あなたは「自律神経」と聞いてどんなイメージをお持ちでしょうか?ストレスや、ネガティブな印象をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は私たちが生きていく上で、とても大切な「自律神経」についてお話ししていきます。
生命の自動調節機構「自律神経」
まず自律神経とはそもそもなんでしょうか。私たちの体の中にある、神経系というジャンルの機関は、中枢神経と末梢神経に分類されます。
中枢神経はさらに脳と精髄に分類され、末梢神経は、脳神経、脊髄神経、自律神経の3つに分類されます。
脊髄神経は、いわゆる運動神経、感覚神経といったもので、体の外側の自分の意思で動かすことのできる筋肉(随意筋)等を支配しています。
これに対して自律神経は、内臓などの体の内側で、自分の意思では動かしたり止めたりできない筋肉(不随意筋)等を支配しています。
“手や足を動かしたり止めたりは自由にできる”のに対して、“心臓や胃腸の動きを一時的に止めたり、早くしたりはできない”ことを考えていただけると、どれが随意筋でどれが不随意筋かは容易に判断できると思います。
この、自分自身の意識では動かすことのできない筋肉等を、その時の自分自身が置かれた状況に合わせて自動的にちょうど良い加減に調節してくれているのが、自律神経です。
このため、自律神経は生体の自動調節機構と呼ばれたりすることもあります。
交感神経と副交感神経
この自律神経には交感神経と副交感神経の2つのモードがあります。1つずつ見ていきましょう。
まずは交感神経。これは「戦うか逃げるか」といういわゆる緊急事態のモードです。
自分自身の命を守るために、身体は戦闘体制に入ります。瞳孔と気管支は大きく開き、筋肉も収縮します。心臓の動きは早まり、血管も拡張します。
ゆっくり食事をとっている場合ではないので、内臓の動きは弱まります。ストレスにさらされた、緊張状態を一時的に作り出し、生命を守ります。
これに対して、副交感神経は、交感神経とは真逆の作用を持っており、言ってしまえば、交感神経を優位にする必要がない時のモードです。
本来ならこちらがデフォルトで、命の危険のない、安心、リラックスした状況の中で、睡眠や食事をとって体力をつけ、創傷の治癒、疲労改善を促して、いざという時に備えます。
どちらのモードも必要で、バランスの取れた状態を保てることが健康につながります。
現代ストレスの実際
しかし、ストレス社会と言われる現代では、人間関係はもちろん、手元にたくさんの情報があふれるようになり、命の危険とまではいかなくても、常にストレスや刺激にさらされている状況が増えています。
これにより、交感神経が優位になり続け、本来副交感神経が優位になることで得られるはずの、疲労回復などが充分に行えず、体調に支障をきたす方も増えてきました。
また、自分の中ではリラックスと思っている、映画やドラマ鑑賞も、映像による刺激で、交感神経を優位にしていることもあります。
このように、現代の私たちの生活環境そのものが、刺激過多で、本当の意味でのリラックスがし辛い状況にありつつも、それになかなか気付かずに過ごしている場合もあります。
仕組みを知って整える
では、どのように自律神経のバランスを取ればよいのでしょうか。
まずは刺激の多い中で生活し、常に何らかのストレスにさらされているという状況を理解することです。その上で、解決方法の1つに「呼吸」があります。
先程、随意筋と不随意筋の話をしましたが、「呼吸」は生体の中で唯一交感神経、副交感神経の両方の支配を受けています。
私たちは、普段特に意識しなくても、生まれたからずっと絶え間なく呼吸をおこなっていますが、呼吸筋は随意筋でもあるので、意識して早くしたり、一時的に止めたりすることも可能です。
この呼吸を使って、自律神経にアプローチすることができます。
例えば、吸う息は交感神経を刺激し、吐く息は副交感神経を刺激します。そして、刺激したい方を長くすることで、効果的に自律神経にアプローチできます。
実際、試合前の円陣では、大きく吸い込んで、大きな声で短く吐き切る声かけがされます。これにより交感神経が刺激され、試合に集中しやすくなります。
逆に緊張を解したい時は、短く吸って細く長く吐いていく呼吸が理想的で、実際深呼吸という形で、無意識におこなっている方も多いのではないでしょうか。
また、腹式呼吸も副交感神経を刺激します。仰向けの姿勢でお腹に手を置き、お腹を膨らませたりしぼませたりする呼吸を繰り返すことで、リラックスの効果を得られることができます。
ヨガとは切っても切り離せない「呼吸」。
身体に影響する仕組みを理解しながら行い、ヨガの中で意識していくことで、自律神経のバランスを整えていくことができます。
時にはデジタル機器から離れ、目を閉じてご自身の呼吸に意識を向けたり、ヨガでご自身の体に意識を向けたりする時間を作ってみてください。
参考資料
- 中村尚人著『体感して学ぶ ヨガの生理学』株式会社BABジャパン、2017年
- 坂井健雄・河原克雅著『カラー図解 人体の正常構造と機能』日本医事新報社、2012年