「ピーターラビット」~小さな生き物達への愛あふれるヨギー~

「ピーターラビット」~小さな生き物達への愛あふれるヨギー~

こんにちは!丘紫真璃です。今回は、誰もがお馴染み「ピーターラビットのおはなし」を取り上げたいと思います。

今年2022年は出版120周年ということで、東京や大阪、静岡で、ピーターラビット展が行われています。

実際に展示会を訪れた人も多いかと思いますが、改めてピーターラビットを味わいたいと感じて、久しぶりにピーターラビットの本を開いてみたという方や、家になかったから本を購入してみたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そう言う私も、ピーターラビット展に触発されて、このコラムで取り上げようとしているわけなのですが、さて、ピーターラビットとヨガはどのようなつながりがあるのか、ピーターラビット展に行かなかったという方もご一緒に!ピーターラビットの世界に遊びに行ってみましょう。

「ピーターラビット」の著者、ビアトリス・ポター

草陰から顔を出すウサギの写真
草陰から顔を出すウサギの写真

作者のビアトリス・ポターは、1866年に生まれたイギリスの絵本作家です。

ピーターラビットの本を読んだことはないという方はいらっしゃっても、ピーターラビットのイラストを1度も見たことはないという方は、ほとんどいないのではないでしょうか。

それほど、ピーターラビットは、日本でも有名ですよね。

「ピーターラビットのおはなし」は、ポターが、自分の家庭教師だったアニー・ムーアの子どもに送った手紙がきっかけで生まれました。

アニー・ムーアの息子ノエルが病気だった際、ポターはお見舞いの絵手紙をノエル少年に送ったのですが、その絵手紙の内容が、こんなものだったのです。

ノエル君、あなたになにを書いたらいいのかわからないので、四匹の小さいウサギのお話をしましょう。四匹の名前はフロプシーに、モプシーに、カトンテールに、ピーターでした。
(「ビアトリクス・ポター」)

この絵手紙が、後の「ピーターラビットのおはなし」の絵本につながったのです。

「ピーターラビットのおはなし」の原稿は、初めはどの出版社にも引き受けてもらえませんでした。

そこで、ポターは1901年12月16日に自費出版に踏み切ります。

ポターが自費出版した本は非常に好評で、初版250部はたちまち売り切れてしまいました。

その購入者の中には、あのコナン・ドイルもいて、とても気に入っていたというのですから驚きますね。

その後、フレデリック・ウォーン社での出版が決まり、1902年10月2日の初版8,000部は予約で売り切れてしまうほどの人気ぶりでした。

1903年末までには5万部売れ、ポターは一躍、人気絵本作家の仲間入りを果たします。

ちなみに、ピーターラビットのモデルは、ポターが飼っていたピーターという名前のウサギです。

ポターは、ピーターのスケッチを非常にたくさん書いていましたが、それが、絵本のピーターラビットにつながったんですね。

ポターの自然保護活動

ポターが飼っていたのはウサギだけではなかったようで、ハツカネズミ、ハリネズミ、リス、カエル、トカゲ、ヘビ、カメ、コウモリなど様々な動物を飼って、非常によく観察し、多くのスケッチを書いています。

本当に、心から動物を愛していた人だったのですね。

いろいろな動物を飼育していただけではありません。

ポターは、設立間もないナショナル・トラスト※1に共鳴し、絵本の収入が安定するようになると、その資金を使って、自身が愛していた湖水地方の土地や建物を次々に購入しています。それらの土地を全て、ナショナル・トラストに寄付したのです。

ポターが寄付した土地は400エーカー以上だそうですが、そのように多くの土地を購入することで、ポターは湖水地方の緑豊かな自然をそのまま守ったのです。

ポターは、湖水地方の自然の中で生きている野ウサギをはじめ、たくさんの生き物たちを本当に心から尊敬し、大事にしていたことがよくわかりますね。

  • ※1 ナショナル・トラスト:国民のために、国民自身の手で大切な自然環境という資産を寄付や買い取りなどで入手し、守っていく運動。もしくはその活動を行う非営利団体。

動物たちへの愛あふれる絵

ウサギやアライグマなどの動物のイラスト

湖水地方の緑豊かな自然の中で生きる生き物達。ポターがどんなにか小さな生き物達を愛していたかということは、ピーターラビットをはじめとして、ポターの様々な絵を見れば、よくわかるような気がします。

ピーターラビットが出版された当時、動物が服を着て2本足で歩いている絵は決して珍しくありませんでしたが、ポターの絵は、そういう絵と動物達のリアルさが明らかに違いました。

ピーターラビットの絵をよくよく見てみると、ピーターラビットは非常にウサギらしいウサギだということがよくわかりますよね。

まゆがひそんでいたり、笑っていたりと、まるで人間かと思うような表情ではなく、もういかにも、リアルなウサギの表情をしています。

マクレガーさんに追いかけられて走ったり、にんじんをかじっていたり、お母さんウサギに上着のボタンを留めてもらったり、開かないドアに手をかけて涙をこぼしている絵でさえ、ウサギらしさにあふれた表情をしているのです。

どこまでもウサギらしいウサギなのに、ピーター達の気持ちが手に取るようにわかる。それが、ポターの絵の特徴じゃないかと思うのです。

そして、そこまでウサギらしいウサギを何とも言えない温かみとかわいらしさで描き切ることができたのは、ポターが自然の中で生きる生き物達を心の底から愛して、尊敬していたからではないでしょうか。

「ピーターラビットのおはなし」が、ここまで普遍的に世界中で愛され続けたのは、どこまでもウサギらしいウサギだったからこそではないかな、と私は思ったりするのです。

ウサギ達に宿る神

ウサギや犬、猫などの動物たち

「ピーターラビットのおはなし」をはじめとして、ポターの絵本の全てに宿る動物達への深い愛。

緑豊かな自然の中で懸命に生きる小さな生き物達への愛と尊敬が、ポターの中にあふれていたことがこのコラムをお読みいただいただけでもお分かりいただけると思いますが、その心はまさしく、ヨガと深くつながっていると、私はそんな風に思うのです。

ヨガでは、生きとし生きる全ての物の中に神が宿っていると考えます。

ピーターラビット達のようなウサギの中にも、ハリネズミの中にも、キツネの中にも、アヒルの中にも、リスの中にも、子ブタの中にも、どんな小さな生き物の中にも、確かに神が宿っているのです。

だから、どんな小さな生き物も大事にするということは、ヨガと深くつながってくるのです。

なぜって、全ての小さな生き物達はみんな、神様なのですから。

動物達への愛にあふれた絵本で稼いだ収入で、湖水地方の土地を次々に購入して、緑豊かな自然とそこで生きる生き物達を守ったポターは、もうまさしく、パタンジャリも脱帽のヨギーといえるのではないでしょうか。

「ピーターラビットのおはなし」は、ビアトリス・ポターの生き方を知ればますます深みと魅力が増す…そんな絵本のような気がします。

ピーターラビット展は、静岡でも残り日数わずかですが、お近くの方はぜひ!足を運んでみてはいかがでしょうか。

そしてまた日本全国どなたも、「ピーターラビットのおはなし」を手に取って、その温かみあふれるピーター達の絵とお話に浸っていただきたいと思います。

参考資料

  1. 『ビアトリクス・ポター』2001年 ジュディ・テイラー著 吉田新一訳 福音館