りんごとバナナを持った2匹のサルのイラストとタイトル

「サルが食いかけでエサを捨てる理由」~ヴァイラーギャで地球を守る~

皆さん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、獣医師の野村純一郎先生の著作「サルが食いかけでエサを捨てる理由」をご紹介したいと思います。

動物好きの方なら野村先生の事をよくご存じかもしれません。

100匹以上の動物と暮らしていて、飼ったことのない動物は診察しないというポリシーを持っているカリスマ医師で、野村先生が院長を務める「野村獣医科Vセンター」は年中無休。

多い時で1日200組以上の患者さんが訪れるという超人気の病院の院長を務める多忙な野村先生ですが、著作も多く書いていらっしゃいます。

今回は「サルが食いかけでエサを捨てる理由」を取り上げようと思うのですが、この本が、驚くほどヨガと深くつながっているのです。

動物の名医である野村先生の本と、ヨガがどんなつながりがあるのでしょうか?

皆さんと考えていきたいと思います。

野村純一郎先生とは

獣医に抱かれた黒い犬
野村先生は、1961年東京生まれ。動物好きの少年として育ちました。

猛勉強の末に獣医師となり、わずか十坪のガレージを借りて小さな小さな動物病院「野村獣医科医院」を開業。

その評判はたちまち広まり、お客さんがジャンジャン来る人気の動物病院となります。

年中無休、食事は1日5分以内、平均睡眠時間3時間という超絶多忙な生活で働きまくり、
その人気は上がる一方。

お客さんが増えすぎて、小さな動物病院では間に合わなくなり、「野村獣医科Vセンター」を設立。

お客さんの要望に応えて、最新機械をそろえ、高度医療を手掛け、動物達のために働くマシンのごとく働きまくる野村先生。

そんな野村先生が多忙の合間を縫って書いた本やエッセイの数々は語り口も軽妙で、動物好きの方はもちろん、そうでない方もどんどん読みたくなる面白いものでいっぱいです。

サルが食いかけでエサを捨てる理由

木の上で実を食べるサル
スーパー獣医師野村純一郎先生の著作「サルが食いかけでエサを捨てる理由」がどんな本かと言いますと、本の裏表紙にとても分かりやすい内容紹介がしてあります。

早速、引用してみましょう。

なぜこの世に犬と猫がいるの?
クモはカニの味がする? 人間とモグラは祖先が同じ?
生命には意味があり、すべてはつながっている。
驚きながら読むうちに、生き物と人間が見えてくる!」
(「サルが食いかけでエサを捨てる理由 裏表紙の内容紹介」)

そうなんです。もうまさしく、この本は内容紹介に書いてある通り、生き物と人間について描かれている本なのです。

ページをめくってみると、序章の冒頭にはこんな事が書かれています。

(地球の生き物全て)いても無駄な命はありません。
「死んで植物のこやしになるのもいれば、捕食者のエサになるのもいる」。
花粉を受粉させる者、動物の死骸を解体する者、みんな何らかの仕事を持っていて、死んだ後も他の動物のエサになったり植物のこやしになります。人間を含む、生き物の世界は、全部がつながっているのですね。
(「サルが食いかけでエサを捨てる理由 序章」)

例えばサルは、この季節のどの森にどんな木の実があるのかをよく知っていて、移動しながらエサを食べるのですが、サルってものすごくお行事が悪いらしくて、ちょっと食べかけてはペッと捨ててしまうそうなのです。

木の実をひとかじりしてはポイッと地面に投げ捨ててしまうなんてもったいない話ですよね。

ところが、サルが地面に投げ捨てた木の実は、木に登れない連中の恰好のエサになります。

ノブタとか、昆虫とか、飛べない鳥とか、いろんな動物が、サルのおこぼれにあずかります。
そして、それぞれの住処に散って、フンをするのです。

そうすると、そのフンの中に種が入っていますから、そこからまた芽が伸びて、新しい木がスクスクと育っていくわけです。

サルがもったいない食べ方をすることで、他の動物や植物が得をするわけですね。

サルはもちろん、木の登れない動物達にエサを分けてあげようなんて優しい気持ちを起こしているのではないのですが、サルのお行事が悪い結果、自然にみんなが得をするというわけなのです。

そうして、地球上の全ての生き物は、まるで精密な機械のようにつながっているのだと野村先生は書いています。

地球上にいる生命体の種族は皆、精密な機械の部品のように、直接的、間接的に関連し合って成立していると思ってください。それはもう、天文学的な数の命の歯車になります。単純な機械は、1個2個の歯車が飛んだらわかりやすくダメになりますが、複雑な機械ほど1箇所か2箇所壊れてもわからないものなのです。地球の生態系のような、複雑な歯車もまた、何百個飛んでも一見動いているように見えたりしますから安心していてはいけません。絶え間なく起こる小さな部品の欠落をどこかで食い止めないと、いつか完全に、すべてのムーブメントが停止することになるのです。
(「サルが食いかけでエサを捨てる理由」)

現在は、大量絶滅時代だと言われていますよね。動物と植物と合わせたら、1日に800種以上が毎日絶滅していっているそうです。

小さな虫や雑草が絶滅したってかまわないと思う人もいるかもしれません。でも、そんな考え方は全く間違っているんです。

なぜなら、全ての生き物は精密機械の歯車のようにつながっているのですから。

人間が真剣に考えなければいけない重要問題ですよね。

人間だけが特別なわけじゃない

手のひらに載った動物や植物が描かれた地球
都市に住み、アスファルトを歩き、車に乗って会社に出かけ、野生動物とも自然とも全く触れ合わない生活をしていると、人間も動物の一部なんだという事を忘れてしまいがちではないですか?

