「バストリカ・プラーナヤーマ」呼吸法の心血管に対する効果

「バストリカ・プラーナヤーマ」呼吸法の心血管に対する効果

健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。

文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2022年12月末までで7,300件を超える報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。

今回はバストリカ・プラーナヤーマの心血管自律神経性反応に対する効果について2011年の研究を紹介します。

研究の背景・目的:バストリカ・プラーナヤーマの身体への効果の確認

ヨガの練習をする女性
ヨガの練習をする女性

ヨガはインドを起源とする古代の科学で、身体的ポーズ(アーサナ)、呼吸法(プラーナヤーマ)、瞑想、哲学的要素など様々な練習方法が含まれます。

なかでもプラーナヤーマは、アーサナよりも大切だと言われることもあるほど、ヨガによって無病息災を得るために重要な役割を果たします。

より自然な方法で健康を維持・向上することが期待される昨今、プラーナヤーマを含むヨガ練習は注目が高まっており、現代科学的にも受け入れられつつあります。

近代の環境変化等による慢性的ストレス状態においては、脳の視床下部-脳下垂体の働き(自律神経やホルモンなどに関係)に変化を起こし、心拍数、血圧、体温、呼吸数、血漿カテコールアミン、副腎皮質ホルモンに影響が出ると言われています。

交感神経が長期間にわたって、より過剰に働いてしまうことで、心血管系の疾病の罹患率が高まり、それによる死亡につながる恐れがあることも報告されています。

食事や運動、ヨガや様々なリラクセーション法など、生活習慣を見直すことによって、予防や治療につながると期待されています。

これまでの研究から、プラーナヤーマの定期的な練習による効果が以下のように認められてきました。

  • 副交感神経の上昇
  • 交感神経の下降
  • 心血管機能、呼吸器系機能の向上
  • ストレスや無理から来る体への影響の減少
  • 身体的および精神的健康

ヨガ練習によって自律神経機能を調整することが可能であることも分かってきており、プラーナヤーマ練習の種類によっては交感神経の働きを抑えたり、副交感神経の働きを高めたりして、自律神経のバランスが調整されます。

バストリカ・プラーナヤーマは、かまどで風を送るのに用いられる「ふいご」の意味を持つ、速度の速い呼吸法です。短期的には、交感神経の働きを高め、心臓へ負荷を与えることが分かっています。

そこで、バストリカ・プラーナヤーマの長期的練習による、自律神経や心機能への効果を確認することを目的としました。

研究の方法:12週間にわたるバストリカ・プラーナヤーマ練習

クラスで呼吸を実践
クラスで呼吸を実践

検証の方法とバストリカ・プラーナヤーマの方法について。

検証の方法

50名の健康な男性(18~25歳)がこの研究に参加しました。いずれもトレニンーグされたアスリートやヨガ実習者を含まない、健常な一般の参加者です。

バストリカ・プラーナヤーマ練習の前後で以下の指標を測定しました。

  • バルサルバ法(密閉状態でわざと息を吐こうとする)における心拍数反応
  • 深呼吸時(1分間に6呼吸のペース)の心拍数変動
  • 起立動作時の血圧変動

朝7:00~7:30の間に空腹状態で、週に5日、12週間にわたってバストリカ・プラーナヤーマ練習を行いました。

バストリカ・プラーナヤーマの方法

パドマ―サナの姿勢で座り、体から頭までを一直線に保ちます。口を閉じた状態で、鼻で呼吸します。

吐き出すことから始め、ふいごのように素早く10回、音を出しながら吸って吐いてを繰り返します。

10回目息を吐き終わったら、可能な限り深く息を吸い、心地よく保持します。その後、ゆっくりと吐き出し、自然な呼吸で落ち着くのを待ちます。

これを1セットとして、3セット行いました。

研究の結果・結論:自律神経の機能調整とストレス軽減

バストリカ・プラーナヤーマ練習を12週間にわたり継続したところ、以下の結果が得られました。

  • 基礎脈拍数:12週間の継続により、1分間あたり73から60に減少
  • バルサルバ法による心拍数反応:バルサルバ比指標の値が顕著に向上
  • 深呼吸時の心拍数変動:最大心拍数、最小心拍数ともに上昇
  • 起立動作時の血圧変動:仰臥位および起立時ともに血圧が顕著に減少

以上の結果から、バストリカ・プラーナヤーマを長期的に継続することによって、心血管の自律神経反応性が改善されたこと、すなわち副交感神経の働きが上昇し、交感神経の働きが抑制されたことが分かりました。

テンポの速い呼吸法は、交感神経を活性化して心拍や体温を一時的に上昇するといった、元気で活発なイメージがありました。

今回の研究結果から、長期的に継続することによって、自律神経の機能を調整し、ストレスを軽減する効果につながる可能性があることも分かってきました。

ヨガや呼吸法の研究が進むことによって、高血圧や心臓疾患の予防など、心臓や血管も含む体の内面からの健康増進の一助となることがさらに期待されます。

今回の研究は若い健康な男性を対象として行われ、女性や高齢者などは含まれていません。また、バストリカ・プラーナヤーマ練習はヨガセンター施設で行われています。

強い呼吸法のため、体調をよく観察しながら無理のない範囲で行いましょう。

参考文献

  1. Effect of yogic bellows on cardiovascular autonomic reactivity
    J Cardiovasc Dis Res. 2011 Oct;2(4):223-7.
    Effect of yogic bellows on cardiovascular autonomic reactivity – PubMed (nih.gov)