丘を背景に開かれた本とタイトル

「丘の家のジェーン」~11歳の少女が手に入れた自由で超然としたもの~

こんにちは、丘紫真璃です。今回は、L・Mモンゴメリの「丘の家のジェーン」を取り上げてみたいと思います。

モンゴメリといえば「赤毛のアン」を書いた作者として有名ですが、「丘の家のジェーン」の方はそれほど知られていないのではないかと思います。

けれども、「赤毛のアン」におとらず名作であり、現代の私達でも思わず引き込まれて一気に読んでしまうこと受け合いです。「丘の家のジェーン」を読めば、ジェーンが大好きになってしまうことでしょう。

それでは、ジェーンとヨガの関係を探しに、一緒にカナダへ向かいましょう!

丘の家のジェーンとは

「丘の家のジェーン」は1937年の作品です。モンゴメリが「赤毛のアン」ですでに有名になった後、作家活動の終わりごろに書いた小説ですね。

モンゴメリの作品はプリンス・エドワード島が舞台になることが多いのですが、「丘の家のジェーン」はトロントで物語が始まります。

モンゴメリ作品の少女たちはアンのような空想好きな少女が多い中で、ジェーンは空想好きな面はあるものの、アンよりもずっと実際的だということも、大きな特徴の1つでしょう。

モンゴメリは晩年、「丘の家のジェーン」の続編を書いていたようですが、完成しないまま亡くなってしまいました。「丘の家のジェーン」が非常に面白いだけに、その続編を読むことができないのはちょっと残念な気がします。

恐ろしい祖母の館

鉄の門と祖母のイメージ
主人公のジェーン・ビクトリア・スチュワートは11歳。

トロントのうららか街六十番地に住んでいますが、”うららか”街という名前にふさわしくない、大きいけれどものすごく陰気な屋敷です。

れんが造りの大きな城がまえの建築で、高い鉄柵に囲まれており、同じような背の高い鉄の門がついています。その門が閉ざして錠がおりると、ジェーンは「とじこめられた囚人のような気がする…」と物語の冒頭に書いています。

ジェーンは、このうららか街六十番地に、氷の女王のように冷たく恐ろしい祖母と、背が高く影のようで無口な叔母、美しい母と共に住んでいます。

ジェーンの祖母の恐ろしいことは、異様なくらいで、読んでいるだけでも身震いが起こるくらいです。

たった一度だけだが、ジェーンは町の一区画の半分を占めているほどに細長いこの家を一直線に玄関から裏まで、ありったけの声で歌をうたいながら駆け抜けたことがあった。ところが、外出していると思った祖母が朝の食堂からあらわれ、死人のような白い顔にジェーンの大嫌いな微笑をうかべながらじっと見た。

「この爆発行為の原因はなんですか、ビクトリア?」

その微笑よりもっと嫌いな絹のようななめらかな声で祖母はたずねた。

「面白半分に走っただけです」と、ジェーンは説明した。それよりほかに意味はなかった。

しかし、祖母は微笑し、祖母だけしか言えないいいかたで、

「わたしがあなたなら、二度とこういうことはしませんね、ビクトリア」

 ジェーンは二度としなかった。小さなしなびた祖母の威力のしからしむるところである。

(「丘の家のジェーン」)

周囲の空気までも凍らせるような静かな冷たい怒り方をする祖母のことを、ジェーンは恐れ、いつもビクビクしています。

えらそうな叔父や叔母、何でもよくできるツンとした従妹のフィリスも苦手だし、学校でも勉強もゲームも全くうまくできないため、どこにも身の置き場のない思いをしています。


ジェーンが好きなのは美人で優しい母だけ。けれどもその母は、祖母の命令でしょっちゅう外出をして着飾ってパーティ―に出かけているので、家にいることはほとんどありません。

母はもっとジェーンと過ごしたいようなのですが、弱気な母は祖母に逆らうことができず、いつでも祖母の言いなりなのです。

そんなジェーンの人生も、11歳の夏休み前に届いた一通の手紙で大きく変わることになるのです。

ランタン丘での目覚め

父親に花を渡す少女
ジェーンは自分のお父さんのことを長い間知りませんでした。祖母も、母も、ジェーンの父については何も語らなかったからです。

しかしある時、学校の友達から聞かされて、ジェーンは自分の父は生きており、プリンス・エドワード島にいることを知ります。

そして11歳の時突然、その父から「夏を過ごしに自分の下に来ないか」と手紙が届きます。

美しく優しい母を捨てた父なのだから、たいそう嫌な人物なんだろうと思いこんで、嫌々父のもとに出かけたジェーンですが、叔母の家で父と初めて対面した瞬間、父を憎んでいたということはすっかり吹き飛んでしまいました。

次の瞬間、ジェーンは抱き上げられ、キスされていた。ジェーンもキスを返した。知らない人という気は全然しなかった。肉親の間柄ということは関係ないかのような神秘な同一の魂の呼び声をただちに感じた。それと同時にジェーンはこれまで父を憎んでいたことを忘れてしまった。父はジェーンの気に入った。雑色のツイードの服にこびりついた煙草の匂いからジェーンを抱いている力強い腕にいたるまで、なにもかも気に入った。
「丘の家のジェーン」)

