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インドの独立の父として知られているマハトマ・ガンディー(ガンジー)は『バガヴァッド・ギーター』の愛読者でした。
彼はアヒンサー(非暴力)の実践者としても知られていますが、それ以外にもヨガのヤマに通じる教えを厳格に実行していました。
今日は、インドという大きな国を動かしたマハトマ・ガンディーが、実践を通して教えてくれたヨガの教えについてご紹介します。
暴力とは何か?を考え抜いたガンディーのアヒンサー(非暴力)

アヒンサーは『ヨガ・スートラ』のヤマの1番目に出てくるので、ヨガを実践している人にはとても馴染みの深い教えです。
アヒンサーは非暴力、相手を傷つけないことを意味しています。アヒンサーを実践するためには「何が暴力か?」を考える必要があり、それがとても難しいことです。
ガンディーが生涯を通して実践したアヒンサーはとても厳格なものです。
- 命あるものにあらゆる苦痛を与えないこと
- 敵意の感情をもたないこと
- 悪意や憎悪、呪いの感情をもたないこと
そもそも他人に対して敵対する感情を抱かないことは可能なのでしょうか?
ガンディー自身はインド独立のための活動を行う中で、何度も自分や仲間に理不尽な暴力を振るわれ、牢獄され、命を失った仲間も数多くいます。
それでも、相手に対して憎悪の感情を放棄すること。これは並大抵の覚悟では成し遂げられないことが分かりますね。
「暴力の中の非暴力」を知るガンディーの哲学
監獄生活の中でもアヒンサーについて考え続けたガンディーは、暴力(ヒンサー)の中に存在する非暴力(アヒンサー)があることに気が付きました。
例えば、アルコール依存症の人からお酒を取り上げることはとても大きな苦痛となります。しかし、それは必要なものであり、本質的にはアヒンサーだと考えることができます。
また、狂犬病を発症してしまった犬は絶対に苦痛から解放されません。犬が苦痛から解放されるために、そして周りの犬や人間に感染させないために狂犬病の犬を殺すこともアヒンサー的な暴力です。
このようにアヒンサーの本質を追求したガンディーは、本当の非暴力は物質的な状態ではなくて精神的なものであると考えました。
物理的に苦痛となる行為であっても、それが敵意を動機としたものでなく、愛に満ちたものであればアヒンサーの遂行と考えられます。
またガンディーは、アヒンサーとは心の動き(cittvṛtti)を止滅(nirodh)させることであると考えました。
ヨガ・スートラを読んだことがある人はピンと来るかもしれません。
ヨガとは心の働きを止滅することである。(ヨガ・スートラ1章2節)
アヒンサーの実行こそが精神的な清浄さを手に入れるヨガの実践だと考えていたようです。
食を通して学ぶアヒンサーの哲学
インドは今でもベジタリアン(菜食主義者)がとても多い国です。
インドのベジタリアンは動物を殺さないことが目的であるため、ミルクやバター、チーズなどの乳製品は積極的に摂取します。
ほとんどの人が宗教的な理由でベジタリアンを選びますが、ガンディーは規則だからと従うだけではなく、自分は本当にベジタリアンであるべきなのかと深く考えます。
若い時のガンディーは、1度だけ友人の誘いに乗って羊の肉を食べたことがあると自伝で明かしています。どうして世の中には動物の肉を食べる人と食べない人がいるのか?と長い間葛藤し、実験として1度だけ食べてみたそうです。その結果大きな罪悪感に苦しめられて、それ以来ベジタリアンを貫いています。
また、食事は生命を維持するだけのために摂取するべきであると考え、極端に質素な食事を続けました。ガンディーにとって粗食とは、食欲という貪欲さから解放されるための修業でした。
貪欲さから解放されるアパリグラハ(不貪)の実践

アヒンサーで有名なガンディーですが、日常の生活様式は徹底的にヨガの教えに従っていました。
例えば、私有財産を放棄したのはアヒンサーと同じくヤマの中のアパリグラハに該当します。ガンディーは個人の資産を手放し、生きるのに最低限必要な質素な衣2枚、サンダル、杖、鉢だけを所有しました。
アパリグラハとは不貪、または無所有です。
人の苦しみの多くは、所有欲が原因となります。欲しいものが手に入らない、または自分の財産が失われる不安。そして、競争や、資産の取り合いが他者との争いの原因となります。
ヨガの教えでは、ものを所有すること自体が苦悩の原因であると考えます。
ガンディーにとっては、アパリグラハもアヒンサーの実践の一部であったのかもしれません。
また、ガンディーの愛読書であるバガヴァッド・ギーターでは、自分に対しても他者に対しても平等であることを説いています。
自分と相手の間に違いがなければ、「私のもの」という概念もなくなります。その結果、自分の所有を増やすためだけに、他者から奪う暴力も避けることができます。
ギーターの説く平等とは、人間だけではなく他の動物や自然も含まれています。アパリグラハは、人間の所有欲を満たすために破壊される自然に対しても、慈悲の心を感じられる教えです。
活動の活力を生むブラフマチャリヤ(禁欲)
ガンディーは厳格なブラフマチャリヤの実践者としても有名です。
ブラフマチャリヤは禁欲を意味します。ブラフマチャリヤの実践を始めたガンディーは、自分の妻と2人きりで個室に入ることさえも避けました。
ガンディーがヨガを学んだヴィヴェーカナンダ著『ラージャ・ヨガ』によると、ブラフマチャリヤの目的は精力を守ることで、そのエネルギーをオージャス(生命の活力)に変えることだと考えられます。
大きな生命エネルギーを得ることによって、自分に定められたダルマ(職務)を遂行することができます。
実際にガンディーは、精力的にインド各地を旅して、多くの仲間を作り、インドという国と国民を守るための運動を起こしました。
国産品を守るためのカーディ(手織りの布)運動や、生活必需品である塩への重税に反対した塩の行進など、多くの人の心を動かした運動もブラフマチャリヤで得た活力で成し遂げたのかもしれません。
ヨガとは人生に生かすための教え
ガンディーの人生は実験の繰り返しでした。ヨガの教えを学び、それを徹底的に実践してみて、何が起きるのかを知ろうとしました。
ヨガマットの上でアーサナを行うだけではない、人生をかけたヨガですね。
本来は5つあるヤマの教えの1つだけでも実践するのは本当に難しいことです。しかし、どれだけ忙しい時でも、ガンディーはヨガの教えを忘れず実践していました。
本来哲学とは、故人の教えを知ることではなくて、自身で深く考えることです。
アヒンサーを含む8支則のヤマは実践しやすい教えですが、形だけの実践ではなく、やってみて何を感じるのかを観察して、本質について自分の答えを探すことが大切です。
ガンディーが手記の中で説いてくれたヨガの教えは、ヨガの教えを活かす方法を教えてくれています。








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