こんにちは!丘紫真璃です。
今回は、アメリカで大人気の少年小説「がんばれヘンリーくん」を取り上げてみたいと思います。
アメリカのごく普通の少年が日常生活の中で巻き起こす愉快な物語なのですが、これがまあ!ビックリするくらい面白くて、次から次にページをめくってしまうのです。
魔法とか、小人とか、不思議なものが出てくるわけではありません。ミステリーというわけでもなく、泥棒が出てくるわけでもなく、大冒険があるわけでもありません。
ごく普通の日常生活が展開していくだけなのに、ものすごく自然にヘンリー君のまわりでドタバタが発生し、思わず釣り込まれてしまうのです。
今回は、そんな愉快なヘンリーくんの物語と、ヨガにどんなつながりがあるのか、みなさんと考えていきたいと思います。
それでは、ヘンリーくんの待つアメリカへ、レッツゴー!
自分が幼い頃に探し求めていた本を
作者のビバリー・クリアリーは、1916年にアメリカのオレゴン州で生まれます。
「スロー・ラーナー」といういわゆる学習発達の遅れた子どもだと言われていたクリアリーですが、小学校3年生の時に初めて、楽しんで読める本に出会います。
以来、クリアリーは読書の楽しさに目覚め、図書館に通い続けました。
そして、図書館司書の仕事に就きましたが、そこでクリアリーは、ふだんの子どもとは程遠い世界のことを描いている本が多く、普通の子ども達のことを愉快に描いた物語が少ないという事に気がつきます。
普通の子どもの物語こそ、子ども達が探しているものだ……。
クリアリーがそう感じたのは、幼い頃に自分もまた、そういう本を探し求めていたからでした。
そこで、幼い頃の自分と、今、本を探している子ども達のために「普通の子どもの生活を愉快に描いた物語」を執筆します。それが、「がんばれヘンリーくん」でした。
クリアリーの処女作は、瞬く間に人気になり、アメリカで大人気となりました。
日本でも、「ヘンリーくんシリーズ」は、松岡享子さんの名訳でたくさんの子ども達に今も読み続けられている普遍の人気作品です!
アバラーとの出会い
主人公のヘンリー・ハギンス君は、アメリカのクリッキタット通りで暮らしている小学3年生の少年です。
6歳のときに扁桃腺の手術をしたのと、7歳のときに、サクラの木から落ちて腕を折ったのとをのぞけば、今までの人生の中で特に変わった出来事は起こっていないという、ごくごく普通のアメリカの少年です。
そんなヘンリーが、バスに乗ってプールに泳ぎに行った帰り道のことでした。
ヘンリーがバスを待つ間、アイスクリームをなめなめ、雑誌売り場でマンガの立ち読みをしていると、1匹の犬がヘンリーのすぐ後ろにやってきて、もの欲しそうな顔をしたのです。
その犬は、なになに種というような犬ではありませんでした。大きい犬というには小さすぎるし、かといって、子犬というには、あまりにも大きすぎます。白い犬というのではありません。というのは、茶色いところもあれば、黒いところもあり、そのあいだに、黄色がかった点てんもあったからです。耳はピンと立っていて、しっぽは細長くのびていました
(「がんばれヘンリーくん」)
犬があんまり物欲しげな顔をしているものですから、ヘンリーは、自分のアイスクリームをやってしまいます。
それからよく見ると、その犬はあばら骨がすけて見えるほどやせており、首輪もつけていないということに気がつきます。その犬には家がないようなのです。
犬がどこまでも自分にくっついてくるのを見て、ヘンリーは考えはじめます。
ヘンリーの心に、ひとつのかんがえがうかびました。この犬、飼えないかなあ! ヘンリーは、もうずうっとまえから、犬がほしい犬がほしいと、思っていたのです。そうしたら、いま、ヘンリーのものになりたがっている犬が見つかったのです。おなかをすかしている犬を、道ばたにほうっておいて家へ帰るなんて、とてもできません
(「がんばれヘンリーくん」)
その場で犬にアバラーと名前をつけたヘンリーは、お母さんに電話で頼み込んで、アバラーを飼っていいというお許しを得ます。
それから、どうにかアバラーをバスに乗せて、家まで連れて帰ろうとするヘンリーの騒ぎは、めちゃめちゃ愉快なので、ぜひ、本で読んでいただきたいと思います!
とにかく、騒ぎの果てに無事に、アバラーと共に家にたどりついたヘンリーは、アバラーとの新生活をはじめることになるのです。
ヘンリーとアバラー
「ヘンリーくんシリーズ」が主人公の物語は7冊ほどありますが、そのどれにもアバラーは、ヘンリーの相棒として存在感たっぷりに登場します。
この当時のアメリカでは、犬をリードでつないでおかなければならないという規則はなかったようで、アバラーはいつもノーリードで、ヘンリーの後ろに付き従い、ヘンリーが行くところにはどこにでもついていきます。
毎日、ヘンリーが学校に行く時にもアバラーは一緒についていきます。そして、校庭のすみのモミの木の下で、ヘンリーを待っているのです。
これだけでも、アバラーがヘンリーのことが大好きだということがわかりますね。
ヘンリーの行くところにはどこにも出かけるアバラーは、次から次に愉快な騒ぎを引き起こします。
例えば、ヘンリーが、近所に住むスクーター・マッカッシーとフットボールを投げ合って遊んでいた時のこと。
2人が投げ合っていたのは、スクーターが誕生日プレゼントにもらった真新しいフットボールで、ヘンリーがずっとほしいなあと思っていたようなヤツでした。
2人は、超イカす素敵なフットボールを、通りで投げ合って遊びます。ところが、ちょうどヘンリーが、フットボールを投げた時、大変なことが起こってしまいました!
