手を胸に当てて目を閉じる女性の横顔

今さら聞けないヨガの基本「5つのヤマ(禁戒)」

アーサナ(ポーズ)でヨガに出会った人の中でも、ヨガを長く続けているとヨガの哲学に興味を持ち始める人がとても多いです。

そして、ヨガ哲学を学ぶときに1番頻繁に取り上げられるのが『ヨガ・スートラ』のヤマ(禁戒)とニヤマ(勧戒)です。

「ヤマってヨガの養成講座で習った気がするけど、イマイチよく分かっていない。」そんな人も多いかもしれません。

今回は、ヨガを練習している人が覚えておきたいヤマの基本をまとめます。

アーサナ(ポーズ)だけじゃない、生活のヨガ「ヤマ」

窓辺でマグカップを手に椅子に座る女性の姿
現在世界中で練習されているヨガは、ヨガ・スートラという古典の教典を土台にしていると言われています。

教典ヨガ・スートラでは、”8支則という8つの実践方法を順番に行うことで、人生のあらゆるものから自由な状態に到達できる”と説いています。

8つの段階とは以下の通りです。

  1. ヤマ(禁戒):社会的な禁止事項
  2. ニヤマ(勧戒):自分に対する制御
  3. アーサナ(座法):安定的な座り方
  4. プラーナーヤーマ(調気法):呼吸でプラーナ(気)をコントロール
  5. プラティヤーハーラ(制感):外界から受ける感覚を断つ。
  6. ダーラナ(凝念):意識を一点に集中。
  7. ディヤーナ(静慮):深い瞑想。ダーラナで一点だった対象を広げる。
  8. サマーディ(三昧): 自我を忘れて心の働きが停止した状態。

これを見て分かる通り、普段ヨガの練習で行っているアーサナ(ポーズ)の練習は、8支則の中では3番目の練習です。

つまり古典的なヨガでは、アーサナの練習より先に2つの練習を勧めていることが分かりますね。

今回ご紹介するヤマは、8支則の1番目であり、全てのヨガを行う人にとっての基本です。

生活中で行うヨガ「5つのヤマ」

顔をしかめて手でバツ印を作る女性
それでは、ヤマではどのような練習を行うのかをご紹介します。

ヤマの中には5つの教えが含まれています。

  1. アヒムサー(非暴力):暴力を振るわないこと。
  2. サティヤ(正直):嘘をつかなこと。
  3. アスティヤ(不盗):他人のものを盗まないこと。
  4. ブラフマチャリヤ(禁欲):性欲などでエネルギーの無駄遣いをしないこと。
  5. アパリグラハ(不貪):所有しないこと。

初めて見ると見慣れないサンスクリット語のカタカナ名で頭が痛くなってしまいますよね。

誰でも最初は、ヤマ5つ、ニヤマ5つを暗記するのが大変で絶望してしまいます。

しかし、それぞれの意味を見てください。まるで両親や先生が子供に教える道徳の様に優しい教えが並んでいます。

実はこれらの実践を行えば、自分自身の心を穏やかにすることができます。

日常生活で生み出される様々なストレスの原因を抑制する効果もあり、アーサナから始まる本格的なヨガの練習の効果を何倍にもしてくれます。

ヤマの5つの教えを1つずつ見ていきましょう。

アヒムサー(非暴力)で心の穏やかさを

アヒムサーとは、暴力をふるわないことです。

「それがヨガなの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、ヨガを行う人にとってアヒムサーの実践はとても大事なものです。

ヨガをどうして始めたのかを考えてみましょう。

身体の不調を取り除きたい、もっと健康的になりたい、ストレスから解放されたい、癒しの時間が欲しいなど。ヨガとは自分を苦しめている原因を取り除き、自分自身に優しくなるためのメソッドだと考えることができます。

自分の大切な時間とお金を使ってヨガを始めたいと思い立ったその瞬間から、すでに自分に対する優しさが生まれています。

ところが、私たちの思考は習慣的に無意識でネガティブな方向に行きがちです。その習慣を意識して直していくのがアヒムサーの実践です。

例えば「自分に自信が持てない」「自分のことを好きになりたい」と思う人も多いのではないでしょうか?ヨガを練習して、しっかりと自分に向き合って、ありのままの自分を受け入れてあげたい。そう思っていたはずです。

しかしヨガを練習しているうちに新しい悩みが生まれてしまうことがあります。「ヨガウエアが似合わないポッチャリ体型で恥ずかしいな」「憧れのヨガの先生になったのに集客が不安過ぎる」「ロハスな生活をしたいのに、忙しくてついつい雑な食生活」。

自分のできていない部分を探して「私はダメな人間」と自分に言い聞かせてしまうのも、自分に対する暴力性です。

自分を1番苦しめているのは自分自身です。ヨガを始めたいと思った、自分を大切にしたいと思った自分を思い出してみましょう。

まずは自分に優しくなることで、周囲にも優しさを広げることができます。

八支則(ヤマ・ニヤマ)を日常に取り入れるコツ!ヨガ哲学の実践

サティヤ(正直)で心が自由で軽やかに

サティヤとは、嘘をつかないことです。

「人を騙してはいけませんよ」、まるでお母さんが子供に説くような教えですね。

誰でも分かっていても、守ることはとても難しいです。

誰でも小さな嘘をついたことがあると思います。小さな嘘がどれだけストレスを生み出すのかを考えてみましょう。

「ちゃんと歯を磨いたの?」と母親に言われた時に、歯磨きが面倒でうっかり「もう磨いたよ!」と嘘をついてしまったりします。だけど、たいがい母親はお見通しです。

「歯ブラシが渇いたままだよ」と指摘されてドキッとすると、「あれ?もしかしたら妹の歯ブラシを使っちゃったかもしれない」ととぼけた嘘を重ねることになります。

妹の歯ブラシも濡れていなければ、「磨いたよ!けっこう前に磨いたから、もう乾いたんだよ!」と言い逃れを続けなければいけません。

その都度「嘘がバレたら怒られる。怒られるのは嫌だ。」と心の中に緊張とストレスが溜まっていきますね。さらには「お母さんはいつも私を信じてくれない」と、逆に母親を責めてしまうかもしれません。

