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ヨガのチャクラについて学んだことがある方も多いと思います。体内に6つのエネルギーのポイントがあると言われても、実際に体感しないとなかなか分かりにくいものですよね。
チャクラはハタヨガの普及によって世界的に知られるようになりましたが、いったいどこから生まれてきたものなのでしょうか?
今回はハタヨガが体系化する前の時代のタントラで信じられていたチャクラについて、マニアックに深掘りしてみます。
チャクラの考え方ってどこから来たの?
ヨガでよく耳にするチャクラ。神秘的な響きで、ヨガに限らずスピリチュアルな考え方をする人たちの中で頻繁に使われています。
このチャクラですが、ヨガの教典であるヨーガ・スートラでは全く登場しません。それでは、いつからヨガの実践に取り入れられるようになったのでしょうか。
ヨガとも関わりのあるチベット仏教の一派である無上瑜伽タントラでは、5つのチャクラが身体の中にあると考えています。(4つ、6つという説もある)チベット仏教はヨガやタントラに大きな影響を与えています。現代のハタヨガはインドのヒンドゥー教的なタントラの要素がとても強いヨガですが、チベット仏教的なテクニックの影響も大きいようです。
ヨガのチャクラはヤントラと呼ばれる特徴的な模様で描かれますが、これもチベット密教やヒンドゥー教系のタントラで使われる模様から来ています。ヤントラは、神様を祭る祭壇を図形で簡略化した模様です。仏教でも仏像は必ず蓮の花の座に座っていますが、同じように蓮の花に座った神々を描いたヤントラを体内に持ってきたのがチャクラのヤントラです。だからチャクラは蓮の花で描かれているのですね。
タントラが説く体内の7つのチャクラ
タントラでは体内に6つのチャクラがあると説きます。そして、これら6つのチャクラの上にサハスラーラというチャクラがあります。今回はタントラの教典からチャクラについて引用してきました。私たちが知っているチャクラの色と、秘密に受け継がれてきた古代のタントラでは違う部分もあるかもしれませんが、ハタヨガの源流となる人たちがどのようにチャクラを見ていたのかはとても興味深いです。
ここに書くタントラ的なチャクラだけでは分かりにくいのですが、一般的なヨガのチャクラと見比べながら読むと面白いです。
- ※1 :チャクラってなに?意識することでヨガの効果が倍増
1ムーラダーラ・チャクラ
ムーラダーラは4枚の花弁の赤い蓮で表現されます。生殖器の基盤と肛門の位置にあります。属性は「土」と「水」です。
4枚の花弁は4つの至福を表しています。
- ヨガナンダ (ヨガの至福)
- パラマーナンダ(最高の至福)
- サハジャーナンダ(自然の至福)
- ヴィラ―ナンダ(英雄の至高)
ムーラダーラ・チャクラの位置にはクンダリーニという蛇の姿をしたエネルギーが眠っています。このクンダリーニによってブラフマンの扉と呼ばれるシュシュムナー気道の入り口がふさがれています。このチャクラは欲望による創造力の座です。
2スヴァディシュターナ
スヴァディシュターナ・チャクラはムーラダーラ・チャクラの上、へその下にあるチャクラです。果皮は赤く、花びらは稲妻のようだと表現されます。「火」から変化した「水」がスヴァディシュターナ・チャクラの属性です。
6つの花びらにはそれぞれの性質があります。
- praśraya:信憑性
- a-viśvāsa:疑い、不信
- avajnā:軽蔑
- mūrchchā:妄想、嫌悪感
- arva-nāśa:偽りの知識
- krūratā:無慈悲
3マニプーラ
マニプーラ・チャクラは10枚の花弁を持つ金色の蓮で、へその位置にあります。
「風」から生じた「火」の属性です。
10の花びらには以下のような特性があります。
- lajjā:恥
- piśunata:気まぐれ
- īrṣā:嫉妬
- tṛṣṇā:欲望
- suṣupti:怠慢
- viṣ āda:悲しみ
- kaṣāya:鈍さ
- moha:無知
- ghṛṇā:嫌悪
- bhaya:恐怖
円の中にアグニ(火)の三角形のマントラが書かれます。
このチャクラの位置で燃える火は、月(のど)から落ちる甘露(アムリタ)を飲み干します。体内のアムリタが全て消費された時が人間の寿命です。
4アナーハタ
アナーハタ・チャクラは12枚の花弁を持つ深紅の蓮の花で心臓の位置にあります。「空」から発生した「風」に属します。
12の花弁のそれぞれには次のような特徴があります。
- āśa :希望
- cinta :心配、不安
- ceṣṭā :努力
- mamatā :私の感覚
