こんにちは!丘紫真璃です。
今回は、講談社青い鳥文庫の大人気シリーズ「泣いちゃいそうだよ」を取り上げたいと思います。
最近、児童文庫というジャンルが増えてきているのをご存じですか?
小学校高学年から中学生くらいまでの読者を対象としており、マンガのようなイラストがついているのが特徴です。
気難しい大人ならば、「そんなマンガみたいな本を読んでいないで、名作を読みなさい!」などと小言を言いそうですが、そんな方はどうぞ、中身を読んでみて下さい。
涙あり、笑いあり、主人公の成長ありで、名作に劣らない光る作品がたくさんあるのです。
「泣いちゃいそうだよ」は、そんな児童文庫の代表と言える作品です。
さて、読者の子ども達に絶大な支持を集めたこの本とヨガとは、どんな関係があるのでしょうか?
児童文庫に馴染みのない大人の方々もどうぞご一緒に「泣いちゃいそうだよ」の世界をのぞきに行ってみましょう!
読者の子ども達に絶大な人気
作者の小林深雪さんは、青い鳥文庫を代表する作家先生の1人。
講談社X文庫などに100冊以上の著書があり、10代の少女を中心に人気を集める作家さんです。
シリーズ累計140万部を突破した講談社青い鳥文庫の代表シリーズと言える「泣いちゃいそうだよ」は、実際の中学生に悩みアンケートを取り、その中で多かった悩みを題材にして書いたのだそうです。
そのためか、中学生女子達が「ある、ある!」と、全力で首を縦に振りたくなるようなエピソードが満載。10代の少女達に大人気なのもうなずけます!
天パじゃなくて巻き毛
主人公は、中学2年生の小川凛。
「泣いちゃいそうだよ」は、凛の中学2年生の4月~3月までの泣いちゃいそうなエピソードがたくさん詰まったお話です。
例えば、凛は天パが悩みです。そんな悩みの種の天パをクラスメイトの意地悪な男子達にからかわれた凛は泣きそうになってしまいます。
唇を、かんでうつむくと、くるくるの髪が、頬にかかってきてうっとうしい。
こんな髪、ほんとは短くしたいよ。けど、それもできないの。
だって、ショートにすると、パンチパーマか大仏みたいになっちゃうんだもん。
だから、肩くらいにして、アレンジするしかないんだ。
この天然パーマのせいで、子供の頃から、ずっとからかわれたり、イジメられたりしてきた。
思い出したら、やだ、また、泣いちゃいそうだよ。
(『泣いちゃいそうだよ』)
泣いちゃいそうになった凛は顔を洗ってこようと大急ぎで教室を飛び出します。
ところが、凛があこがれている同じクラスの広瀬崇にぶつかってしまい、広瀬の制服のボタンに、凛の天パがからまってしまいます。
凛は泣きそうになって焦り、「ハサミで切っちゃって!」と叫びます。
こんな髪大嫌いだから、どうなったっていいって言うのです。
ところが、そんな凛に、広瀬は言います。
「この巻き毛、外国の子供みたいで可愛いと思うけど?」
え?
可愛い?
その言葉だけに反応して、かっと、頬が熱くなる。『天パ』じゃなくて、『巻き毛』って言い方にするとなんだか可愛く聞こえる……。
言葉って不思議だね。
(『泣いちゃいそうだよ』)
さらに、広瀬は、今の髪は凛によく似合っているよ、と言ってくれます。
それを聞いて嬉しくなった凛は、サラサラストレートヘアだったら、きっと髪は、広瀬にからまなかったよね、と思いつき、生まれて初めて、天然パーマで良かったと思います。
優秀な妹へのコンプレックス
凛のもう1つのコンプレックスは、優秀な妹です。
美人で、成績優秀、スポーツ万能。一緒に習い始めたピアノも、蘭の方がぐんぐん上達してしまいました。
妹の方がずっと上手になっていくのが悔しくて、凛はピアノを途中でやめてしまったのですが、そのことは今でも凛のトラウマになっていました。
そんな蘭が、ある日、広瀬と仲良くしているのを凛は目撃してしまいます。
自分がずっと片思いをしている広瀬が、自分よりも可愛い蘭とすごく親しげに話している場面を見て、凛は目の前が真っ暗になってしまいます。
「ひょっとしたら、この頃、広瀬が自分と仲良くしてくれていたのは、蘭と仲良くなりたかったせいかもしれない」と、凛は思い始めます。
というのは、今まで何度も、蘭と仲良くなりたくて、凛に近づいてくる男の子がいたからなのです。
凛は、広瀬も蘭が好きなんだと思ってすっかり気分が悪くなってしまい、帰宅後、家で蘭に八つ当たりしてしまいました。
「蘭には、わかんないよ!」
「お姉ちゃん?」
「蘭みたいに可愛くて、なんでも器用にできて、みんなから可愛がられている子には、わたしの気持ちなんて絶対にわかんないよ!」
いけない、と思ったけど、言葉が止まらない。
だって、もう限界。
「蘭なんかいなければよかった! 蘭さえいなければ、こんな、みじめな思いをしなくてすんだのに!」
(『泣いちゃいそうだよ』)
凛の言葉で蒼白になった蘭。泣きながら、凛に言い返します。
「わたしは、なにをやっても、できてあたりまえって言われて、その親の期待がプレッシャーだったのに!(略)わたしだって、努力してるのに、苦しかったのに、誰もわかってくれないじゃない。お姉ちゃんでさえ。」
(『泣いちゃいそうだよ』)
それを聞いて、蘭は蘭なりに苦しかったのだという事に気がついた凛は、妹に謝りながら思います。
「人間なら誰だって、悩みがあって当然だよね。わたしだけじゃない。蘭も同じなんだ。
ううん。簡単に弱音がはけないぶん、簡単に泣けないぶん、わたしより、蘭の方がつらかったかもしれないね。」
(『泣いちゃいそうだよ』)
日常の中の沢山の小さな縛り
凛が抱えているのは、他の人から見ると何てことはないように思える悩みや問題ばかりです。
でも、髪の毛のコンプレックスも、自分よりも優秀な妹へのコンプレックスも、どちらも本人にとってはけっこう深刻な問題だったりするんですよね。
「泣いちゃいそうだよ」には、凛が何気ない毎日の生活の中での悩みや問題を解決していきながら、自分の中にあるたくさんの縛りを少しずつほどいて成長していく姿が、リアルに、そしてとても分かりやすく描かれているのです。
だからこそ、10代の少女達は「泣いちゃいそうだよ」の小川凛と自分を重ね合わせ、自分の心をがんじがらめにしてしまっているコンプレックスの縛りを、ほんのちょっとだけゆるめてみる勇気をもらえるのです。
心をがんじがらめにしてしまっている縛りをほどく。
それこそがヨガの目的です。
心の縛りをほどくと言ったら、すごく大変な事のような気がしますけれど、ヨガとは決して大げさなものではなく、何気ない毎日の中にこそあるものだということを、「泣いちゃいそうだよ」は教えてくれるような気がするのです。
賢い大人の皆さま。どうか、マンガみたいなイラストの本なんてくだらない!と児童文庫を決めつけないで下さい。
児童文庫の中には子ども達の悩みに寄り添ってくれる、読みやすく楽しい本が、たくさんあるのです。
大人の皆さまも、子ども達と一緒に、「泣いちゃいそうだよ」をはじめ、児童文庫に手を伸ばしてみて下さい。
読みやすくて面白い!と、ついついハマっちゃうかもしれませんよ。
『泣いちゃいそうだよ』2006年 小林深雪著 講談社青い鳥文庫