こんにちは、丘紫真璃です。
今回は、青い鳥文庫の超人気作品「若おかみは小学生!」を取り上げたいと思います。
以前、このコラムで紹介した「泣いちゃいそうだよ」と同じ児童文庫というジャンルに当てはまる作品ですが、これまた超人気作品で、300万部以上の売り上げを記録したというベストセラ-作品です。
漫画化、テレビアニメ化、劇場アニメ化、映画化されていますが、それだけでもどんなに人気の作品かわかりますよね。
「小学6年生の女の子が旅館の若おかみとして、少年幽霊の助けを借りつつ頑張る」という、聞いただけで面白そうなこちらの作品とヨガに、どんなつながりがあるでしょうか?
それでは、皆さん、小学生若おかみのもとへ行ってみましょう。
著者は、現在も活躍中の人気作家
著者の令丈ヒロ子先生は、現在も活躍中の超人気児童文学作家で、児童文庫にとどまらず、幅広い年齢層向けの児童書を数々手がけていらっしゃいます。
令丈先生の文章は、楽しくテンポが良いため、読者は、どんどんページをめくってしまいます。
なかなか本を読まないと言われる現代の小中学生の子達も、喜んで読んでしまえるのだろうなと大きくうなずける作品です。
若おかみは小学生!?
主人公は、小学6年生の関織子。”おっこ”とみんなから呼ばれています。
おっこは東京のマンションに両親と住んでいたのですが、両親が交通事故で亡くなってしまったため、おばあちゃんの営む「春の屋旅館」に引っ越してきました。
春の屋は静かな温泉街にたたずむ小さくて古い旅館で、おっこは、この旅館の離れに、おばあちゃんと2人で住むことになりました。
春の屋は、おばあちゃんがおかみとして1人で切り盛りしているのですが、跡継ぎとなる人が誰もいません。
おっこの両親は亡くなってしまいましたから、跡継ぎになれるのは、おっこ1人。
おっこは、旅館の跡継ぎなんてとてもできないと思いますが、そんな時、春の屋に住み着く少年幽霊に出会います。
春の屋を守る“ざしきわらしのようなもの”だと名乗る少年幽霊の名前は、ウリ坊。
このウリ坊の計らいや、おばあちゃんが疲労で倒れたことや、春の屋のライバル旅館の跡継ぎである真月という女の子に嫌みを言われたことなど、いろいろ重なり、おっこは、若おかみ修行をすると大勢の人の前で宣言することになってしまいました。
「『あなたが、どれだけ若おかみとしてやれるか、見せてもらうからね』
真月が言った。
『望むところよ!』
もうやぶれかぶれだった。
『あたしは春の屋旅館をりっぱな旅館にしてみせるんだから!』
『ええぞっ! おっこ、日本一!』
ウリ坊が歓声をあげて、拍手した。
もうここまで言ってしまった以上、あとにはひけなくなってしまった。
おばあちゃんがおっこの手を取って言った。
『おっこ、そこまで決心してくれているんだったら、明日から、若おかみ修行始めるかい?』
いやだとは、とうてい言えない空気だ。みんなにこにこと、おっこを見守っている。
『……はい……。』」
(「若おかみは小学生!」)
がんばるおっこ
こうして、おっこは、小学生ながら若おかみ修行をすることになりました。
厳しい若おかみ修行に奮闘するおっこの様子が面白おかしく、テンポよく書かれます。
1度決心したからには、若おかみとして、春の屋のためになるような面白いアイデアを出したいと、おっこは次々にいろんなアイデアを思いつき、どんどん実行に移していきます。
庭のつつじの花を摘んで、浴槽いっぱいに浮かべたり、今日がお誕生日だという小さな男の子のために、サービスでプリンを作ってプレゼントしてあげたり。
せっかく思いついた面白いアイデアには失敗もつきまとい、おばあちゃんに叱られてしまうこともしばしばなのですが、少年幽霊ウリ坊の励ましもあり、へこたれずにがんばります。