ヘンリーが、うでを前にふりおろそうとしたとたん、アバラーが、きゅうにひと声ほえました。ヘンリーは、くるっとふりむいてアバラーを見ました。が、うではそのままうごいて、ボールはゆびをはなれました。
ちょうどそのとき、一台の車が、かどをまわってすごいスピードでやってきました。
「おい、気をつけろっ!」と、スクーターがさけびました。
が、そのときは、もうおそすぎました。どうしようもなかったのです。(略)
ボールは、うしろの席のまどから車の中にとびこんで、いったんはねて、しまっている反対がわのまどにあたってから、中に落ちました
(「がんばれヘンリーくん」)
車はスクーターのフットボールを乗せたまま走り去ってしまい、いくら待っても戻ってきませんでした!
もうスクーターはカンカンです。
「おまえのまぬけ犬が、あんなにさわぎたてなかったら、おまえだって車の音ぐらい聞こえてボールを投げなかったはずだ」とスクーターは怒り、「今度の土曜日までに、新しいフットボールを買って返してくれ」とヘンリーに迫ります。
ヘンリーは新しいフットボールを買って返すとスクーターに約束しますが、どうやって、お金を作りだしたらいいかわかりません。
ヘンリーは、のろのろと家に帰りながら、後ろからついてくるアバラーに言います。
『見ろ、お前のおかげでとんだことになったぞ』と、ヘンリーは、アバラーにいいました。
『それも、ぼくがフットボール買おうと思ってためてたお金を、みんなおまえの鑑札と首輪とおさらをつかったあとになって……』
(「がんばれ、ヘンリーくん」)
ヘンリーが、元気なく玄関の段差の所に座り込むと、アバラーは1段下にねそべって、頭をヘンリーの足の上にのせます。
そんなアバラーの頭をなでながら、ヘンリーは言うんです。
『アバラー、おまえはいいやつだよなあ。おまえのおかげで、とんだめにあっちゃったけど』
(「がんばれ、ヘンリーくん」)
そして、ヘンリー君はとても面白い方法で、スクーター・マッカーシーの新しいフットボール代を作りだすのですが、それも本で読んでいただくことにしましょう!
犬がヴァイラーギャを引き出す
そのほかにも、アバラーはいろんな面白い事件を起こします。
ヘンリー君が学校で、クリスマス会の舞台の準備をしている最中に講堂に飛びこんできて、緑のペンキ缶をひっくり返してしまったり。
犬のコンテストの会場で、ぜひとも銀のカップをねらいたいという時にかぎって、公園の花壇のどろの中に転げ込んでドロドロになったり。
ヘンリーは、そのたんびに困り果て、あれやこれやと騒ぎが起きるわけですが、それでもいつも、ヘンリーはアバラーに言います。
「アバラー、おまえは、まったく、いいやつだなあ。ぼく、おまえがいなくなったらどうするか、かんがえることもできないよ」
(「がんばれ、ヘンリーくん」)
アバラーのおかげでいろいろと厄介な騒ぎが起きてしまい、スクーター・マッカーシーに弁償するハメになったり、先生やら両親に怒られたりするわけですから、損か得かで考えた場合には、アバラーがいる方が明らかに損のようです。
それでも、ヘンリー君は心の底からアバラーが好きで、「お前はいいやつだなあ」と、アバラーに何度も何度も言うのです。
それはアバラーが、どこまでも純真に、ヨガ的に言えばサットヴァそのものといった無垢な信じ切った目で、ヘンリーを慕っているからではないでしょうか。
ヘンリーがしょげている時には、ヘンリーの足の上に頭をのせて寄り添ってくれるアバラーだからこそ、ヘンリーは、アバラーがどんな騒ぎを起こしたって、「お前はいいやつだなあ」って、心の底から言うのです。
ヘンリーは、アバラーのために何でもしてやります。首輪も鑑札も、新しいお皿もお小遣いから買ってやり、ブラシをかけ、お風呂に入れて洗ってやり、ドッグフードを買ってやり、週に1回は馬肉まで買ってやります。
小学3年生の男の子とは思えないくらいしっかりした世話ぶりですが、そんな風にヘンリーが、アバラーの世話をしてやるのは、損とか得とか、そんなことは全く関係ありません。
アバラーが楽しく元気に暮らせるようにと、その気持ちだけで、世話をしてやるのです。
犬を飼ったことがある方なら、ヘンリーのその気持ちに経験があるのではないでしょうか?犬だけではないですね。ネコでも、インコでも、どんなペットでも同じでしょう。
ペット達の目は純真です。サットヴァそのものの目でこちらをじいっと見上げて寄り添ってきます。
だからこそ、この子達を喜ばせてあげたい。幸せにしてあげたい。そんな気持ちがむくむく
こみあげて、何でもしてあげたくなるのです。
犬達は、私達の中にもともとあるヴァイラーギャを、ごく自然に引っ張り出してくれる……そんな存在なんじゃないかって、愛犬家の私としては思うのですが、みなさんはいかがでしょうか?
「がんばれヘンリーくん」のラストでは、アバラーをもともと買っていた飼い主の少年が登場します。
アバラーは、ヘンリーを置いて、元の飼い主の少年と共に帰ってしまうのでしょうか?
気になるラストはこれまた、本で読んで確かめてみて下さいね!
参考資料
- 『がんばれヘンリーくん』(1969年:ベバリー・クリアリー著/松岡享子訳/学研)