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インストラクターの悩みの種を解決
ヨガインストラクターの大きな仕事の一つであり、また頭を悩ませることの一つ、シークエンス作り。毎回同じものばかり提供していては飽きられてしまうし、強度や流れがスムーズか、など配慮すべきポイントがたくさんある。
今回は、何となく気持ちいいシークエンスではなく、人生観まで変えてしまう⁉︎ クリパルヨガ流、シークエンスの極意をご紹介。
受け身ではない、主体的体験を創造する
「いいクラスだった」という声が聞きたくて、毎度、目新しいシークエンスを練り、生徒の反応に一喜一憂している。そんな経験をしたことがあるインストラクターも多いはず。 でも冷静に考えれば、それはいったい何のため? ここで改めて、シークエンス作りの意図を考えてみよう。
ヨガの実践において、体の土台、アライメント、呼吸を整えることは大切なこと。しかし、技術面だけにフォーカスすると、私達の意識はそれが達成できたかどうかという成果にとらわれてしまう傾向がある。
では、クラス作りを考える上で、一番大切なことは何だろうか? それは生徒が自分の意志で、自分自身に今起きている体験に向き合ってもらうことだ。
つまり、インストラクターが知識や技術を一方的に伝えていくクラスではなく、生徒が自分の変化に興味を持ちながら、生徒一人ひとりがそれぞれ違う体験をしてもいいという、個人の体験を尊重した学びの場を作ること。
ヨガの自己探求を通じて、人生を前向きに歩む勇気や自信、人生の舵を取るための力を自ら得てもらえたらいい。これが、ティーチングの根幹になる考え方だ。このようなシークエンスを作るためのコツをここからは具体的に学んでいこう。
自分のクラスに自信を持つためにできること
Tips1
どんな意図を持ってクラスをデザインするかを考える
ヨガの目的は「チッタ(心)の動きを静めることであり、それによってプルシャ(真我)は本来の状態にとどまる」と、ヨガの教典『ヨーガスートラ』に書いてある。
あっちこっちに動き回る心を日常から切り離し、「ディヤーナ(集中が深まっている状態)」を継続させるには、心と体の状況、集中が深まる段階をいくつかのセクションに分け、それらスムーズに展開されるクラスの構成を考えたい。
そして、ヨガに没頭できる環境作りも大切。インストラクターは、クラスを安全に進行させるファシリテーターのような存在。何かしてあげなきゃいけないと、強く思うあまり、生徒の自己探求の芽をつんでしまわないように。自分で気づく力があることを信じてあげよう。
Tips2
“今の自分”を確認するためのセンタリング
クラスに来た生徒の頭の中は、なかなか落ち着かず、ざわざわと忙しい。そこで、クリパルヨガでは、先へ急ぐのではなく、まずは今の自分の状況を探り、意識を内側に向ける「センタリング瞑想」を最初のステップとして行う。
1〜2分の短い時間の中で、自分の内側に集中し、呼吸や体に意識を促し、今の自分がどういう状態にいるか、何を目的にこのクラスへ来たのか、客観的に自分を観察していく。生徒が自分の内側を探求することに興味を持つと、練習することのモチベーションや決意、意図にもつながっていく。
「させられている」という受け身ではなく、自分が自分をしっかりコントロールしている主体的な体験は、重ねていくことで自信につながり、その人の力を引き出すことになる。
Tips3
「トランジション」を意識して集中を途切れさせない!
