動くんだ!
大胸筋の下にインプラント(シリコン)を挿入する乳房再建手術[1]後の経過観察中、ある日の診察室でのわたしと形成外科主治医との会話。上半身の服を脱いだ状態で、わたしが腕を少し持ち上げていたので
キュッと締めてみた。すると手術をした方の胸が、ボディビルダーのようにキュッと動き、
え、先生も初めてですか。他にもこういうケースあるのかと思ってました。わたしレアなケース?
興味津々な先生。でも無意識に動かしたので、やってと頼まれると困る。
脇をキュキュッと締めるとピクピクっと動くことが判明!これは、大胸筋の上に乗っている乳腺や皮下脂肪をがんと一緒にすべて切除したため、皮下の近いところまで大胸筋がきていて、普通だったら脂肪や乳腺で隠れて目立たない筋肉の動きがはっきり見えているためです。
賛成でも反対でもない、お茶を濁すような返事も、エビデンス(根拠となる証拠)が重要視される医療の世界では仕方ないか。
大胸筋を ぴくぴく動かせることに気づいた 2018年春。
アーサナで今の自分を知る
わたしはがんと出会い、手術をしたほうの肩が動かしにくくなったり、大胸筋に影響する腕への力のかけ具合が難しくなったり、またうつぶせのような避けたい体位ができたりと、アーサナ(Asana/ヨガのポーズ)の練習に配慮をしないといけなくなりました。
けれども、それでも練習できるアーサナはたくさんあり、入院中でも下半身は動かすようにしていたことで回復が早かったように感じます。また毎日、できなかったこともできるようになる瞬間に喜びを感じ、より心と身体への意識が高まりました。そして片胸の大胸筋が意図的に動かせるようになったことを知りました。
(それはたぶんどうでもいい特技だけど、主治医が感心していたし、うちの旦那さんはそんな妻の特技を喜んでくれたので、よしとしよう)
ヨガとは「気づき(Awareness)」の連続です。自分自身の状態に気づくこと、知ること、そこから変化が生まれます。できる・できない、良い・悪いのジャッジをするのではなく、ただ、今の状態を観察し、理解すること。このことが、心の平穏を育て、他者への理解や思いやりをも深めていくのだと思います。
受け入れること
そして大切なのは、その今の状態をそのまま認めて「受け入れること(Acceptance)」。変えられない出来事を変えようとすることは、苦しみを増やします。変わってしまったことを嘆くだけでなく、そのまま受け入れる心の在り方が、その後の未来をより良く変えていくと信じています。
新しい自分の変化に、次第に「こんなわたしでも大丈夫」と思えるようになります。そして、完全には以前の自分に戻らないとしても、本質は変わりません。そのことをいつでも思い返すことが大切です。
以前のようにハンドスタンドやヘッドスタンドができるようになりたい。その思いで、術後も様子を見ながら練習を繰り返しました。すると術後半年で、身体の使い方もよりスムーズになり、また腕で体重を支えることに違和感を感じなくなって、とても嬉しく感じたことを覚えています。その数週間後には、大胸筋に大きく影響する、後屈のひとつである車輪のポーズも再びできるようになりました。
いずれも、手術では影響のなかった部分(わたしの場合は特に骨盤底筋)をより意識して使えるようになったことで、ポーズのとりかたに良い変化を起こしたのです。
感謝すること
身体の使い方により意識が向くと、心もしなやかに動き、良い影響を与えます。できる・できないにこだわるのではなく、たどりつくプロセスを大切にすることで、自分の身体をより開発でき、喜びが次へのステップを後押ししてくれます。
全身のパーツを総動員でアーサナと向き合うことで、自分の身体がより愛おしくなり、「感謝する(Appreciate)」気持ちがふくらみます。このことがヨガを生きることの醍醐味だと体感しています。
アーサナはヨガのポーズを超え、自分への感謝、そして他者への感謝を育む行為です。結果ばかりを求めず、プロセスに大事に向き合っていけると、より深く自分自身を知り、受け入れることができ、生きていることへの感謝がおのずとあふれてくるでしょう。
ヨガに親しむことは、内側(自分)とのコミュニケーションと、外側(他者)とのコミュニケーションを潤滑に、バランスをとっていくことに繋がるのではないでしょうか。
参考資料
- 乳がんINFOナビ(参照日:2019年2月14日)