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プラーナーヤーマ(調気法)はヨガの練習の1つで、ヨガ・スートラの八支則だとアーサナに続いて4番目の実践方法です。
通常プラーナーヤーマは「吸う・止める・吐く」の3つからなり、健康にいい呼吸法として認知されています。
しかし、伝統的なプラーナーヤーマは、肺の機能を向上して健康になるための健康法ではありませんでした。
ヨガをもっと深く知るために、古典ヨガのプラーナーヤーマの仕組みをご紹介します。
プラーナーヤーマで改善するのは燃費
プラーナーヤーマは深い呼吸法、健康に良いものという認識を持っている人はとても多いと思います。
確かに、日頃ストレスなどで呼吸が浅くなっている人にとって深い呼吸をすることは大切ですし、呼吸がスムーズにできないと睡眠の質が下がったり自律神経が乱れたりと健康に良くありません。
プラーナーヤーマの初期的な効果として、健康になることは間違いではありませんが、それはあくまでもプラーナーヤーマの第1段階にすぎません。
プラーナーヤーマを深めると、さらに多くの効果を得ることができ、最終的には深い瞑想へと繋がります。
プラーナーヤーマにはいくつかの段階があると考えることができます。
- 体内の不純性(ナーディーの汚れ)を取り除く
- 呼吸の機能を向上する
- 息から酸素を取り入れる機能を向上する
- 少ない息で生命を維持できるようにする
- 心の働きが抑制される
- サマディに到達する
ほとんどのヨガ教室で行っている呼吸の練習では1番目と2番目だけに働きかけています。というのも、プラーナーヤーマの実践は、深い練習になるほど危険性も増すからです。
ライオンや象や虎が徐々にコントロールしていく様に、プラーナも同様にする。さもないと、修行者を害する。(ハタヨガ・プラディーピカ2章15節)
呼吸は生命にかかわるものなので、焦って練習をすることはとても危険です。
特に、クンバカ(休息)を伴うプラーナーヤーマの練習の場合には、徐々に息を止める時間を長くするべきです。プラーナーヤーマの実践の中には、できるだけ長く息を止めるという練習法もありますが、下手に実践すると、かえって恐怖心などが生まれてヨガの障害となってしまいます。
各教典でも、プラーナーヤーマの練習は必ずグル(先生)と一緒にじっくりと練習するようにと書かれています。
プラーナーヤーマの練習で省エネになる
プラーナーヤーマの実践にはいくつかの段階があり、初期の練習では体が熱を生んで沢山の汗をかきます。そのような熱を生む練習では、体の中の不純物がどんどん燃やされています。
体内に不純物が溜まっていると、あらゆる機能が正常に働かなくなってしまいます。だからまずは、自分自身を清浄にすることが大切です。
次に、息から正常にエネルギーを取り入れる機能を向上させます。ここで多くの人が勘違いしているのは、沢山の息を取り入れることができれば良いということです。
そもそも、横隔膜が正常に動かなければ1度に取り入れることのできる息が少なくなり、浅く短い呼吸しかできないので、まずは身体的な機能を向上することはとても大切です。
だからと言って、沢山息を取り入れる練習だけを続けていても意味がありません。息を沢山取り入れれば沢山の酸素が入ってきますが、酸素が体内で過多になるのも問題です。
例えば、過呼吸の人は苦しいからとより沢山息を吸おうとしますが、その結果体内の二酸化炭素が減ってしまい別の問題がおきます。呼吸にもバランスが必要で、過ぎたるは及ばざるが如しなのですね。
一度の呼吸で十分な息を取り入れられる準備ができると、今度は少ない息で生命を保つことができるように練習します。プラーナーヤーマでは徐々に呼吸の長さを長くします。
もちろん、長い呼吸では1回の呼吸当たりでの息の量は通常の呼吸よりも多くなります。しかし、たとえ1回の呼吸で2倍の息を吸い込むことができても、3~4倍の長さの呼吸をすれば、結果的に取り入れる息の量は減ります。
つまり、少ない息の中から効率よく酸素を取り入れて、さらに少ない酸素で生命を維持する省エネな状態が必要になります。無理をして練習すると危険なので、プラーナーヤーマの実践は毎日継続して、ゆっくりと深めることがとても大切です。
