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自然、人間、社会、万物は、木、火、土、金、水の五つの元素からなり、一定の法則で互いに影響しあいながら、変化し、循環しています。
この考え方が、古代中国の自然哲学、五行説。
変わりゆく季節とともに、私達の心と身体は、自然界から大きな影響を受けているのです。
暦の上では秋、少しずつ全体の気が陰へと向かっていますが、まだまだ暑い日が続くので、陽も引き続き盛んに働いています。
東洋医学では、暑い時期は『心』に負担がかかりやすいとされ、五行の『火』に属する、『心』と『小腸』を整えることが、この時期の健康維持に繋がっていきます。
暑い季節に起こりやすい不調とは
このような症状が気になる方は、『心』の働きが弱くなっている可能性があります。
- 集中力が低下
- 物忘れがひどい
- 昼間眠い
- 眠りが浅い
- 下痢
このような症状が気になる方は、『心』の働きが強くなり過ぎている可能性があります。
- 興奮しやすい
- イライラする
- 異常に楽観的になる
- 異常に高揚感が高まる
- 動悸
- 息切れ
- 夜眠れない
『心』の不調は、『心』と表裏関係にある『小腸』に伝わり、下痢や排尿時の痛みなどを引き起こします。
東洋医学の視点で見る『心』と『小腸』の働き
現存する中国最古の医学書『黄帝内経』では、各臓腑の働きを当時の社会の役職に例えて説明しています。
『心』は『君主の官』
国を治める最高位の役職。王様であり、生命活動、精神活動の中枢を担っています。
全身に血液と栄養を運び、意識、思考、睡眠をコントロールし、体温や発汗の調節を行っているのが『心』になります。
五行の中に、精神活動を「魂」「神」「意」「魄」「志」という五つに分類した『五神』という考えがあり、『心』が「神」と関係しています。
『心』は第五胸椎の高さにあるとされています。
脊柱上の第5胸椎棘突起下方には『神道』、そして外側に『心兪』、『神堂』というツボが並んでいます。また、手首には、『心』の経絡の源となる『神門』というツボがあり、ツボの名前が『心』と『神』との深い繋がりを表しています。
『小腸』は『受盛の官』
胃から降りてきた飲食物を受け入れて、栄養を吸収し、さらに、小腸内で変化させ、清(栄養)と濁(身体にとって要らないもの)を分別します。
五行理論と『心』と『小腸』
五行の考え方では、『心』と『小腸』は、「火」「脈」「舌」「面」「赤」「汗」「喜」「笑」「苦」と関係があり、血液の循環、味覚の識別、話すことは、『心』の働きが関与しています。
また、「顔面」の色艶も『心』の影響を受けています。『心』は陽気によって、全身を温め、汗によって過剰な熱を放散しているため、『心』の機能が低下すると、異常に汗をかいたり、寝ている時も汗をかいてしまうなど、「汗」の異常が起こりやすくなります。
「喜び」や「笑い」は、『心』が血を送り出す機能に対して有利に働きますが、過剰な「喜び」は、『心』の機能を損ない、不整脈などが起こりやすくなるとされています。
「苦味」は、熱を取り去る作用があるので、暑い時期、適度に摂取すると、過剰な『心』の熱を取り除いてくれます。
また、『心』と表裏関係にある『小腸』は、『心』の温煦(おんく)という温める作用の影響を受けているため、『心』の過剰な熱も、『小腸』に伝わり、『小腸』の機能が低下してしまいます。
セルフケアに役立つ!『心』と『小腸』の経絡にあるツボ
それでは、それぞれの経路とセルフケアに役立つオススメのツボ、経路の通りをよくするエクササイズをご紹介します。
これらのツボをタッピングしたり、マッサージをしたり、経絡を撫でながらなぞることが、『心』と『小腸』を整えることに繋がります。
活用して夏の不調を改善しましょう!
『心』の経路
『心』の経絡は、脇から始まり小指に繋がり、9つのツボがあります。
その中でもおすすめのツボを4つご紹介します。
極泉
胸のつかえを取り除き、気の巡りを改善。気持ちを落ち着かせ、精神を安定させてくれます。夜、眠れない方におすすめです。
少海
気の巡りを改善し、痛みを止めます。肘の痛み、手の震えの解消に役立つツボです。
また、物忘れが気になる方にもおすすめです。
通里
心の火を清め、精神を安定させます。
また、喉の通りを良くします。
神門
心の気を補います。不眠で悩む方におすすめです。
『小腸』の経路
『小腸』の経絡は、小指から始まり肩甲骨を通り耳の前へと繋がっています。
後渓
身体の熱を冷ますので、寝汗で悩む方におすすめです。
経絡の通りを良くし、痛みを止めるツボなので、腰痛、肩こりからくる頭痛の解消にも役立ちます。
臑兪
筋肉を緩め、経絡の通りを良くします。
付近にある肩貞、天宗とともに、肩の痛みを和らげてくれるツボです。
経路の巡りをよくするエクササイズ
- 腕を前回し、後ろ回しと大きく回す。
- 両腕を横に伸ばし、指先を上に向け、手の平で壁を押すような気持ちで腕を伸ばしながら、首を回す。
- そのまま、指先を下に向け手の甲から手首にかけて伸ばすようにしながら、同じように首を回す。
このような運動で、『心』と『小腸』の経絡の巡りを良くすることができるので、仕事の合間のエクササイズや、ヨガクラスに取り入れてみるのもおすすめです!
次回は、夏から秋にかけての季節と関係がある『脾』についてお伝えします。
参考資料
- 臨床に役立つ五行理論ー慢性病の漢方治療ー 土方康世著/東洋学術出版
- カラダを考える東洋医学 伊藤剛著/朝日新聞出版
- 臨床経穴学 李世珍著/兵頭明訳/東洋学術出版
- 東洋医学経絡・ツボの教科書 兵頭明監修/新星出版
- 新版 東洋医学概論 教科書検討小委員会著/公益社団法人 東洋療法学校協会編/医道の日本社