「トランジション」とは「移行」のことで、クラスの流れをスムーズにする役割がある。例えば、いきなりポーズを始めるより、呼吸を整え、体をウォームアップしてからポーズに入ったほうが、体も心も落ち着き無理なく入れる。
このトランジションがスムーズであれば、生徒は内面に集中した状態を維持しながら、さらに微細な領域へ意識を向けることができる。逆にトランジションがぎこちないと、そのたびに心が動き、自分の体験に止まることができない。つまり、自分の意識が離れて自己探求は深まらなくなるのだ。
生徒が体験に止まり、集中し、さらに微細な領域へと注意を促せるかどうかは、指導者が作り上げるスムーズなトランジションが重要な鍵となる。
Tips4
アシストやプロップスで普段と違う体験を引き出す
プロップスを使用することや、ポーズのアシストを行う目的は、安全性を考慮することに加え、普段と違う体験をしたり、生徒の中にある力を引き出すためでもある。
では、より豊かで深みのある体験をするには、どう体を動かしたらいいか。ここで言うアシストは、ポーズを直すことが目的のアジャストとは違い、生徒に気づきを促すためのもの。
だからこそ、生徒のアシストに入る場合は、軽く触れる程度でいい。声かけのインストラクションならば簡潔に行い、生徒の集中を途切れさせないように注意したい。
そして、ポーズの取り方にもいくつか選択肢を提供し、その選択によって体験が変わることを伝えるのも大切。生徒が自分の意志で自ら選択できる状況を作ろう。
Tips5
クリパルヨガ流基礎的なシークエンスの構成法とは?
普段のシークエンス作りの参考にもなる、クリパルヨガのクラス構成について簡単に説明する。
一般的なクリパルヨガのクラスは八つのセクションから構成されている。一つひとつのセクションが、次のセクションのトランジションになり、生徒の集中を途切れさせないスムーズな展開を行うための有機的な枠組みになっている。
1:オープニング:歓迎、自己紹介、クラス内容や注意事項の説明。
2:センタリング:1〜2分の瞑想。内面に注意を向け、今の自分を確認する。
3:呼吸法:プラーナをコントロールすることでチッタ(心)を集中させる。
4:ウォーミングアップ:体の動きからチッタをさらに内面へ向ける導入部分。
5:アーサナ:力強い土台とアライメントにより体を最大に開き、体験を十分に深める。
6:リラクセーション:②〜⑤のチッタによるコントロールを手放し、ゆだねる領域へ。
7:瞑想・統合:このヨガのクラスで何を得たか、体験を振り返り、統合する。
8:クロージング:感謝、マントラ(OM)唱和、あいさつ、次回の案内など。
すべてをまねする必要はないが、普段行っているクラスにエッセンスとして取り入れたら、より提供するヨガに深みが増すはず。ぜひ挑戦してみて!
また、教えてくれたクリパルヨガの認定講師である三浦敏郎先生の無料講義を明日Yoginiが主宰するオンラインサロンで開催予定。
オンラインで、どなたでも、どこからでも参加できるので、興味のある人はぜひ!
『Yogini』オンラインサロン
Yogini講義〜アーサナ編第二回〜
講師:三浦敏郎先生
日時:5/27(木)20:00〜21:00
参加費:無料
教えてくれた人=三浦敏郎
みうらとしろう。『クリパル・ジャパン』主宰。米国クリパルセンター公認ヨガ教師(500時間)、フェニックス・ライジング・ヨガセラピー公認セラピスト、ヨガアライアンス認定E-RYT500、鍼灸指圧師。1977年から米国農業研修や留学中にヨガやマクロビオティックなどのホリスティックな健康観に強く共感し、フロリダ州公認のオイルマッサージ師となる。その後、クリパルヨガアシュラムにてスワミ・クリパル師に出会い帰国。1981年より神奈川県西部を中心にヨガ指導を始める傍ら、鍼灸院を開設。1991年、クリパルヨガの創始者、アムレット・デサイ師来日の際にスタッフ及び通訳を務めたことが転機となり、公認クリパル教師となる。気づきのプロセスを重視したフェニックス・ライジング・ヨガセラピーの要素を取り入れ、参加者の体験から学びを導き出すメソッドで数々の集中コースをデザインする。クリパルヨガ教師トレーニングディレクター。
文=Yogini編集部