そんながんばるおっこを見て、春の屋にお客様として滞在していたあかねという少年は、どうしてそんなにがんばれるのか、とおっこに聞きます。
そんなあかねに、おっこはこう答えるのです。
「最初は勢いで、ついつい言ってしまったから、とても無理だと思ってたけど。自分のいっしょけんめいやったことを喜んでくれる人がいるっていうの、合ってるかもしれない」
(「若おかみは小学生!」)
あかねは、そんなおっこをうらやましがります。
あかねは、おっこと同じ小学校6年生なのですが、不登校に悩んでいるのです。
とても学校に行くのはムリだという気がするし、学校に行こうとがんばるのもこわいと、弱気なあかねを励ましたくて、おっこは言います。
「『じゃあ、あたしが、がんばって、若おかみとして、みんなに認められたら、あかねさん、がんばること、こわくなくなる?』
『そりゃ、本当にきみがそこまでやりとげられたら、信じられるかもしれないけど』
『わかった。じゃあ、あたし、またまたがんばっちゃうから。若おかみとして、みんなに認められるようになったら、あかねさんも学校に行くって約束してくれる?』」
(「若おかみは小学生」)
あかねは、おっこの言葉にしばらく考えた後、いいよとうなずいてくれました。
そこで、おっこは、あかねに学校に行くのをがんばってもらうために、また若おかみとしてみんなに認めてもらうため、がんばることになるのです。
お客様の中の神さまのためにがんばる
自分がいっしょけんめいやったことを喜んでもらうっていうのが合っているかもしれないと言ったおっこですが、物語を読んでいると、おっこのがんばる原動力が、まさしく、お客様の笑顔なんだなということが、とてもよくわかります。
お誕生日の男の子に喜んでもらいたくて、プリンをプレゼントするために駆け回ったり、学校に行けなくて悩むあかねを励ましたくて、若おかみ修行をがんばったり。
次々にふりかかる災難にも、困難にもめげず、どんどん次のアイデアを思いつく明るいおっこのがんばりぶりに、読んでいるわたし達もつい、おっこを応援したくなってしまいます。
お客様に喜んでもらいたくてがんばっているおっこ。
日本のおもてなしの心の神髄をつかんでいるといえるのですが、ヨガの神髄もまたつかんでいると言えるのではないかと、私はそう思うのです。
ヨガでは、全ての人の中には神が宿っていると考えます。
どんな人の中にも神がいるのです。ですから、誰かのためにがんばるということは、その人の中にいる神様のためにがんばっているということなのです。
お客様を喜ばせるためにがんばっているおっこは、そのお客様の中にいる神様を喜ばせるためにがんばっているということになるのです。
神様に喜んでいただくために精一杯働きなさいという教えは、ヨガの1番大切な教えです。
ですから、お客様に喜んでいただくためにがんばっているおっこは、パタンジャリも感心してうなるくらいのヨギーだと言っていいくらいですね。
神様に喜んでいただくために働いた時、それは自分の幸せにつながるとパタンジャリは書いていますが、おっこもまさしく、同じことを感じています。
「うれしかった。
お客様に喜んでもらえたのだ。
じいんと胸が熱くなった。
温泉のお湯がふきだしたみたいに、体の内側からほかほかとあたたかい気持ちでいっぱいになった」
(「若おかみは小学生!」)
小学生若おかみとしてがんばるおっこの奮闘ぶりは、全20巻のシリーズの間続きます。
小中学生が大好きなシリーズですが、大人も十分楽しめます。ちっとも難しくなく、あっという間に読めてしまいますので、忙しい大人の方もぜひ、手に取って読んでみて下さい。
おっこの頑張りぶりに触発されて、自分も頑張りたくなりますよ!
令丈ヒロ子著 『若おかみは小学生!①』講談社青い鳥文庫(2003年)