このように小さな嘘も大きなストレスの原因となります。

また、次々と嘘をバレなくするための新しい嘘のストーリー作りが行われて、心の中が嘘で満たされていきます。頭の中がどんより濁っていく様子が想像できますね。

たとえ間違いを犯してしまっても、嘘でごまかさない、嘘をつかないことを学ぶと一気に心が軽やかになります。

心が軽くなる本当の正直さ『サティヤ』

アスティヤ(不盗)で豊かさを得る

他人のものを盗むことは、「自分のもとに富を集めたい」というエゴによって起こります。

お互いに富を奪い合うような社会は考えただけで息苦しいですよね。

例えば、レストランでクレームを入れるとします。本当にお店側に落ち度があるのなら、今後のために指摘することも正しいでしょう。

しかし、相手の落ち度を見つけた瞬間に、ものすごい剣幕で店員さんを怒鳴りつけるのは良くないですよね。

小さな虫が入っていたとして、責任を取りなさい、店長を呼びなさい、こんなに迷惑をかけられたのだから相当のサービスをしなさいとネチネチと要求したら、明らかに過剰ですね。

その時に、何を相手から奪ってしまったのでしょうか。

対応したバイトの子は、接客業で働く自信を失い、周りのお客さんからは快適な食事の時間を奪い、お店全体をマネージングする店長さんの時間も必要以上に奪ってしまいます。

クレームを入れた本人は「1食分の食費が浮いた」と喜んでも、それ以上に沢山のものを奪ってしまっていますね。

盗むということは金品だけではありません。相手の時間や労力など、あらゆるものが含まれます。

自分が奪えば、相手は構えますよね。すると、人間関係はギスギスして緊張感のあるものになります。また、みんながお互いに奪おうとすれば、世界はとても生きにくいですね。

逆に、自分が人から奪わずに与える人なら?

周りの人も喜んで自ら与えあう関係が出来上がります。すると、自分から欲しなくても自然と富が集まります。

同じクレームでも、小さな声で「虫が入っていたから気を付けた方がいいよ!忙しいけど頑張って!」と声をかけられたら、お店側も喜んでサービスしたくなってしまいます。

奪わないことは、逆に富を生み出してくれるのですね。

アステイヤ(不盗)で受け取る本当の富 -日常に取り入れるヨガの教え-

ブラフマチャリヤ(禁欲)で自分を高める

ブラフマチャリヤは禁欲と訳されます。

インドでは伝統的にヨガ修行者は禁欲を守ることが定められていました。それは、ヨガの勉強を頑張らないといけない時期に、練習のための大切なエネルギーを性欲に奪われてしまったり、集中力が無くなったりするからです。

私たちも、ヨガを頑張りたい時にはブラフマチャリヤのアイディアを取り入れることができます。例えばアルコールを避けること。夜な夜な遅くまでお酒を飲んでいたら、当然早起きしてヨガを練習しようとしても上手くいきませんよね。

ヨガのティーチャートレーニングをしている期間だけでも、ヨガの勉強に打ち込むためにSNS を見ることを制限するのもいいでしょう。

ヨガはひたむきにむきあうと、その熱量に比例して恩恵を受け取ることができます。今の自分にヨガが必要だと思ったら、ヨガに向き合う時間を増やすことが、自分にとって愛情なのではないでしょうか。

アパリグラハ(不貪)は快適さの元

沢山のものを所有していれば幸せという価値観は、近年ではすっかり見直されている感じがします。ミニマリストという価値観も定着してきました。

それでもお買い物をする快楽はなくなりません。セールの時にお買い物に行ったら、ついつい割引に踊らされて不必要な洋服まで買ってしまうことは誰でも経験がありますよね。

洋服が増えたら幸せかというと、クローゼットの中がごちゃごちゃして片づけが大変だったり、沢山洋服があるのに不思議と着るものがなかったり。なぜか心労の方が多くなることがあります。

そんな時は、1度思い切って最低限のもの以外を手放すと楽になったりします。

例えば、頑張って購入した車だけど決心して手放したら、メンテナンスの手間や維持費や、それについて考える時間が手放せてとても楽になります。

本当に自分にとって必要なものと、必要ないものを、生活の中から見直すといいでしょう。

アパリグラハ(無所有)を学んで心の自由を手に入れる

ヤマを取り入れたヨガ的生活

ヤマの5つの名前を見た時には、見慣れないサンスクリット語にたじろいでしまいますが、内容はいたって分かりやすいものばかりですね。

5つの名前を頑張って覚えなくて大丈夫です。1つでいいので実践できそうなものを考えてみましょう。

日常の中でも実践できるものが見つかると、一気にヨガが身近になります。

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