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健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2022年12月末までで7,300件を超える報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回は様々な呼吸法「プラーナヤーマ」の心臓血管と自律神経に対する効果に関する2016年の研究について紹介します。
研究の背景・目的:プラーナヤーマの効果レビュー
心臓血管機能は、体温調節やホルモン調節などと同じように、神経伝達の働きによってコントロールされています。
中でも特に「自律神経系」は重要視され、収縮期血圧・拡張期血圧・心拍などを含む心臓機能の維持と調節を担う重要な役割を果たしています。
バランスが崩れて心機能がうまく働くことができなくなった場合、高血圧・虚血・梗塞などに代表される心血管疾患につながる可能性があります。また、自律神経系の働きと心臓死とに関係性があることも分かってきました。
心血管系疾患の治療および予防、心機能障害に対するリハビリには、生活様式を変えることも重要な因子の1つと言われています。
ヨガは、紀元前5000年のインドで発祥した古代ヴェーダ科学に基づき、生活様式によい変化をもたらす手法のひとつで、これまでにも様々な療養などに取り入れられてきました。
ポーズを練習するアーサナや、呼吸を調整するプラーナヤーマなどがヨガの練習には含まれており、身体と心をダイナミックにつなぐ役割をする「呼吸」はヨガの中でも重要な練習法であると言えます。
これまで「ヨガ」に関しては、脳波・脳の構造や機能、肺機能、慢性疾患のコントロール、糖尿病、脳血管疾患のリハビリ、心臓血管疾患の予防、高血圧の血圧コントロールなど、様々な疾病に対する効果が報告されてきました。
その一方で、プラーナヤーマはヨガの一部に含まれていることが多く、プラーナヤーマに特化した報告はほとんどありません。
そこで、心臓血管と自律神経系に着目しながらプラーナヤーマの効果をレビューし、とりまとめることを目的とします。
研究の方法:該当キーワードでの文献検索
文献検索サイトを用いて1988年~2016年の関連する報告をレビューしました。
検索キーワードは以下のとおりです。
- プラーナヤーマ
- ヨガの呼吸法
- 片側鼻孔呼吸
- 交互鼻孔呼吸
- カパラバティ
- バストリカ
- ブラマリ―
研究の結果・結論:プラーナヤーマは心臓・血管機能に良い効果をもたらす
一般的に知られているプラーナヤーマの効果
身体的および精神的ストレスのいずれも心血管系疾患に影響があることが分かっています。
プラーナヤーマ練習を2か月間続けることによって、ストレスレベルを減らし、それによって交感神経の過剰な働きと心拍の変動を抑制しました。また、同時に副交感神経が心臓へと働きかけ、交感神経と副交感神経のバランスがとれている状態にありました。
プラーナヤーマによってリラックス効果がもたらされ、交感神経よりも副交感神経の働きが優位になることが分かります。
他の文献では、7日間という短期間の習慣化したプラーナヤーマ練習によって、交感神経の緊張を緩和するという報告がありました。
さらに、高血圧や不整脈の患者へプラーナヤーマ練習を行ったところ、血圧コントロールや心室の働きを示す指数がより安定的に良くなったことの報告もありました。
ゆっくりなプラーナヤーマ vs. 速いプラーナヤーマ
20分間のゆっくりとした速度のプラーナヤーマ練習を3か月間行ったところ、副交感神経が交換神経よりも優位になり、心室機能が調整されました。
プラーナヤーマ練習の種類によって生理学的に効果が異なります。
例えばゆっくりと一定リズムで深く呼吸をするサヴィトリー・プラーナヤーマによっては心拍数を減らすことできる一方で、ふいごのように速い速度で深い呼吸をするバストリカ・プラーナヤーマでは心拍が上昇します。
ゆっくりなプラーナヤーマおよび早いプラーナヤーマともにストレスレベルを減らすことが報告されていますが、心血管機能に関する指数に着目してみた場合には、速いプラーナヤーマではほとんど報告はなく、ゆっくりなプラーナヤーマで高い効果を示すことが報告されています。
医学的な面でもヨガの練習の効果が注目されつつあります。
様々なタイプのプラーナヤーマ(呼吸法)がある中で、ゆっくりとした速度のプラーナヤーマには、生命維持と深く関係がある心臓・血管機能に良い効果をもたらすことが今回の文献から分かって来ました。
古代インドの時代から大切に伝承されているヨガの効果がより詳しく解明されつつあります。心地よく呼吸をすることで、ストレスケアをしながら健康増進にも役立ちそうです。
参考文献
- Effects of Various Prāṇāyāma on Cardiovascular and Autonomic Variables
Anc Sci Life. 2016 Oct-Dec;36(2):72-77.
Effects of Various Prāṇāyāma on Cardiovascular and Autonomic Variables – PubMed (nih.gov)