- ḍaṃbha:傲慢または偽善
- vikalatā :物憂げ
- ahaṃkāra :うぬぼれ
- viveka :差別
- lolatā :強欲
- kapaṭata :重複
- vitarka :優柔不断
- anutāpa:後悔
アナーハタは、下方の3つのチャクラを統治するイシュワラ神であり、彼の両手で祝福を与えて恐怖を払拭(ふっしょく)します。溶けたゴールドの色をしています。
5ビシュダ
ヴィシュダ・チャクラはデヴィ(女神)の住まいと言われ、のどの位置にあります。
「空」の属性であり、花弁は16枚あります。スモーキーな色をしており、もしくは煙を通して見える火です。
16番目の花弁はアムリタ(甘露)です。このアムリタは生命の根源だと考えられ、アムリタが使い果たされた時に人は寿命を迎えます。
蓮の花の中心にはアルダナーリーシュヴァラという両性具有の神がいます。アルダナーリーシュヴァラはシヴァ神と妻パールヴァティが左右半分ずつで描かれる神です。
またこのチャクラは満月としても知られています。
花びらには次のような特徴があります。
- śraddhā :信仰
- santosha :満足
- aparadha :誤りの感覚
- dama :自制心
- māna:怒り
- sneha :愛情
- śoka :悲しみ
- kheda:落胆
- śuddhatā:純潔
- arati:執着
- sambhrama :動揺
- Urmi :食欲、欲望
6アージニャー
アージニャー・チャクラは眉間にある2つの花弁を持つチャクラです。この位置からイダーとピンガラーの2つの気道は別々の方向に進みます。この位置には粗雑な(物質的な)属性はありませんが、微細な属性である「心」があります。
2枚の花弁と中心の果皮を合わせると3つとなり、これはサットヴァ・ラジャス・タマスという3グナを表します。
- ※1 :ヨガ的生き方の第一歩〜日常に活かす3つのグナ〜
中心の3角形の3つの角はヴィシュヌ・ブラフマン・マヘシュヴァラ(シヴァ)の3大神を表します。
- ※1 :インドの3大神とは?世界は「創造・維持・破壊」でできている
7サハスラーラ
アージニャー・チャクラの上には隠されたチャクラがあり、それがサハスラーラです。
このチャクラはヨガ実践者がイシュワラ(神)に出会うことのできる場所です。瞑想によって悟りを得た全てのグル(聖者)たちがここに留まります。
この蓮の花は全ての色を含み、1,000枚の花弁があります。
全てのチャクラの情報に位置し、あらゆるものが想像された最初の原因であるブラフマンそのものです。無知という闇を照らす太陽であり、宇宙に存在する全ての本来あるべき姿です。
サハスラーラには16枚の花弁の蓮が隠されています。
- kṛpā:慈悲
- myduta:優しさ
- dhairya :忍耐、落ち着き
- vairāgya :平静
- dhṛti:恒常性
- sampat:繁栄
- hasya:陽気さ
- romānca:歓喜
- vinaya:妥当性、謙虚さ
- dhyāna:瞑想
- susthiratā:静けさ、安らぎ
- gambhirya:重力
- udyama:努力
- akṣobha :無感情
- audarya:寛大さ
- ekāgratā:集中
チャクラを通して自分の内側の潜在的な特性を知る
タントラのテキストには、ヤントラと呼ばれる模様の説明が詳しく書かれていたり、インドの神様の名前が沢山出てくるので分かりにくい部分があります。
しかし、それぞれのチャクラに含まれている特性は、人間誰もが持っている性格と深くかかわる部分が多く、それを見直すきっかけになります。
より獣的な性質を持つ下方のチャクラには自己中心的で本能的な個性がありますが、人間らしい知恵のついた心臓の位置のチャクラでも、うぬぼれや傲慢さ、差別など、下手な知恵がついたことによって生まれるネガティブな感情が見られます。
これらは全て、人間として生まれてきた私たちに備わっている潜在的な特性です。時には自分の悪い部分が出る時もあるでしょうが、否定することはできません。
自分の中のあらゆる特性を理解して、受け入れて、統制する場所が額の位置のアージニャーチャクラです。何か上手く言っていない時には自分の内側のどの部分が乱れてしまったのかを理解し、バランスを整えるのがハタヨガです。
なかなか感じにくいと思う人が多いチャクラですが、自分の身体のどの部分に、どのような潜在エネルギーが宿っているのかを知ると、ヨガのアプローチも変わってくるかもしれません。
参考文献:「Introduction to Tantra Sastra」
Sir John Woodroffe著 2008年