どれだけヨガを練習してマットの上でスッキリしても、清々しさはその瞬間だけのもので、日常生活で抱えてしまった心の中のモヤモヤを上手く消せずに悩んでいるという人はとても多いです。
感情はヨガで徐々にコントロールできるようになりますが、時間がかかりますし、すでに生まれてしまったネガティブな感情を抱えていることはとても苦しいです。
今回は、ヨガの実践の中でも特に感情の吐き出しに効果の高いトラータカをご紹介します。
目の浄化法トラータカとは?その素晴らしい効果
トラータカは古典的なハタヨガのテクニックの1つで、シャット・カルマ(6つの浄化法)の1つです。本来は目の浄化法として知られます。
トラータカは“一点を集中して凝視する”テクニックで、主にキャンドルの火や、夕焼けや朝日、満月などを見つめます。
視線を動かさず、心をしずめて、微小な標的を涙が出るまで見つめるべし。この作法はアーチャリャ(師家)たちによってトラータカと呼ばれている。(ハタヨガ・プラディーピカ2章31節
本来シャット・カルマ(浄化法)はヨガの練習の準備段階です。代表的な教典を見ると『ゲランダ・サンヒター』ではアーサナ(坐法)の前に、『ハタヨガ・プラディーピカ』ではプラーナーヤーマ(調気法)の前に記述されています。
消化不良などで身体がだるい時、または悲しいことがあって感情が激しすぎる時などは、せっかくヨガのクラスに行っても集中できないことがあると思います。
そんな時は、シャット・カルマを行うことで、集中してヨガの練習を行い、より大きな効果が得られるようになります。
トラータカの効果
この作法は目の諸病を去り、怠惰性を封ずる。トラータカ作法は黄金の小箱のように秘蔵すべきである。(ハタヨガ・プラディーピカ2章32節)
目の病気を取り去る
実際にトラータカを10~15分やってみてください。終わった後、驚くほど視界が明るくなるのが分かります。まるで、古い電球を新しく好感したように世界が輝いて見えるようになります。
また、近視の人は視力が一気に上がることに気が付きます。
特に現代的な生活スタイルでは、パソコンやスマートフォンを毎日長時間凝視する人が多く、目が常に疲労状態の人も多いと思いますが、毎日短時間のトラータカでも、高い効果を感じることができます。
怠惰性を封じる
怠慢性にどうしてトラータカが効果的なのでしょうか? 私たちがヨガの練習など、1つのことに上手く集中できないのは、頭の中が常にマルチタスク型になっていることが大きな問題です。
トラータカでは、たった一点に一定時間全ての意識を集中させます。もちろん他の瞑想法でも集中する練習を行いますが、トラータカは実際に視覚を使うことでより簡単に集中できます。
トラータカの練習後には、頭の中がスッキリしてゴチャゴチャしたものが取り除かれたような感覚を得られます。
集中力が上がる
一点に集中することは、とても大切なことです。しかし、現代的な生活ではマルチに物事を考えるクセがつきやすく、仕事をしていても雑念が湧いて効率が下がりがちです。
集中できない問題は仕事などの能力に限りません。例えば食事をするときでも、他のことを考えながら食べていると満腹になっても感じにくくなります。なにより、せっかく食べているのに美味しさを感じられないのは悲しいですよね。
感情を吐き出す
教典には書いてありませんが、実際にトラータカを数日間練習しただけで、重たくのしかかっていたネガティブな感情が自然と消えていくのを実感することができます。
これは、トラータカで涙を流すことの効果だと考えられています。トラータカの実践中の涙は自然に流れるものであり感情的に泣いているわけではありません。しかし、物理的に涙を流すことで、泣くのと同じように感情を吐き出して洗い流してくれるのだと考えられます。
悲しみなどの感情に支配されそうなとき、鬱々とした気持ちが全く晴れない時、ぜひ試してみてください。
睡眠の質を上げる
