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ヨガと太陽はとても関係の深いものです。例えば、アーサナの練習に欠かせないスーリヤ・ナマスカーラも太陽への礼拝という意味ですね。
ヨガを行う人にとって太陽とはどのような存在なのでしょう?また、太陽の性質である火の大切さとは。古代インドの人の太陽を崇拝する気持ちから学んでみましょう。
古代の太陽神スーリヤ
スーリヤは古代からとても重要視されている太陽神です。ヨガを行っている人はスーリヤ・ナマスカーラ(太陽礼拝)という名前を聞いたことがあると思います。
太陽とは、全てのエネルギーの根源だと考えられています。太陽の光が大地に降り注ぐことによって植物が芽吹き、その植物を食べた動物や人はエネルギーを受け取って活動します。
人々は力が欲しい時に太陽に祈りを捧げますが、太陽のエネルギーを物理的に個人にもってくることはできません。だからインドでは太陽の性質である火を使って太陽に向けた儀式を行います。
火を使った儀式は、生まれた時、新しい家を建てる時、人が死んだ時など、人生の中のあらゆる始まりと終わりの時に行います。そのためインドでは、ヨガのトレーニング・コースでも「卒業」という終わりの時に火の儀式を行うことが多くあります。
ヨガの実践で太陽のエネルギーを受け取る
スーリヤ・ナマスカーラ(太陽礼拝)では、身体全体を使って太陽への礼拝を行います。太陽の特徴である「活動」のエネルギーを上げるため、朝に行うと効果的です。
太陽のエネルギーが身体全体に巡るようなイメージで実践すると良いでしょう。
また太陽神へ向けたガヤトリー・マントラは、エネルギーを上げてくれるマントラで、ヨガを実践する人にもポピュラーなマントラです。
tat savitur vareṇyaṃ(至高のサヴィトリ(太陽神)を崇拝し奉る。)
bhargo devasya dhīmahi(輝く光、神聖な存在に瞑想します)
dhiyo yo naḥ pracodayāt(叡智によって、その光が私たちに真知を与えてくださいますように)
ガヤトリー・マントラに出てくるサヴィトリとは太陽神スートラの別名です。
マントラを唱えることによって、太陽の光が私たちに降り注ぎます。その光は私たちの人生を照らし、苦悩を生み出す暗闇を消し去ってくれると考えられています。
火の神様アグニは身近な存在
インドでは火の神様、または火そのもののこともアグニと呼びます。古代からインドでは火はとても重要なものとして考えられていました。そのため、神様に祈るためのプージャ(祭祀)では必ず火を使った儀式を行います。
アグニは火のあらゆる属性を神格化したものです。例えば、天にあれば太陽、空中にあれば稲妻、地上では祭祀に使う炎や、食事を調理する炎にもなります。
アグニは人間の内側にも存在します。例えば、消化の炎(食物を消化する力)となり、怒りの炎(感情)、思考の炎(考える力)となります。
人間を含む、自然界に存在する全ての動植物はアグニなしには活動を行うことができません。アグニはとても重要な神だと言えます。
純粋さを司る聖なる炎
火は嘘をつけない純粋さ、清らかさの象徴としても知られています。そのため古代のインドでは、身の潔白を証明するために火の中を歩くようなことも行われていました。
有名なのは叙事詩『ラーマーヤナ』の中で主人公の妻であるシーターです。敵であるラーヴァナにさらわれたシーターは無事に奪還されましたが、拉致されていた期間の貞操を国民から疑われてしまいました。
シーターは自身の身の潔白を証明するために炎の中に入りましたが、嘘をつけないアグニはシーターを守りシーターは無事でした。そしてシーターとラーマは夫婦に戻りました。
火(アグニ)のエネルギーを使うヨガの実践
ヨガを行う人にとっての火とは、自身の内側の不純性を燃やすものです。
例えば消化です。人は食物を食べた後に胃で消化して自身に栄養を取り込みます。しかし、消化の炎が弱いと、未消化のものは毒素(アーマ)となって体内に残り、身体の不調の原因になります。
ヨガでは体内のエネルギーの流れが正常に行われないといけないので、この不純性を燃やすためにアーサナやプラーナヤーマなどを実践します。
体内のアグニを強めるプラーナヤーマ
呼吸の練習で有名なカパーラ・バーティは、日本では「火の呼吸」と呼ばれることが多いです。
お腹を大きく動かしながら素早く連続して呼吸を行うカパーラ・バーティは、内臓をマッサージし、腹部の筋肉も強化することで消化の力が強まります。また、体内の不純性が燃やされることで気持ちが爽快になり、視界も明るくなります。
精神的な不純性を燃やすタパス(苦行)
直接的に「心」に働きかける実践ではタパス(苦行)があります。タパスは直訳すると熱行という意味です。タパスの実践では、自分の心の中のアグニ(意思の強さ)をもって不純性を燃やしていきます。
- 自分に対しての誓いをたてる(例:毎日早朝に瞑想をする)
- 実践する
- 心の中に障害が生まれる(例:睡眠不足だと仕事に支障がある)
- 障害に打ち勝って実行することで、心が磨かれる
タパスの実践によって不純性が除去され、身体と感覚の超自然能力が生ずる。(ヨガ・スートラ2章43節)
『ヨガ・スートラ』によると、タパスの実践によって超自然的な能力が発現します。通常、人は様々な心の中の不純性によって自分自身を制限してしまっています。しかしタパスの実践によってそのような思い込みを取り除くことができ、本来の自分の能力を発揮することができます。
体内の火が宿るマニプーラ・チャクラ
人間が活動するためのエネルギーは全て太陽から与えられたものだとインドでは考えます。その体内の火が活発に燃える場所は、お腹の位置にあるマニプーラ・チャクラです。
このマニプーラ・チャクラにエネルギーが正常に流れなくなると不調の原因となります。特にエネルギー不足による消化不良、倦怠感、だるさ、精神的な鬱っぽさは体内のアグニが弱まることによって起こります。糖尿病をはじめとした生活習慣病もですし、怠け心が出てやる気が起きない精神状態も同様です。
これらの症状の改善にはマニプーラ・チャクラを刺激することが有効です。
マニプーラ・チャクラを活発にするためのマントラは”Ram”です。また、アーサナで物理することも有効。身体をねじるようなポーズや、前屈系のポーズ、ウディーヤナ・バンダやすでに紹介したカパーラ・バーティも最適です。
ヨガの実践で体内外のアグニを取り入れる
全てのエネルギーは太陽から与えられるとインドでは考えられています。
エネルギーは呼吸や食事によって体の中に入り、お腹の位置にある炎を燃やし、私たちが活動するために使われます。今この瞬間に活動しているのも、食事などによって体内に取り入れた太陽のエネルギーのお陰です。
人にとって太陽の光を浴びることはとても大切なことです。自宅にこもる時間が増えたとしても、朝焼けや夕日を窓から眺めることができます。日の出や夕焼けの時間は太陽のエネルギーがとても高まる時間です。
アーサナなどの実践をするときにも、意識の向け方を変えることによって、太陽のエネルギーを感じることができます。太陽の光をいっぱいに浴びた野菜を頂くときも同様です。
自然から与えられたエネルギーに感謝しながら生きることで、自分自身も自然の一部だと感じやすくなるのではないでしょうか。