記事の項目
インドの3大神の1人ヴィシュヌ神は、アヴァターラ(化身)として10回世界に降臨すると言われています。
ヴィシュヌ神のアヴァターラから学ぶ生きるヒント
10のアヴァターラは、世界に降臨する順番ごとに最初は魚や動物から始まり、人間、聖者と、少しずつ高い精神をもった存在になっていきます。
前編では6番目の化身までご紹介しました。
前編をまだ読んでいない方は、ぜひ先にチェックしてください。
後編は、インドで大人気の神様たちが続きます。
7.ラーマー(王子)
7番目の化身はインドでもっとも人気のある物語『ラーマーヤナ』の主人公であるラーマーです。
ラーマーヤナはインドの2大叙事詩の1つで、第7巻48,000行にも及ぶ、とても長いストーリーですが、現在のインドでも親しまれていて、演劇や映画、ドラマで頻繁に目にします。
ラーマーはラーマーヤナに登場する主人公の王子です。
ラーマーにはシーターという妻がいます。
しかし、ラクシャ(鬼神)王であるラーヴァナにさらわれてしまいます。
ラーヴァナを倒しシーターを奪い返すのがラーマーヤナのメインのストーリーですが、途中でラーマーに忠誠を誓ったハヌマーン(猿の王)が活躍するなど、人々を魅了する見せ場があります。
悪いラーヴァナを倒してシーター姫を助け出したストーリーは女の子が憧れるおとぎ話のようですが、その後シーターは不運に見舞われます。長くラーヴァナに奪われていたシーターの貞潔について民衆の中で悪い噂が広まってしまうのです。
シーターは身の潔白を証明するために自ら聖火の中に身を投げました。
火の神であるアグニがシーターの身の潔白を証明しますが、そのまま大地の女神に連れていかれ、ラーマーは愛する妻を失ってしまいました。
ヴィシュヌ神の化身としてのラーマー―は道徳的に模範的な人間として生き方を示してくれると考えられています。規律、模範的・道徳的行為、正義、叡智などの象徴です。
8.クリシュナ神(人格神)
愛の神様として知られるクリシュナ神は、『バガヴァッド・ギーター』の中でヨガの教えを説いたことで、世界的にヨガの神様としても知られています。
このクリシュナ神も、ヴィシュヌ神のアヴァターラであると言われています。
クリシュナ神は人格神と呼ばれます。人格神とは、神様が人間界を救うために、自ら人間の女性の身体に宿り、人として生まれた神様です。
クリシュナ神は永遠の喜びに導く象徴とされ、バガヴァッド・ギーターの中で説いたヨガの教えや、女性たちとの数々の神話によって、人の人生の喜びを授けてくれます。
クリシュナはとてもインドで特に人気のある神様なので神話も沢山残っています。
クリシュナの名前には「黒い」という意味があります。それ以外にも様々な呼び名があり「牛飼い」を意味するゴーヴィンダやゴーパーダと呼ばれることも多いです。
名前の通り肌の色は黒いと言われていますが、インドでは青色の肌で描かれています。
クリシュナ神やシヴァ神など、肌が青く描かれている神様は、アーリヤ人がインドに侵略する前からの土着の進行が元になっていると言われています。
ヨガの教典として知られるバガヴァッド・ギーターは、『マハーバーラタ』という巨大叙事詩の第6巻の一部分です。マハーバーラタは全18巻10万詩節あり、ラーマーヤナと並んでインド2大叙事詩の1つとされています。
マハーバーラタはバラタ族の王家のストーリーを通して、世界の真理と人の人生のあり方について説きます。
マハーバーラタに登場するクリシュナ神は、最後に猟師が誤って射った矢が足の裏に刺さり死を遂げます。
自らの生をもって、この世の中の諸行無常を説いたとも言われています。
9.ブッダ(苦難を生きる人への指針)
インドでは、仏教の開祖であるブッダ(ゴータマ・シッダールタ)もヴィシュヌ神のアヴァターラ(化身)であると説かれます。
日本では考えられないですが、現代のインドでは仏教もヒンドゥー教の一派の様に考えられることがあります。
ブッダは現在のヒンドゥー教に繋がるバラモン教が栄えた時代に、一家の王子として生まれます。何不自由なく贅沢三昧で育てられ、跡継ぎの子供ももうけた若いブッダですが、4度お城の外に出た時に世の中の苦しみを知ってしまいます。
世の中には「病・老・死・生」という絶対に避けることができない苦しみがあることを知ったブッダは、王族としての全てを捨てて出家します。
様々な聖者に会い、過酷な苦行を行ったブッダですが、なかなか悟りを得ることはできませんでした。
師と別れ、1人になった時にスジャータという1人の村娘からキール(乳粥)の布施を受け取ります。それを食べて菩提樹の下で瞑想を始めると、初めて悟りを得てブッダ(悟った人の意味)になりました。
インドで生まれた仏教の教えは、ヨガと通じる部分がとても多いです。
実はヨガ・スートラでも瞑想の心理的なしくみは仏教を参考にしている部分が多いと言われています。ヨガ哲学と見比べながら考えるのも楽しいですね。
10.カルキ
ヴィシュヌ神の10のアヴァターラのうち、今現在までに出現したのは9番目のブッダまでです。
最後のカルキは、これから世界に出現すると言われています。
カルキは1つの周期(ユガ)が終わる時に現れるのだと伝えられています。つまり、カルキが出現するのは、今私たちが生きている世界が破壊されるときです。
ユガとはインド神話で信じられている暦です。
ヴェーダによると、宇宙の寿命はブラフマーの寿命であり、ブラフマーの1日は86億4000万年、ブラフマーの一生(36千日)は311兆400億年。途方もない数字でピンときませんね。
今の世界は4つの時代を辿って寿命を迎えます。
- サティヤ・ユガ 1,728千 年
- トレーター・ユガ 1,296千 年
- ドヴァーパラ・ユガ 864千 年
- カリ・ユガ 432千 年
私たちが今生きている時代はカリ・ユガと呼ばれています。
カリとは対立や不調和といった意味があり、私たちの住んでいるこの時代は混沌とした争いのある時代です。
カリ・ユガの終わりには白馬に乗ったカルキが現われ、世界の悪を滅ぼします。そして、また法の守られた新しい世界が生まれます。
10番目のカルキはインドの神話にのっとった存在なので難しいですね。
カルキの存在は、全てには必ず終わりがあるという諸行無常を象徴しています。
ヨガでは、物質世界の全ては終わりのあるものなので、そこに執着しないことを教えます。
インド神話を知るとヨガの考え方が見えてくる
ヴィシュヌ神のアヴァターラ(化身)後編では、ヨガの教えを説いたクリシュナ神や仏教の開祖であるブッダが登場し、神話が身近に感じられたかもしれません。
あらゆる聖人を「神様の化身」として信仰に取り込むヒンドゥー教の神話はとても面白いですね。
10のアヴァターラの神話は、単に神様について知るだけではなく、それぞれの神話に生き方のヒントがたくさん詰まっています。
インドでは、これらの神話が今でも映画などのエンターテインメントなどを通して親しまれています。
神話だけでではなく、インドでは哲学教典の中でもたとえ話や物語をふんだんに使って真理を語ることが多いです。
堅苦しいと思われがちなヨガの哲学も、楽しく勉強できるといいですね。