トラータカの実践を夜寝る前に行うと、睡眠の質が驚くほど深くなります。特に、寝る直前までスマートフォンなどを見てしまっている人は、神経がアクティブなままで睡眠に入りにくく、寝ている時間も浅い睡眠になりがちです。
なかなか寝付けない時間が辛くて、ついついまたスマートフォンを触ってしまう人は、代わりにトラータカを試してみてください。
トラータカの実践方法
トラータカの実践方法には様々なものがあります。
見つめる対象でポピュラーなものにはキャンドル、日の出や夕焼け(日中の太陽は直視しないようにしましょう)、満月、星、オームなどのシンボルなどがあります。手を前に伸ばして、自分の指の爪を見るような方法もあります。
できれば純粋なもの、美しいものを対象に選ぶのがいいので、自分の好きな花なども適しています。
気軽にできて効果の高いものだと、キャンドルの火を見るのがおススメです。キャンドルを使う場合、扇風機などの風のない部屋で行います。キャンドルの火が揺れてしまうと、心も揺れ動いてしまいがちです。
できればパドマ・アーサナ(蓮華座)など足をクロスした座り方をします。難しい場合には椅子に座っても大丈夫です。
キャンドルの火は、座った時の自分の目の高さになるようにします。目とキャンドルは約1メートルの距離が最適です。どうしても近視で見えにくい場合は眼鏡を使っても良いのですが、コンタクトレンズは涙が出た時に不快なので避けたほうがいいかもしれません。
安定して快適な座り方で、できるだけ長い時間まばたきをしないでキャンドルの火一点を見つめます。目が痛くなってきたら、少しだけ瞼を下げて休み、痛みが引いたらまたキャンドルの火を見つめます。
慣れていないと、最初は2~3分でも目が痛くて開けていられませんが、毎日練習していると10分間でもほとんどまばたきせずに見つめられるようになってきます。
流れる涙は、よほど邪魔にならない限りぬぐわずに流しっぱなしで大丈夫です。
トラータカの様々なテクニック
トラータカには様々な方法があります。
例えば、片目ずつ手などで目隠しをして目が痛くなるまで火を見つめ、片方の目を開けていられなくなったら反対の目を行う方法もポピュラーです。
それ以外にも、最初は火の中心を見つめ、次に日の外枠を見つめ、最後に火の回りの光りを見るといった練習法もあります。
実際の物質を見ずに、心の中に思い浮かべたイメージに集中する方法もありますが、慣れないと雑念が生まれやすく多少難易度が高めです。最初は、キャンドルの火などを見つめる方法がおススメです。
トラータカの感情への効果がすごい
本来のトラータカの目的はヨガの障害となる不純性を取り除くことです。
しかし、筆者がトラータカの効果について学び、実際に実践を続ける中で最も感じた恩恵は精神的な効果でした。
主観的ですが、ヨガを求めて実際に練習を始める人の多くはとても感情が豊かで、時に自分の感情に支配されてコントロールできずに悩んでいる人が多くいる気がします。
悲しみ、怒り、漠然とした不安などの感情はとても強く、1度抱えてしまうとモヤモヤと心の中に残り、心を開放してくれません。
そのような感情を抱えている時には新しいことを学ぶスペースもありません。
そのため教典『バガヴァッド・ギーター』でクリシュナ神は、苦しむアルジュナの嘆きを全て聴講するところから始めます。このように親しい人に悩みをひたすら聞いてもらうことも効果がありますが、何時間も話を聞いてくれる友達を探すことは安易ではありませんね。
また、紙に書き出すなどの方法も有効です。しかし、自分の苦しみに向き合うのは、やはり簡単ではありません。
トラータカは、1日たった10~15分キャンドルの火を見るという、とても簡単な方法です。本当に苦しい時にはその気力さえ湧かないこともあるかもしれませんが、紙に書きだすよりもずっと簡単です。
心のモヤモヤを抱えている人には、1度試してもらえたらと思います。数日の実感でも、なんとなく心が楽になったのを実感できると思います。いったん心の中にスペースが生まれると、そこから根本的な解決を探すこともできるようになります。