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インドの伝統的な修行法にタパス(苦行)というものがあり、『ヨガ・スートラ』の中でもニヤマの1つとして登場します。
苦行と言っても、厳しい断食や修業をするだけではありません。
私たちが人生を変えるためには強い意志を持って自分の決心したことをやり遂げる必要がありますが、その心の強さを磨くのがタパスです。
3種類のタパスについて学んで、自分を高めるヨガとはどのようなものなのかを考えてみましょう。
自分を高めるタパス(苦行)とは
タパスはインドの伝統的な修業ですが、長らく「苦行」と訳されてきましたが、もともとの語源を考えると「熱業」と訳すことができますし、単純に「修行」と訳す場合もあります。
タパスとは、熱を持って自分の内側の不純性を燃やす修業です。
例えば怠け心はタパス(暗質)の心の働きですが、自分自身の強い意志をもって毎朝早朝の瞑想を続ければ、怠け心という自分の内側の不純性に打ち勝つことができます。
このようにタパスの性質を持った不純性を燃やし、サットヴァ性(純粋さ)を高めます。
インドではタパスとして非常に厳しい修業が行われてきました。
例えば断食では、食欲という欲望に打ち勝つことで強い心が育ちます。極寒のヒマラヤの山奥での瞑想では、寒い暑いといった感覚器官に打ち勝つことができます。
しかし、伝統的な修行者のタパスはあまりにも厳しいものが多く、社会生活を行いながら実践するのが難しいものが多いです。
そこで、教典『バガヴァッド・ギーター』では、社会の中で日常生活を行いながら実践できる3種類のタパスについて説きました。
社会生活の中で実践できる3種類のタパス(苦行)
バガヴァッド・ギーターでは3種類のタパスについて説いています。
- 肉体的なタパス
- 言語的なタパス
- 心的なタパス
肉体的なタパスは実際の行動によって実践するので1番分かりやすいです。言語的なタパス、心的なタパスは無意識の習慣で意識がしにくいので、もっと難しいと感じるかもしれません。
それぞれどのように説かれているのか見ていきましょう。
自分の行動をコントロールする肉体的なタパス
肉体的タパスとは、神々バラモン、師に礼拝すること、シャウチャ(清浄)、正直、ブラフマチャリヤ(禁欲)、アヒムサ(非暴力)である。(バガヴァッド・ギーター17章14節)
この1節に書かれたタパスの中のいくつかを詳しく考えていきましょう。
神聖な存在への礼拝の行為
バガヴァッド・ギーターで説かれたタパスの1番目に書かれているのは、神聖な存在への礼拝です。
このような行為は、バガヴァッド・ギーターではバクティ・ヨガ(信愛のヨガ)、ヨガ・スートラではイシュワラ・プラニダーナ(神への祈念)として説かれています。
このバクティ・ヨガは自分の中のエゴ(自我意識)を弱めるのにとても効果が高い実践です。
例えば海で水平線に沈んでいく大きな太陽を見ている時、私たちはその圧倒的な美しさの前で自分に対する小さなこだわりについて考えが及ぶことがないと思います。
私たちは日常から自分に対する固執が大きいから、何かを所有したいと思ったり、自分が他者より優れていたいという比較したりし、欲望が叶わない苦悩を生み出します。
バクティ(神的な存在への信愛)を育てることは、自分に対する固執※1を育てるのにとても効果的です。
- ※1 固執:自分の考えや意思を固く守ってまげないこと。
自信を清浄に保つシャウチャ
シャウチャはヨガ・スートラにも出てくる有名な教えです。
インドの伝統的なヨガの修行者は、早朝にガンジス河などの水で身体を物質的にもスピリチュアル的にも清めます。
鼻うがいや舌ブラシで鼻孔や口腔内を綺麗にする方法は、日本でもポピュラーになってきています。
私たちの心と体は繋がっています。
ヨガによって心の内側の純粋さを高めたい人は、自身や、自分のいる場所も清浄な状態に保っておきましょう。心が乱れている時には自分の部屋も散らかってしまうことがありますね。
ヨガのアーサナで身体の強張りを取り除き、消化しやすい食事で胃腸の調子を整えることも、シャウチャに繋がります。
アヒムサ(非暴力)も心の不純性を取り除くタパス
アヒムサはヨガ・スートラのヤマで最も有名な教えで、暴力を行わないことです。
暴力性は、私たちの心に殺意や嫌悪という大きな不純性が生まれた時に高まります。
