帽子を被った猫の顔

「ぼうしネコとゆかいな仲間」~どんな時でもブレないぼうしネコ風ハッピーヨガ~

こんにちは!丘紫真璃です。

今回は、ドイツで大人気の児童書「ぼうしネコシリーズ」を取り上げてみたいと思います。

ぼうしをかぶった、オシャレで世話好きで、おしゃべりがとってもうまい「ぼうしネコ」のお話は、ドイツでは人気を博しており、人形劇がテレビ放映される程なのだそうです。

「ぼうしネコ」の人形劇は、子どもだけではなく大人にも大人気で、家族そろって見るのだとか。日本でいうサザエさんみたいなものでしょうか。

そんなドイツのぼうしネコと、インドのヨガがどんな関係があるのか、みなさんと一緒に考えていきましょう!

ドイツで大人気の「ぼうしネコ」

作者のジーモン&デージ・ルーゲは、ドイツのハンブルクに住んでいます。

ジーモンとデージは夫婦で、夫のジーモンさんが主に文章を書き、妻のデージさんがアイデアを出しているそうです。

ただし、作者本人達のことについて、これ以上のことはハッキリわかっていません。

ジーモン&デージ・ルーゲもペンネームらしく、本名は明らかにされておらず、生まれた月やプロフィールなども秘密のままにされています。あまり詮索されるのがお嫌いなのでしょう。

ジーモンさんはブレーメン放送局の台本作家をしていたことがあったらしく、そのためか会話の部分がとにかくイキイキとしています。ネコのおしゃべりなど絶品で、何度読んでも笑いたくなってしまいます。

個性豊かでチャーミングなぼうしネコのお話は1980年に本として出版され、瞬く間にドイツ中で大人気となりました。ラジオドラマや、テレビの人形劇にも何度もなっているそうです。

ぼうしネコは「不幸な子ども時代」の亡霊が住む家に住み着く

二階建ての家とその前に立つ2本の木
もうすぐ夏というある日、「シュタッケルン(サラサラ川のほとり)」という駅にとまった汽車から、ぼうしネコがおりてきます。

このネコは、ふつうのネコではありません。そのことはだれにでもすぐにわかります。まず、からだがとっても大きいのです。どのくらいかというと、二本足で立てば、帽子なしでも駅員さんの胸ぐらいまであります。そしてこのネコは、たいていいつも、二本足で歩いています
(「ぼうしネコとゆかいな仲間」)

シュタッケルンの町の人とも堂々と立派なドイツ語でしゃべるぼうしネコは、この町が気に入り、プラム通りの端にある1軒の家がとってもステキだと考えます。

「貸家」のフダが下がっていたので、さっそく借りることにするネコですが、その家は十年も空き家だったいわくつきの家でした。だれもその家に住みたがらなかったのです。

 幽霊でも出るんですか? と、ネコが聞きますと、家主のマウルビッシュさんはため息をついて言います。

「まあ、そんなところです。(略)ここはわしの生まれた家です。わしはここで大きくなったんです。しかし、幸せな子ども時代とはいえませんでね。そして、残念ながらみんなもそれを知っていまして。それで、だれもここに住みたがらないというわけですよ。他人が不幸な子ども時代をすごした家に、住みたいなんて人がいますか? この家には、それがまだ残ってるって、みんないっているんですよ」
「それって?」
「不幸な子ども時代ですよ!」
(「ぼうしネコとゆかいな仲間」)

「こういう家には陽気な人たちが楽しく住まなくちゃいけません!」とネコは言って、この家を借りることに決めます。

借り手がついたことに喜んだマウルビッシュさんは、家賃は1,000マルクだと言いますが、ネコはにっこりほほえんで言います。

 「でも、実際、私、あなたのためにこの家を借りてさしあげるようなものですわね。不幸な家で、だれも借りたがらないものを、私があなたのために楽しく住んでさしあげるんですもの。その点も考えていただきませんと。あとでこの家の価値は、二倍になるんですのよ」
(「ぼうしネコとゆかいな仲間」)

そう言って、どんどん家賃を値切ったネコは、1,000マルクの家賃を、350マルクまで下げて住むことに決めるのです。

ぼうしネコの家族がどんどん増える

ぼうしネコが、マウルビッシュさんの家に住み始めて少しもしないうちに、どんどん、家には住人が増えはじめます。

家のないニワトリのコッコや、船乗りだったイヌのクナーク船長。

このほかにも、親がいなかったり、家族とうまくいかなかったりする子ども達を次々とネコは拾って、自分の家族の一員にしてしまいます。

その子どもというのも変わっていて、プリンが大好きな「プリンバチ」や、絶滅危惧種のケーケーという小型のワニや、ピアニスト志望のイノシシの子といった具合。

そんな変わった子どもを拾い集めてきたネコに、家主のマウルビッシュさんは首を振りながら言います。

「よりによって、毛のもじゃもじゃした子や、鼻の頭に角のある子なんて!」
(「ぼうしネコとゆかいな仲間」)

