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『ヨガ・スートラ』はヨガ派の教典です。
ヨガを練習している人であれば1度は読んでみたい本ですが、古い教典は言葉も難しく壁が高いと感じる人も多いのではないでしょうか。
今回は、全4章あるヨガ・スートラの流れを簡潔にご紹介します。
ヨガ・スートラがどんな教典かを知りたい方は、ぜひこちらの記事も参考にしてください。
この記事では、全体の流れを目次の様にまとめているので、各セクションの詳細に興味がある場合には、リンク先でご確認ください。
第1章:サマディ・パーダ(三昧の章)
最初の章はサマディ・パーダ(三昧の章)と呼ばれます。
ヨガとは何か?これから目指すサマディとは何か?
ここでは、これらを中心に書かれています。
ヨガの定義>
ヨガとは心の作用を止滅することである。(ヨガ・スートラ1章2節)
ヨガ・スートラは、こんなヨガの定義から始まります。
日常生活で起きている時間は絶え間なく続いている心の働きを止めることがヨガの定義です。
では、どうして心を止めなくてはいけないのでしょうか?
心の働きが止滅された時、見るもの(プルシャ・真我)は本来の状態にとどまる。(ヨガ・スートラ1章3節)
思考が全て止まった時に、初めて本当の自分の存在に気が付くことができます。
それが、ヨガ・スートラの説くヨガの目的です。
5つの心の作用
ヨガが心の働きを止めることであれば、心の働きが何かを知る必要があります。
ヨガ・スートラによると、心の働きには5つあります。ヨガでは、この5つ全てを静止していきます。
- 【正知】正しい知識。直接的な経験、推理、教典に書かれた言葉。
- 【間違った知識】妄想などによって生み出された間違った認識。
- 【分別知】実体はない、言葉によって生み出されたイマジネーション。
- 【睡眠】とても深いタマス(暗質)に心が結びついた状態。
- 【記憶】過去に得た情報を思い出す心の働き。
常修(アビヤーサ)と離欲(ヴァイラーギャ)
心の様々な作用をなくすためには、常修(アビヤーサ)と離欲が必要である。(ヨガ・スートラ1章12節)
ここではヨガの心得が書かれています。
ヨガは一朝一夕で達成できることではなく、繰り返し、欲を捨ててコツコツ実践することが必要です。
サマディの種類
サマディを大きく分けると2種類あります。
1つ目は、有想サマディで、まだ心の働きの元となるものが残っています。
それに対して無想サマディでは、心の働きが消えてからっぽになった状態です。
イシュワラ(自在神)への祈念
イシュワラとは、苦悩、行為(カルマ)、行為の結果、過去の行為の潜在印象に影響されない、特別なプルシャである。(ヨガ・スートラ1章24節)
イシュワラは、物質世界に怪我されていない純粋なプルシャ(真我)です。
そのイシュワラに心を委ねることによって、自分自身の本性であるプルシャに近づくことができます。
イシュワラを音で表したものが聖音オーム(AUM)です。
ヨガの障害と弱め方
病気、無気力、疑心、散漫、怠惰、快楽への執着、妄見、サマディへの不入、サマディからの脱落、これらの心の散乱が(ヨガの)障害である。(ヨガ・スートラ1章30節)
ここに書かれた9つの障害を弱める方法が1章の最後に書かれています。
- 慈悲喜捨の念を抱く。
- 呼吸する。
- 聖者の心をイメージする。
- 夢で見た光景をイメージする。
このような方法によって、散漫になった心を落ち着けることができます。
第2章:サーダナ・パーダ(実践の章)
2章はヨガの実践編が書かれた章です。
クリヤヨガ(行事ヨガ)
最初に出てくるクリヤヨガ(行事ヨガ)は、ヨガを志した人が必ず毎日行うべきことです。
タパス(熱業)・スヴァディアーヤ(読誦)・イシュワラ・プラニダーナ(神への祈念)の3つがクリヤヨガである。(ヨガ・スートラ2章1節)
この3つは、8支則のニヤマの最後の3つと重複しています。
クリヤ―ヨガを行うのは煩悩(クレーシャ)を弱めるためです。
クレーシャ(煩悩)
クレーシャには無知・自我意識・愛着・嫌悪・死への効果がある。(ヨガ・スートラ2章3節)
人の苦しみを生み出すものをクレーシャ(煩悩)と呼びます。
その中でももっとも大きいものが無知です。人は、正しい知識がないことで、苦しみを生み出してしまうと説かれています。
見るものと見られるもの