父もジェーンのことがすぐさま気に入り、2人は大の仲良しとなります。

下宿屋で暮らしていた父は、ジェーンと過ごすための家を買いに出かけ、2人はランタン丘で小さな家を買います。それは、見た瞬間に自分達の家だとピーンと来たくらい、父もジェーンもひとめで気に入った家でした。

その家で父と2人で暮らし始めたジェーンは、父のために喜んで家を切り盛りします。

生まれつき料理の素質があったジェーンは、めきめきと上達し、すぐにおいしい料理を作れるようになってしまいます。庭作りも今までしたことがないにもかかわらず、すぐにコツを飲み込んで覚えてしまうし、とにかくやろうと思ったことは何でも上手にできてしまうのです。

近所の人達は、そんなジェーンに親切で何でも知っていることを教えてくれますが、上達が早いジェーンに感心し、みんなジェーンに興味を持って好きになります。

ジェーン自身も、近所のみんなが大好きになってしまいます。

この新しい生活でなによりもジェーンが驚いていることは、いかにもぞうさなく人を好きになるということであった。(略)

この変化が自分にあることがジェーンにはわからなかった。そっけなかったり、おびえたり、おびえるためにぎこちない態度をとったりすることはもはやなかった。(略)

ジェーンは全世界に親しみをおぼえ、世界の方でもそれにこたえた。すべてのものを、すべての人をジェーンは趣味が悪いと叱られたりせずに、思いのまま好きになれた。

(「丘の家のジェーン」)

ジェーンは、ランタン丘で主婦をつとめているうちに、目覚ましい成長をしていきます。

世界を見る目が変わる

草花に包まれた幸せそうな少女
ランタン丘での素晴らしく楽しい夏が終わり、ジェーンは”嫌々”トロントに帰ります。大好きな母に会うのはうれしいけれど、うららか街六十番地での暮らしは憂鬱だからです。

ところが、嫌でたまらないはずの学校に再び通い出したジェーンは、自分が学校を好きになっていることに気がつきビックリしてしまいます。

今までは、学校でいつも取り残されたような、仲間外れのような思いをしていたのに、自分でもおかしいくらいそんな気持ちはなくなってしまい、友達も先生も、ジェーンに1目置くようになります。

恐ろしかった祖母の前でさえ、もうビクビクすることはなくなっていました。

祖母はジェーンがいろいろな点で自分の力の及ばないところに抜けだしてしまったので傷つけようと思っても傷つけられないことを感じた。祖母の面前では今でもジェーンの顔から血の気がひいてしまいはするが、そのためにもとのような意気地なさに戻ることはなかった。

ジェーンはランタン丘城の主婦役と、鋭い頭脳の円熟したインテリの話相手の役をひと夏ムダにつとめたわけではなかった。その淡褐色の目から新しい精神がのぞいていた。

ある自由な超然としたもので、祖母が服従させたいと思っても傷つけたいと思っても力のおよばないものであった。祖母のあらゆる毒の針をもってしてもこの新しいジェーンに触れることはできないように思われた。

(「丘の家のジェーン」)

トロントの環境が、前と変わったわけではありません。

祖母が恐ろしく意地悪なのは相変わらずだし、学校だって同じだし、えらそうな叔父や叔母、ツンとした従妹のフィリスだって、少しも変わったりはしていません。

それにもかかわらず、祖母が恐ろしくなくなり、学校が好きになり、えらそうな叔父や叔母、ツンとしたフィリスさえも好きになりはじめたのは、ジェーン自身の内側が変わったからでしょう。

父とランタン丘で過ごした夏で、ジェーンは自信を持ったのです。ランタン丘の主婦を見事につとめたという自信が、ジェーンをここまで成長させたのでしょう。

そしてまた、ジェーンがランタン丘の主婦を見事につとめることができたのは、彼女が料理や園芸の素質があったからということもありますが、何よりも父を喜ばせたいという思いがあったからであり、また父がジェーンをどこまでも認めてくれたからにちがいありません。

自分の心が変わったことで、世界を見る目が変わる…。それはヨガにも通じることではないでしょうか?

この世界では苦しいことでいっぱいだが、自分自身の心を変えるだけで、世界は驚くくらい変わってしまうとパタンジャリは言っています。ジェーンの得た「自由な超然としたもの」を手に入れるために、ヨギーはヨガの修行をするのです。

そして、ジェーンの目のさめるような成長ぶりが両親をも変えていきます。大好きな父と母がどのように変わっていき、3人が最終的にどうなるのかということは、実際に本を読んでいただく時の楽しみにしていただきましょう。

読めば、胸のすくようなジェーンの成長ぶりを絶対にお楽しみいただけます。最近ユウウツだという方、停滞ぎみだという方、「赤毛のアン」が好きだという方。ぜひ、「丘の上のジェーン」も読んでみて下さい。

参考資料

  1. 『丘の家のジェーン』(19602年:L・Mモンドメリ著/村岡花子訳/新潮文庫)