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ヨガが身体を破壊する!?物議を呼んだニューヨークタイムズの記事
「ヨガがあなたの身体を破壊する」。2012年「ニューヨークタイムズ」紙に登場した記事[1]のタイトルです。記事の内容自体は賛否がわかれていますが、著者が記事の中で述べている「ヨガにおける怪我について、ほとんどの人が無知である」の一節おいては、多くのヨガインストラクターが改めてヨガと怪我の関係性について省みるきっかけになりました。ゆったりと気持ち良いストレッチのような動きが多いヨガの中で、なぜ怪我が起きてしまうのでしょうか?
ヨガでは自分の身体を知ることができる
運動不足が気になって一念発起し、急にランニングを始め、膝の故障や肉離れなどの怪我をする人、あなたの周りにもいませんか?原因としては、若くて日常的に運動していた頃の感覚のまま、運動を始めてしまうことが挙げられます。これは、過去の経験と現在の身体の能力に誤差が生じている状態です。また、免許の更新などで証明写真を撮影する際に、「右肩が下がっている」とか「首が傾いている」と指摘を受けた事はありませんか?実際の身体の位置と自分の感覚も一致していないことが多いのです。長く運動を続けていくためには、まずは現在の自分を知ることが大切です。
ヨガでは、呼吸をしながら自分の内側に意識を向け、身体隅々にまで敏感になることで自分の心地よい場所や、痛みを感じる範囲を知ることができます。このことを無視して先へ進もうとすると無理が生じて怪我につながります。インストラクターはただポーズを提示するのではなく、この「イメージ通りに動かない、ならばどこまでやるべきか」という感覚の必要性を、生徒さんと共有していきましょう。自分の中の感覚と実際の動きとのズレ、ちょっとした見栄や慣れが怪我を招いていることがあります。
初心者だけじゃない、様々な怪我の背景
慣れていない人や、数年ぶりに運動を再開した人だけではありません。経験者やインストラクターも、上記のような繊細な感覚を無視して先を急ぐことで、怪我をしてしまう可能性があります。
生徒が怪我をする背景
- 「ヨガは楽な運動だ」と軽視することで油断し無理をしてしまう
- 慣れない無理な姿勢を長時間させられる、もしくはしなければならないと感じている
- 上級者がまわりにいると自分も出来るはずだとついつい無理をしてしまう
- もともとのヨガの意味を取り違えている
経験者が怪我をする背景
- ミスアライメントによる怪我
- 慣れや習慣によって、ヨガをし過ぎていることによる身体のオーバーワーク
- 自分のイメージよりも身体に負荷をかけている
インストラクターが生徒に怪我をさせてしまう背景
- 一度に大勢の生徒をみるので、きめ細やかな対応がなかなかできない
- ポーズを完成させるまでの過程で、生徒に起きていることが見えていない
- 個々の能力に応じた誘導が出来ていない
- 無理をさせるようなクラスの雰囲気を作ってしまっている
最も怪我しやすい身体の箇所と代表的なポーズ
ここでは、ヨガをしていて引き起こしやすい怪我と、原因になりがちなポーズを挙げていきます。
腰痛
前屈のポーズや頭を膝につけるポーズなどにおいて、柔軟性がないままに無理に前屈を深めようとすると、股関節からではなく腰から曲げてしまいがち。ヨガをはじめてやる人は座って前屈のポーズをするときに、腰が丸くなってしまう傾向があります。
肩の痛み
肩は一番可動域が広い関節です。言い換えれば、不安定ではずれやすく、傷みやすい関節でもあります。腕と肩の骨はボールとお椀のような形にすっぽり収まっており、お椀からボールが落ちないように、4つの腱と筋肉が周りから支えています。これらの腱は動かしすぎるとすぐに炎症を起こし、痛みを伴うことがあります。
膝の痛み
膝も可動域が高く、痛みやすい関節の一つ。まっすぐに伸ばしすぎると関節を固定し過ぎてしまい、とても危険です(過伸展)。例えば立った状態で大きく足を開いて上半身を倒す三角のポーズでは、膝がぐらぐらする人が多いでしょう。そのため、膝に力を入れすぎることで関節がせまくなってしまい、骨の衝撃を吸収する軟骨に大きな負担がかかってしまうことがあります。
足首の怪我
座り仕事の方は運動不足になりがち。そういう方は踏ん張る力が足りず、全身を足で支えるポーズ、特に足を開いて片足に重心を移動するポーズに危険が潜んでいます。例えば英雄のポーズは大きく足を開くことにより、もも裏(ハムストリング)を痛めやすく、踏ん張る側の足首を圧迫したり、足の甲の靭帯を伸ばしすぎる可能性があります。バランスを崩すと転倒してしまうため、余計に無理してしまいがちです。
手首の怪我
いつの間にか手首に違和感が・・・、という経験はありませんか?正しい姿勢で適度な体力がないと、手首に負担をかけてしまいます。例えばダウンドッグと呼ばれる下向きの犬のポーズや、逆立ちのポーズなどの手で体重を支える姿勢は、普段の何倍もの負担を手首の関節にかけていることになります。
無駄な力みを手放し、呼吸を入れること
前述の「今の自分の身体を知る」ということと合わせて、インストラクターは今一度呼吸の大切さと、無駄な力みを緩めることの重要性も伝えていきましょう。呼吸により、力づくではなく深められる部位や、上半身の力みを緩めることで身体が開く感覚も初心者の生徒さんにとっては自分で気づくことができないポイントです。
ビギナーであれば、がんばろうと張り切って最初から無理をしない、経験者であれば、過信することなく身体の調子に意識を向けて行うことを基本としてヨガを楽しみましょう。そして、インストラクターは精神的な分野だけでなく、身体の構造の知識を蓄える必要があることを忘れないで下さい。ヨガのポーズは自然な身体の動きの構造に沿っていない、あるいは怪我をしやすいような形があり、また、その知識が無ければ、危険な指導をすることに繋がってしまいます。怪我のない安全なクラス心がけていきましょう。