世界は「見るもの」と「見られるもの」の2つで作られています。
見るもの:プルシャ(真我)、物質のない魂のようなもの
見られるもの:プラクリティ(物質の根源)、全ての物質を生み出すもの
8支則(アシュタンガ・ヨガ)
ヤマ、ニヤマ、アーサ ナ、プラーナーヤーマ、プラテャーハーラ、ダーラナ、デ ャーナ、サマディが(ヨガの)8部門である。(ヨガ・スートラ2章29節)
- ヤマ(制戒):社会的な禁止事項
- ニヤマ(内制):自分に対する制御
- アーサナ(座法):安定した座り方
- プラーナヤーマ(調気法):呼吸でプラーナ(気)をコントロール
- プラティヤーハーラ(制感):外界から受ける感覚を断つ。
8支側はヨガ・スートラの中で最も有名な部分ですね。第2章では、8支則のうち最初の5つまで紹介されています。
このうち、ヤマとニヤマは5つずつあります。
ヤマ
- アヒムサー(非暴力):肉体的に、言語的に、思考のレベルでも暴力を振るわないこと。
- サティヤ(正直): 嘘をつかないこと。
- アスティヤ(不盗):他人のものを盗まないこと。
- ブラフマチャリヤ(禁欲):性欲などでエネルギーの無駄遣いをしないこと。
- アパリグラハ(不貪):所有しないこと。
ニヤマ
- シャウチャ(清浄):自身を清潔に保つこと。
- サントーシャ(知足):自身に与えられたものに満足すること。
- タパス(苦行・熱業):困難をやり遂げること。
- スヴァディアーヤ(読誦):聖典を読むこと。
- イシュワラ・プラニダーナ(祈念):神への信仰。
第3章:ヴィブーティ・パーダ(超自然能力の章)
第3章では8支則の最後の3つについて書かれています。
その3つを合わせてサンヤマと呼びます。
- ダーラナ(凝念):意識を一点に集中。
- ディヤーナ(静慮):ダーラナで一点だった対象を広げる。深い瞑想
- サマディ(三昧):自我を忘却した状態。
サンヤマに到達すると、自我を忘れて、あらゆるエゴが消えることによって、本来の自身の持つ超エネルギーを発揮することができます。
それらは、一般の人から見ると、超能力と呼ばれます。
いくつかの例を挙げます。
- 象などの強い動物にサンヤマを向けると、同様の怪力が発揮できる。
- 月にサンヤマを向けると、星の配置を知ることができる。
- 綿くずなどにサンヤマを向けると空中浮遊ができる。
しかし、これらの超能力はヨガを実践する人にとって障害となります。
これらに執着しては新しい欲望と苦しみを呼ぶことが注意されています。
第4章:カイヴァリャ・パーダ(独存の章)
第4章はモークシャ(解脱)に関することが書いてあります。
まだサマディに到達していない人にとっては、とても難しい章です。
輪廻転生について
ヨガではカルマ(業)とい概念を信じます。
カルマの仕組みは、何か行為(業)を行ったら、それが原因となって、結果が返ってくるというものです。
良い行いをすれば良い結果が返ってきて、悪い行いをすれば悪い結果が返ってきます。
しかし、私たちは日々無数の行為を行っているため、今生ですべての報(むく)いを受け取ることができません。
私たちが死ぬときに残ってしまった原因は、潜在的な記憶サンスカーラとなり、来世に引き継がれます。
人々はカルマの仕組みによって永遠と輪廻転生を繰り返してしまいますが、ヨガによってあらゆる思考を止め、執着を手放すことによって、輪廻から解放されます。
心(チッタ)と真我(プルシャ)の関係
本当の自分であるプルシャは何も行わないけれど、プラクリティ(物質原理)の作り出す世界を観察しています。
その時、プルシャは見ている映像(プラクリティ)が自分自身であると勘違いをしています。
これがクレーシャ(煩悩)の中の無知にあたります。
プルシャ(真我)の独立
ヨガは心(チッタ)を使って行いますが、瞑想の結果自分自身がプルシャ(真我)であることを悟ると、心の役割は終わります。
その時全ての覆いと汚れが消えていき、プルシャは自分自身を認識し、独立することができます。
ヨガ・スートラのまとめ
今回は、ざっくりと4章全ての内容をまとめました。
第3章と4章は、実際に瞑想を行って自分の心に深く向き合わないとなかなか理解するのが難しいですね。
全体像が分かると一気に読みやすくなるのではないかと思います。
全てを一気に理解しようとしなくていいので、少しずつ自分のヨガに活かせる部分から深めてください。