人はフラストレーションが高まると、自分に対する暴力性が高まってしまうこともあります。
例えば、嫌なことがあった時に、許容量以上のアルコールを飲んで悪酔いをしてしまったり、わざわざ人に憎まれるような言動を行ってしまったりするのも、自分を大切にしない行為です。
心が疲れてしまっている時ほど、自分や他人に優しくすることは簡単ではありません。しかし、意識して繰り返し言い聞かせることで、自分の思考を変えることができます。
言葉には大きな力があるから気を付けたい言語的なタパス
言語的なタパスとは、サティヤ(正直)、優しく心地よい言葉、有益な言葉、他人の心をみだしたり扇動したりせぬこと、そしてヴェーダ聖典の読誦である。(バガヴァッド・ギーター17章15節)
インドでは、言葉が世界を作り出すという、日本の言霊(ことだま)に似た考えがあります。
そのため、自分の発する言葉には慎重にならなくてはいけません。
嘘をつかないサティヤ(正直)
サティヤは嘘をつかないこと、正直であることであり、ヨガ・スートラでもヤマの1つとして知られています。
嘘と言うのは、心の中の大きな不純性です。
1つ嘘をついたら、それがバレないように、次から次に別の嘘をつかないといけなくなってしまうことがあります。
また、ついた嘘を忘れてしまうとバレてしまうかもしれないので、ずっと不純な嘘を記憶として心の中に保存しておかないといけなくなりますね。
人と話している時に、知らないことを言われても、話の流れを邪魔したくなくて知っているふりをしてしまうことも起こりがちです。
嘘をつかない実践サティヤも、小さな嘘が癖になっている人にとってはとても難しいことです。
習慣になってしまっている人は無意識に嘘をついてしまうので、ずっと気を付けていなくてはいけません。
最初は難しく感じますが、強い意志を持って実践すると自分の心がびっくりするくらい軽くなるのを実感できます。
教典を読むこともタパスの実践
教典を繰り返し読むことは、スヴァディヤーヤ(読誦)としても知られています。
例えば、バガヴァッド・ギーターであればクリシュナという神様の言葉、ヨガ・スートラであればパタンジャリという聖者の言葉です。
真理を知った人の言葉を繰り返し読むことによって、その聖者の考えの本質が少しずつ感じられるようになってきます。
1度だけではなく繰り返し読むことが大切です。
また、インドの教典はサンスクリット語という神の言葉で書かれています。サンスクリット語を発音すると、その音の波動そのものに神聖なエネルギーがあります。
自分の心を制御する心的なタパス
心のタパスとは、心の平和、温和、沈黙、自己抑制、心の浄化に努めることである。(バガヴァッド・ギーター17章16節)
自分の心をコントロールする心的なタパスは最も難しい実践です。
私たちの思考の9割ぐらいは、習慣的なパターンで無意識に行われています。
自分の心をコントロールするというのは、目覚めている時間ずっと自分の思考に意識を向け続けなくてはいけない厳しい実践です。
心のタパスを実践するためには、先にご説明した肉体的なタパスと言語的なタパスを継続することが大切です。
自分の心の中に不純性が生まれにくい状態を物質的に作り出すことで、少ない努力でも心的なタパスが実践できるようになります。
例えば、アヒムサ(非暴力)を実践することで、周囲との衝突が減ります。人間関係でのフラストレーションが減れば、自然と心が穏やかになります。
もしくは、瞑想によって心の働きを制御することも心のタパスです。
心的なタパスは、自分の思考のパターンをじっくり観察する習慣です。どのような時に、不純な思考が現れやすいのか、どうしたら原因を取り除けるのかに努力を向けます。また、ネガティブな思考が生まれた時に、どのようにそれを解消できるのかを探します。
とても難しいですが、自分の心を理解することは、自分の人生をかえる大きな力になります。
3つのタパスで心地よい人生を見つける
今回紹介した3つのタパスは、全て心の中から不純性を取り除くためのアプローチです。
暴力性、妬み、嫉妬、嫌悪、欲望などのネガティブな感情を解消するためには、自分自身で強い意志をもって習慣を変えることが大切です。
習慣的に表れる不純な心に立ち向かうことはとても困難です。
しかし、少しずつ心の習慣化したパターンが変わってくると、自分の人生そのものが軽快で幸せな方向に向かっていくのを感じることができます。
ぜひ、自分にできるタパスを考えてみましょう。