力です。
普段の姿勢ではなかなか使われない呼吸筋に刺激を与えるためにもヨガは有効です。例えば体側を伸ばすようなポーズで呼吸をすると、縮んでいる側よりも、伸ばしている側の肺が広がる感覚を得やすいと思います。
このように、ポーズによって空気が入りやすい場所を変えることによって、普段の姿勢では使われにくい呼吸筋にも刺激を与えることができます。
この呼吸筋への刺激の観点からも、ヨガをする時は、ぜひ呼吸を止めずにおこなっていただきたいです。
ヨガで呼吸筋を柔軟に保つことで、マットの上にいない時間も、深呼吸などでプラーナヤーマができるようになります。日頃から意識して呼吸をすることで、何か新しいエネルギーが生み出されるかも知れませんね。
参考資料
- アン・スワンソン著、プレシ南日子、小川浩一 他訳『サイエンス・オブ・ヨガ』株式会社西東社、2019年
- 中村尚人著『体感して学ぶ ヨガの生理学』株式会社BABジャパン、2017年