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自然界の現象を、木・火・土・金・水の性質に分類し、その関係性を考える五行学説。今回は、更年期に起こりやすい不調と五臓との関係についてお伝えします。
肝腎かなめ
年を重ねるに伴って『腎』に蓄えられている「精」(生命活動を維持するのに最も大切な物質)が少なくなります。
五行学説では、親である『腎』の力が弱くなると、子どもである『肝』が影響を受けます。
『肝』の力がアンバランスになると、気が体の上に上がり過ぎ、ホットフラッシュ※1や動悸、めまい、イライラ、不眠などを引き起こします。
「肝腎かなめ※2」という言葉があるように、両方が弱ると様々な不調を引き起こし、さらに『心』、『脾』へと波及していきます。
そして、陰と陽のバランスが崩れていきます。
更年期とうまく付き合うには、更年期に入る前の段階から『肝』と『腎』のバランスを整えておくことが大切です。
- ※1 ホットフラッシュ:更年期障害の症状の1つ。のぼせやほてり等の症状。
- ※2 肝腎かなめ:きわめて重要なこと。
東洋医学で考える閉経
『腎』に蓄えられている「精」は、五臓六腑を働かせる原動力となっています。
この『腎』に蓄えられた「精」である「腎精」が足りなくなると、「気」、「血」、「水」を生み出す力が弱まります。
そして、体にある「気」、「血」、「水」は、身体の恒常性を保つ為に使われ、月経と関係する衝脈や任脈に蓄える量がなくなり、閉経になるのです。
急激な「腎精」の減少が、更年期の様々な症状を引き起こすので、「腎精」の急激な減少を緩やかにしてあげることが、症状の緩和につながります。
疲れの蓄積、睡眠不足が続いたり、考え過ぎたり、不安感を抱き過ぎると、「腎精」が減り、さらに『肝』、『心』、『脾』の力が消耗されます。
また、辛いものや味の濃い物、脂っこい物、お酒は、「心火」、「肝火」、「痰飲」、「瘀血」といった病の元となる病邪を生み出すので、調子が悪いと感じている時は控えましょう。
女性は7の倍数、男性は8の倍数
現存する中国最古の医学書「黄帝内経」には、女性は7歳ごとに、男性は8歳ごとに、「腎気」の働きの変化が起きるとされています。女性だと49歳で、男性だと64歳で腎気が弱くなり、更年期に入るとされています。もちろん、個人差がありますが、こうした周期を参考にしながら、自分の体をメンテナンスしていくこと大切です。
女性の「腎気」の働きの変化
7歳:歯の生え変わり 髪が伸びる
14歳:月経開始 子を作ることができる
21歳:体が成熟 身長が伸びる
28歳:筋骨形成 髪が最も伸びる
35歳:顔色がくすむ 髪がおとろえてくる
42歳:顔がやつれる 白髪が出てくる
49歳:閉経 肉体が衰えてくる
56歳:体力低下 目が疲れやすくなる
63歳:疲れがたまり不眠になりやすくなる
70歳:胃腸が弱くなる
77歳:胃腸が虚弱になる
84歳:免疫力低下 皮膚が乾燥
91歳:腎気が減少する
男性の「腎気」の働きの変化
8歳:歯の生え変わり 髪が伸びる
16歳:精通 子を作ることができる
24歳:筋骨形成 身長が伸びる
32歳:筋肉が豊かでたくましくなる
40歳:体力・髪に衰えが出てくる
48歳:肉体の衰え 白髪が出てくる
56歳:生殖機能がおとろえてくる
64歳:疲れがたまり不眠になりやすくなる
72歳:胃腸が弱くなる
80歳:免疫力低下 皮膚が乾燥
88歳:咳が出やすくなる
96歳:腎気が減少する
更年期の症状とうまく付き合うコツは『肝』『腎』『脾』にあり
更年期にはいくつかの「型」があり、それぞれに応じた対応があります。
症状から自分がどのタイプの更年期なのかを見極めましょう。
『肝』型更年期
イライラ、頭痛、めまい、口が乾燥する、ため息が多い、体の両脇に張るような痛みがある。
こういった症状が気になる方は『肝』の働きを整えることがお勧めです。
そば、らっきょう、みかん、ゆず、えんどう豆、キンカン、ジャスミン、薄荷などを積極的に摂ると良いです。
『腎』型更年期
足腰がたるい、頻尿、むくむ、下痢、おりものが多い。
こういった症状が気になる方は、『腎』を整えることが大切です。
にら、くるみ、唐辛子、羊肉、エビなどを積極的に摂ることがお勧めです。
『肝』『腎』型更年期
目が疲れる、元気がない、物忘れがひどい、耳鳴り、めまい、のぼせ、ほてり、足腰がだるい。
こういった症状が気になる方は、『肝』と『腎』の両方を整えることが大切です。
山芋、セロリ、白菜、豆腐、湯葉、卵、牛乳、豚肉、貝類などを積極的に摂ると良です。
『脾』型更年期
食欲がない、疲れやすい、手足がだるい、お腹が張る、便秘。
このような症状が気になる方は、『脾』を整えてあげることが大切です。
穀類、山芋、じゃがいも、キャベツ、カリフラワー、しいたけ、鶏肉、牛肉、スズキ、イワシ、マナガツオなどを積極的に摂ってあげると良いです。
更年期を陰陽で考える
年齢と共に、体を潤す「血」、「水」、「精」などの「陰液」が減少して、「陰虚」という状態になります。そして、相対的に「陽気」が多くなります。
つまり、更年期は体の陰と陽のバランスが変わる陰陽転化の時期になります。
「陽」は温める力です。「温活」は、体に良いことですが、更年期は、体が冷えているからといってむやみに温めてはいけない人もいます。
温めることで、「陽気」が増え、「陽気」は、上昇の性質がある為、顔はのぼせ感があり、手足は冷えている状態になってしまいます。
ある程度、「陰」が減少すると、今度は、「陽」が少しずつ少なくなり、体が冷えやすくなっていきます。
まずは「陰」が不足しないように、睡眠をしっかりとり、日々穏やかに過ごし、「陰」の消耗を防ぎます。
陰ヨガで「陰」を養うのもオススメです。
『腎』の力を高めよう
ウエストラインには「腎兪」というツボがあります。
手の平を「腎兪」の上に置き、「腎兪」にエネルギーを送るようなイメージで深い呼吸を行ったり、矢印の方向で「腎兪」の周りを撫でたりすると、「腎」の力が強くなります。
反対方向にすると、エネルギーが外へ散っていくので気をつけてください。
参考資料
- 臨床に役立つ五行理論ー慢性病の漢方治療ー 土方康世著/東洋学術出版
- 実用 中医薬薬膳学 辰巳洋 著/東洋医学術出版
- YOQI yoga+qigong MODULE:1 QIGONG FUNDAMENTALS TRAINING WORKBOOK