それに対してネコはきっぱりと言います。

「えらぶことはできませんわ。(略)それに、好みの問題もありましょう。この子たちが好きな人もいれば、あんまり好きになれない人もいますわ。でも、だいじなのは、この子たちが幸せだってことです」
(「ぼうしネコとゆかいな仲間」)

それに、この家が必要としているのは、「幸せな子ども時代」であり、この家で子どもが幸せに時を送ってこそ、この家は立ち直れるんだと、ぼうしネコは堂々と言って、マウルビッシュさんを黙らせてしまいます。
 
ぼうしネコの来るものを拒まずという姿勢は、親のない子どもだけではなく、変人達も引き寄せます。

好奇心が旺盛すぎるコウノトリのツンノメリや、発明家の小人の双子エンドウマメ兄弟。暗がりが好きな恥ずかしがりのムカデや、眠りながら後ろ向きに歩くラマの女の子など。

そうして、全部で10人がぼうしネコの家族となり、ネコの家に住みつくことになります。
そうして、陽気な騒ぎを引き起こす様子が、それは愉快に繰り広げられていくのです。

ぼうしネコ風ハッピーヨガ

さまざまな生活シーンの猫の姿
ぼうしネコの家族は、親のない子や、変わり者ばかり。お金はどんどんかさみ、ネコはいつもマウルビッシュさんに家賃が払えません。

だから、マウルビッシュさんはいつも猛烈に腹を立てて、ネコに怒鳴り込んでくるのですが、ある時、マウルビッシュさんは、とうとう腹を立てているのもイヤになって言います。

「よかろう。かまわんさ。どうでもなれってんだ。わしはケチな人間だが、決めたぞ。家賃はなしにしましょう。ここにただで住んでもらいましょう。これで、もう腹の立つことがなくなりますしな」
(「ぼうしネコとゆかいな仲間」)

家賃ゼロと決めた途端、マウルビッシュさんはネコに対して腹が立たなくなります。

それどころか、ネコの家の仲間達がどうしているのか気になって、ちょくちょくのぞきに来るようにまでなり、「ぼうしネコシリーズ」2巻目のラストでは、楽しそうにこんなことを言うまでになります。

「この家もすっかり変わったもんだ。ここでこんなに楽しい気持ちになれるなんてな! 少しずつ変わっていったんだな、きっと。去年の終わりごろから、わしにもわかってきたよ。それまではこの家のことを考えただけで、気がめいってきたもんだ。だが、わかったよ。ちゃんと手をかければ、住み心地がよくなるってことが」
(「ぼうしネコのたのしい家」)

ぼうしネコは生まれながらに、楽しく住むというコツを知っているネコです。

人生の達人といったらいいでしょうか。楽しく、ハッピーに、気持ちよく暮らす。これがネコのモットーで、そのモットーの中には、損とか得とか、利害関係とか、そんなものは一切ありません。

とにかく、みんなが楽しく暮らせることが大事。そのネコの態度は、ブレません。

そんなぼうしネコが仲間達と暮らす様子を読んでいると、ぼうしネコ風のヨガの流儀を確立しているんじゃないかという気さえしてきます。ぼうしネコ風ハッピーヨガとでもいったらいいでしょうか。

そんなぼうしネコのハッピーヨガにふれて、ケチンボでいつも腹を立てて心が荒れまくっていたマウルビッシュさんでさえ心穏やかに過ごせるようになり、物語のラストでは、ぼうしネコと仲間達に立派なプレゼントまで贈ってくれるようにまでなります。

「ぼうしネコシリーズ」を読むと、ぼうしネコ風ハッピーヨガの空気で、読んでいるこちらまでも楽しく愉快な気持ちになってしまいます。

苦虫をかみつぶしたような顔をしていた家主のマウルビッシュさんも、変わり者のラマも、誰もかれも楽しくくつろいだ雰囲気にしてしまう、ネコの魔法のようなハッピーヨガ。

読者の私達も、本を開けばいつだって、ネコの魔法を分けてもらうことができます。

日本では児童文学好きにしか知られていない「ぼうしネコ」ですが、みなさん、ぜひこの機会にぼうしネコと友達になってみて下さい!

参考資料

  1. 『ぼうしネコとゆかいな仲間』(1997年:ジーモン&デージ・ルーゲ著/若林ひとみ訳/岩波書店)
  2. 『ぼうしネコのたのしい家』(1997年:ジーモン&デージ・ルーゲ著/若林ひとみ訳/岩波書店)