ところが、野村先生は、人間と動物は全く同じなのだと明解に教えてくれます。

まず、地球上のすべての生き物は同じ材料で出来ています。

どの生き物も、たんぱく質や炭水化物、脂肪などで出来ていて、心臓がチタン合金、脳みそがシリコンで、目玉がガラスなんてことはありません。

おまけに哺乳類に限って言うと、ネズミもキリンもモグラも人間も、ほとんど同じ身体の構造をしています。

「人間も動物だったんだ」ということが、動物を知れば知るほどわかってきます。そのあたりをよく調べて勉強してみると、自分が人間であることの傲り昂ぶりがどんどんはぎとられていくような、そして何かスッキリしたような気持ちになってきます。人間も、他の多くの高等動物と同様に、エサを口から入れてフンをお尻から出しているし、2つの眼球で立体視しているし、鼻から空気を吸って匂いもかぎます。ごはんを食べるときは唇、歯、舌を使う。お母さんから産まれておっぱいを吸う。交尾して、子宮で子どもを育て、出産する。人間も他の動物も、あまり変わりがありません」
(「サルが食いかけでエサを捨てる理由」)

人間と動物なんて分けて考えるのは全く意味のない考え方であり、人間もまた地球の動物の一部なんだということが、この本を読んでいると、ものすごくよくわかります。

そして同時に、これは、ヨガの考え方と深くつながっているではないかという驚きの事実に気が付いてくるのです。

ヨガでは、この世界の全ての物の中にプルシャが含まれているのだと考えます。

人間も、ネズミも、キリンも、モグラも、イヌも、ネコも、地面を這う小さな虫も、雑草も、どの生き物の中にも同じプルシャがあると考えられているのです。

だからこそ、全ての物は同じなのだとヨガでは教えているのですね。人間も、ネズミも、キリンも、モグラも、イヌも、ネコも、全てはプルシャ、同じなのだと。

これはもうまさしく、野村先生が書いていることと同じではありませんか!

今から約6000年以上前の古代インドから伝わってきたヨガと自然科学は1番大切な深い部分でつながっているという事がよくわかりますね。

古代の智慧がつまったヨガの教えが、自然科学にも通じているのだという事実は驚きしかありません。

ヴァイラーギャで世界を見つめる

手のひらに乗った小さなカエル
全ての生き物は生き残るために様々な部分を発達させ、進化を遂げてきました。そんな中で人間は生き残るために脳みそを発達させることを選びました。

その結果、人間は文明を発達させ、生活の安定を得ることができたのですね。

ところが、人間は、もっと生活を便利にしたいと欲張りすぎました。

その結果、地球の温暖化が進み、今、大量絶滅時代を迎えていて、地球は壊れつつあるのです。

今、最も必要な事は、野村先生が教えてくれたように、人間は特別エライんだという思い込みから来る傲り昂ぶりをはぎとっていくことなのかもしれません。

つまり、『ヨガ・スートラ』が教えているヴァイラーギャ(離欲)

ヨガ・スートラには、もしも私達の心から利己性がなくなって、全ての人々に献身というものが備わったなら、この世は天国となり、平等と至福のみが残るだろうと書いてあります。

人間1人1人が、自分の都合ばかりを優先させず、もっとこの地球の生き物に目を向けたならば、美しい地球を取り戻すことができるのかもしれません。

野村先生はあとがきでこう書いています。

地球上のさまざまな事象に興味を示す科学的かつ知的な精神の育成は大切です。
そこからはじまる命に対する理解が皆さんの心を潤せば、小動物や他人に対する思いやりの気持ちが嫌でも芽生え、社会性動物である人間としての優位性を確保できます。
また、この世この時代に生を受け、人生を懸命に生きる意味を確認できることでしょう。
それが良い意味での人間らしさの始まりであり、人類としての特別な能力を発揮できる土台であると信じます。
(「サルが食いかけでエサを捨てる理由」あとがき)

地球や生き物の不思議を知れば知るほど、その神秘さに胸打たれ、驚きに包まれます。

地球という星に生まれた生き物たちの深いつながりを知れば知るほど、もっと地球を守りたいという気持ちが生まれ、ヴァイラーギャの心は自然に心に芽生えます。

このコラムを読んで少しでも興味持ってくださった方はぜひ、「サルが食いかけでエサを捨てる理由」を手に取ってみて下さい。

軽妙な野村節をきかせた語り口で語られる生き物の不思議の世界に、あっという間につりこまれてしまうことでしょう。

野村純一郎著 『サルが食いかけでエサを捨てる理由』ちくまプリマ―新書(2006年)