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現代世界中で実践されているハタヨガの源となったタントラは、とても神秘的で、ちょっと怪しげなイメージがあります。
ハタヨガの教典である『ハタヨガ・プラディーピカ』などを読んでも、何が書いてあるのか全く分からない部分が出てくると思います。
しかし、そんなシンボリックな表現を解き明かすのは面白いですよね。
今回はタントラで使われる5つの象徴であるパンチャ・マカラについてご紹介します。
Mで始まる5つの象徴「パンチャ・マカラ」とは?
パンチャ・マカラはタントラで重要なものを5つの「M」で始まる単語で示したものです。
- マッダャ(ワイン、アルコール)
- マムサ(肉)
- マツヤ(魚)
- ムドラムドラー(印)
- マイトゥナ(性行為)
Mで始まる5つのものは、タントラで重要なクンダリーニ※1の覚醒とシャクティの上昇に重要だと考えられます。
しかし、この5Mはとても誤解を呼びやすいものでもあります。
タントラの流派の中でも、パンチャ・マカラを文字通りに受け取って取り入れる流派もあれば、あくまでもシンボルでしかないと考える両方の流派があります。
素直に文字通りの意味で読み取った人たちは、直接アルコールを飲んだり肉を食べたりします。なんだかとても俗世的ですね。
これでは本来ヨガで目指すような悟りと遠く離れているきがするので、やはりシンボルとしてとらえるのがしっくりきます。
今回はパンチャ・マカラの5つが何を意味しているのか、シンボルとして説かれる場合の解釈をご紹介します。
- ※1 クンダリーニ:身体の中に存在するとされる根源的な生命エネルギー
生命の源の象徴「マッダャ(ワイン、アルコール)」
マッダャ(ワイン)は神の甘露として知られるアムリタを意味していると考えられています。
ハタヨガの教典にはこのアムリタという単語が頻繁に登場します。アムリタは不死を与える甘露として知られ、インドの神話でも登場します。
ヨガでは、アムリタを失うことは死に繋がると考えられています。
アムリタは体内では喉元にあり、喉から腹部の位置にある火にポタポタと落ちて燃やされます。体内の火が燃えて生まれたエネルギーによって、人々は生命活動を行っています。
そのため多くのハタヨガのポーズでは、アムリタが全て燃やされて生命が消えないようにと、アムリタが落ちるのを防ぐアーサナが実践されます。
有名なものだとシールシャアーサナ(頭立ちのポーズ)では、胃の位置が喉よりも高くなるため、アムリタが火に向かって落ちるのを防ぐことができ、不死を得ることができると考えられています。
自分の舌を食べる「マムサ(肉)」
マムサ(肉)は誤解を生みやすい象徴です。
一部のタントラ僧の中には、実際に人肉を食べてエネルギーを得ようとする恐ろしい流派も存在していますが、多くの場合マムサ(肉)も象徴でしかないと考えられています。
マムサは自分自身の舌を象徴していると考えられています。
「舌を食べる」には2つの意味があります。
発言をコントロールする
よく言われているのは、自分自身の発言をコントロールすることです。
舌を食べるということは、話せなくなることです。
多くのハタヨガ教典では「おしゃべり」や「交際」をヨガの成就を邪魔するものであると説いています。
必要以上におしゃべりをしてしまうことは、内観を行うヨガにとっては障害でしかありません。
マウナと呼ばれる沈黙の修業もポピュラーです。
ケーチャリー・ムドラー
あるいはケーチャリー・ムドラーという古典ハタヨガの重要な実践法を意味していると考えられています。
ケーチャリー・ムドラーは多数のハタヨガ教典に説かれていますが、実践はとても難しいです。
まずは、舌を伸ばさなくてはいけません。毎日ナイフで少しづつ、舌の下にある筋の部分を切断していきます。それによって舌の長さが伸びたら、舌を喉より奥までしまい込みます。
ケーチャリー・ムドラーが出来るようになると、宙を浮くような神秘体験が速やかに起こるそうです。
2つのエネルギーが出会う「マツヤ(魚)」
マツヤ(魚)は、マツヤアーサナというヨガのポーズでも知られている身近な言葉です。
このマツヤは、体内の2つのエネルギーを象徴していると言われています。
体内には左右の鼻孔から始まる2つの気道があり、それをイダー(左の鼻孔からの気道)とピンガラー(右の鼻孔からの気道)と呼びます。
イダーとピンガラーは、鼻孔から始まり、体内で何度か交差します。
その光景が、インドの2つの聖なる川(ガンジス河とヤムナー河)が交わる場所のようだと例えられ、川で泳ぐ魚が象徴とされているのだと言われています。
また、魚はイダーとピンガラーの中にエネルギーを流すためのプラーナーヤーマ(調気法)の実践を意味しているのだとも考えられています。
象徴的な印を作るムドラー(印)
ムドラーは印という意味ですが、穀物を示していると考えられる場合が多いです。
ハタヨガでは、クンダリーニを覚醒させるための実践方法でもあります。
ハタヨガでは、様々な種類のムドラーが行われています。有名なところだと、バンダ(締め付け)というテクニックもムドラーに含まれています。
バンダは身体の内側のある部分を締め付ける実践を、呼吸やアーサナと組み合わせて行うものです。時には、先ほどのケーチャリー・ムドラーのように、神秘的な実践法もあります。
シヴァとシャクティの出会いマイトゥナ(性行為)
マイトゥナ(性行為)もとても誤解を呼びやすいものです。
実際にタントラと深い関係のあるチベット密教でも性行為は代表的な修行法の1つでした。
インドではカジュラホの大寺院群が性的なモチーフで埋められていることでも知られて、タントラとは性的な怪しいものだと世界中でイメージされるようになりました。
チベット密教のように実際に性行為を行う修業は、ハタヨガ・プラディーピカの中でもムドラーの1つとして紹介されています。
しかし、現代のハタヨガではマイトゥナ(性行為)も象徴でしかないと考えられることが多いです。
ハタヨガでは、クンダリーニを覚醒して上昇させた結果、人間の胴体の底辺にあるシャクティ(女神)エネルギーと、頭頂にあるシヴァのエネルギーが出会い、人は覚醒するのだと考えられています。
この状態こそハタヨガの悟りの状態であり、宇宙の真実の知識と繋がることができるとされます。
クンダリーニを覚醒させるためには、アーサナ(ポーズ)、プラーナーヤーマ(調気法)、ムドラー(印)の3つの実践を行います。
つまり、ハタヨガの成功の状態をマイトゥナ(性行為)と象徴的に読んでいるのだと考えられています。
タントラは難しいけど面白い
このように、ハタヨガの源流でもあるタントラでは様々な象徴的表現を使ってヨガについて説かれます。
最初はとても難しく感じられますが、意味が分かるととても興味深い教えが多いです。
ヨガをもっと楽しむためにも、古典的なハタヨガの教えがどのようなものか学んでみるのはいかがでしょうか。