また、ゆっくりの呼吸を深めるためには、脳のトレーニングも必要です。通常よりも遅い呼吸をすると、自動的に脳が反発して、吸う息を含めて早く行おうとします。
また、脳が緊張することによって、体全体に緊張が広がって、多くのエネルギーを使ってしまいます。脳が感じる恐怖感の克服も、徐々にしか行うことができず、継続的な練習が最も大切です。
このように、伝統的なプラーナーヤーマでは、取り入れる息の量を減らすという本来人間に備わっていないチャレンジをするため、安易に練習することは危険です。
しかし、プラーナーヤーマが深まると、自然に精神が瞑想状態に入ることができ、ハタヨガではプラーナーヤーマをとても重視しています。
プラーナーヤーマは準備が大切
ところで、プラーナーヤーマは必ずアーサナの後で行います。それはヨガ・スートラのラージャ・ヨガでも、後世のハタヨガでも同じです。
その大きな理由は、姿勢が整っていないと深い呼吸をすることができないからです。長くて細い呼吸をするためには、1度で十分な息を取り入れるスペースが必要です。
そのためには、横隔膜の可動域とスムーズな動きが必要になります。背中が丸まったような姿勢もいけませんし、座る姿勢も重要になってきます。
胡坐をかく姿勢で座った時に、股関節が固い人はヒザが高く上がってしまいますが、そのような姿勢は骨盤を圧迫して体内のスペースを狭めてしまいます。
だから、アーサナでプラーナーヤーマに必要な体の状態を整えることはとても大切です。
カパ(粘液質)の人はナーディの清浄も必要
本来プラーナーヤーマには不純性を取り除く効果がありますが、そもそも呼吸が上手くできないほど粘液質が高い人はプラーナーヤーマの前に浄化法を行う必要があります。
例えば鼻炎や鼻づまりの人は、そもそもアーサナやプラーナーヤーマを行うこと自体が難しいです。そういった人は、ジャラ・ネーティー(鼻うがい)で鼻の中の粘液性を取り除けば呼吸が楽になります。
食事も省エネ。腹5分目…
プラーナーヤーマの練習には体内のエネルギーの流れを穏やかにすることが必要となります。
私たち人間にとって最も大きなエネルギーを使うのは食事の消化吸収です。
そのためハタヨガでは、特に初期の実践者は、消化の容易い食事を腹5分目だけ食べて、胃の1/4は水で満たし、1/4は空気のスペースで開けておくことを勧められています。
プラーナーヤーマの練習によって消化の火も強まるので、練習が進めば様々な食材を消化できるようになりますが、実践の初期段階では糖質や油質の、少量で効率よくエネルギーを得られるものが推奨されます。
プラーナーヤーマでは不純性は消えるが、練習を行うために清浄な心が必要
プラーナーヤーマの練習では、体と心の両方から不純性が取り除かれます。結果的にプラーナーヤーマの練習によって、清浄で穏やかな心を手に入れることができます。
しかし、プラーナーヤーマの練習を行う時にはある程度心の清浄さが必要となります。
プラーナーヤーマの練習はサットヴァ性の(清浄な)意識でスシュムナーが浄化されるまで行うべきである。(ハタヨガ・プラディーピカ2章6節)
例えば心がラジャス性(激質)な状態で行えば、呼吸の長さなどを競うような無理な練習をして、かえって実践者を傷つける可能性があります。また、タマス性(暗質)な状態では、集中した練習を行うことができません。
プラーナーヤーマの練習に最適な精神状態も、アーサナの練習で鍛錬することができます。
古典的なプラーナーヤーマにはヨガの本質が詰まっている
今回ご紹介したプラーナーヤーマの実践は、本来出家して行うような伝統的なインドのヨガです。
ハタヨガの教典に書かれたような厳しいプラーナーヤーマの練習を行うためには、1日に何時間もプラーナーヤーマだけを練習する必要があり、社会生活を行う中では難しいです。
しかし、このような伝統的なヨガは現代行われているあらゆるヨガの源流であることも忘れてはいけません。
古典ヨガがどのようなものか知ったうえで、自分の生活にあったヨガを選択するのは、ヨガの可能性を広げてくれるのではないでしょうか。