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ヨガでは離欲を大事にします。
そのためあらゆる欲を捨てなくてはいけないと考える人も多いと思いますが、社会の中で生きながら完全に欲を手放すことは難しいことですよね。
欲望が駄目なら、向上心はどうなのだろう?と疑問を抱く人もいます。
今回は、ヨガ的に欲望の種類について考えてみたいと思います。
3つのグランティ(結節)と欲望の種類
ハタヨガでは、身体の中には3つのグランティ(結節)があると説きます。
3つのグランティはスシュムナーという背骨沿いの気道(ナディ)にあります。
スシュムナーという気道はとても細い管ですが、血管にコレステロールが詰まるように、グランティという詰まりがあるせいで、気(プラーナ)は気道を自由に流れることができません。
グランティを作り出すのは精神的な執着心や固執です。
執着、欲望、妄念などが蓄積することでエネルギー(気)の流れが阻害されて、私たちは本来与えられた能力を発揮できず、真実を見る能力を阻害されてしまっています。
グランティな3か所にありますが、それぞれの場所によって蓄積する不純物の種類が違います。
その違いを見ていくと、私たちの欲望の種類を紐解くことができます。
3つのグランティには、それぞれインドの3大神の名前が付けられています。
- 創造の神ブラフマー
- 維持の神ヴィシュヌ
- 破壊の神シヴァ(ルドラ)
それぞれの神の特徴と見比べても面白いです。
また、グランティのある位置のチャクラの性質と関係しています。
ブラフマ・グランティ
ブラフマ・グランティは1番下にあるグランティです。
ムーラダーラ・チャクラとスヴァディシュターナ・チャクラに関係しており、タマス(暗質)の性質が強いです。
この位置は動物的な本能と紐づいていて、とても動物的な欲望を生み出します。
例えば、食欲、性欲、富を得たい欲望もこのグランティに関係します。
ブラフマ・グランティ的な欲望が強くなると、とても利己的になります。
自分自身に富や財を集め、食が満たされることを望み、子孫を反映させることにも貪欲になります。
直接生命活動に関わる部分であるので、強い恐怖心を生み出します。
他者との争い、恐怖からの逃走、死への恐怖、生への執着が高まってしまいます。
ヴィシュヌ・グランティ
マニプーラ・チャクラとアナーハタ・チャクラの位置にはヴィシュヌ・グランティがあります。ラジャス(激質)の特性が強いです。
このグランティは感情的な欲求、愛着、超能力に紐づいています。
特に社会の中での自己(エゴ)の強さがグランティを強めます。
このグランティが強すぎると、野心的に社会的地位を求め、自尊心が強まり、プライドが高く、承認欲求が高まります。他人に対する執着心も含みます。
パートナーや家族、特に子供を「自分の所有物」として強く束縛します。
ルドラ・グランティ
眉間のアージニャー・チャクラに位置するのはルドラ・グランティです。サットヴァ(純質)的な欲望です。
ルドラとはシヴァ神の別名です。
このグランティは、ヨガ修行者にとって乗り越えなければいけない最後の関門です。
プラーナ(気)がルドラ・グランティまで届いた人は、すでに知性があり動物的な欲求を乗り越えることができています。しかし、知的欲求の高さが執着を生み出します。
例えば『ヨガ・スートラ』では、1度サマーディ(三昧)に到達した後の問題が記されています。
病気、無気力、疑心、散漫、怠惰、快楽への執着、妄見、サマーディへの不入、サマーディからの脱落、これらの心の散乱が(ヨガの)障害である。(ヨガ・スートラ1章30節)
サマーディを1度体験しても、2度目が起こらないことでかえって固執が強まる場合があります。
日常生活では、自身の能力が高まったことで高飛車になったり独断や偏見が強まったりします。
自己実現にも深くかかわっているため、「自身の役割を果たして社会貢献をしたい」と言った欲も含まれています。
このような素晴らしい欲求であっても依存してしまうと、仕事中毒を招くことがあります。
3つの欲望は完全否定せずバランスが必要
冒頭でも触れたとおり、この3つのグランティは暴走すると固執や苦悩を招きますが、同時に、人間として生きていくためには必要なものでもあります。
ブラフマ・グランティは人間が生命活動を維持するために必要なものです。
健康で美味しい食事を食べたい、死ぬことが怖い、子供を産んで育てたい、それらは当然の欲です。
ヴィシュヌ・グランティは、社会を構成する人間にとっては必須です。良い人間関係を築き、周囲から評価を得られ、愛を育むことは幸福に生きるための鍵です。
そして、最期のルドラ・グランティがあるから人はヨガに出会います。自分自身を高めたい、それ自体はとても良い欲です。
この3つのグランティは、強い固執となった時に苦しみを生み出しますが、それ以外の時には当たり前のものばかりです。
自分の中に生まれた欲を一概に否定してはいけません。
インドでは4つの住期があると考えます。
社会での仕事が終わった後には、出家して自分の死の準備をする遊行期(サンニヤーサ)という時期があります。その時には、あらゆる欲望を手放すことが必要になります。
しかし、社会での役割がある期間は、自分の欲や向上心とバランスよく付き合うことが必要です。
グランティを破壊するバンダ
3つのグランティは精神的な執着によって生まれてしまうものですが、ヨガの実践によって破壊することができます。
ハタヨガで使われる3つのバンダのテクニックは、直接的に3つのグランティを破壊するものです。
バンダとは「締め付け」を意味し、プラーナ(気)の流れをコントロールするために使用します。同時に、凝り固まってしまった結節グランティを破壊することもできます。
ムーラ・バンダでは、身体の土台にあるブラフマ・グランティを破壊することができます。
ムーラ・バンダで眠っている潜在能力であるクンダリニーを覚醒させて、クンダリニーの上昇する力でグランティを打ち破ります。
腹部のウディーヤナ・バンダではヴィシュヌ・グランティを破壊します。
ウディーヤナ・バンダでは大きなエネルギーを生み出すことができ、クンダリニーは胸元の大きな結節を超えて上昇します。
最期のジャーランダ・バンダは喉の締め付けで、ルドラ・グランティを破壊するのを助けます。
ルドラ・グランティを破壊するためには、下方から上昇してくるエネルギーが必ず必要となるため、先にブラフマ・グランティとヴィシュヌ・グランティを破壊する必要があります。
自分の内側の欲と向き合おう
欲望を抱くことは必ずしも悪いことではありません。
例えば、難しいアーサナを練習したいと望むことを恥ずかしいと思ってはいけません。
欲望には常に2種類の向きがあります。より幸福に近いサットヴァ性の欲と、苦しみを生むタマス性の欲です。
ヨガを深めて、幸せを感じたいと望む欲望はサットヴァ性の欲であり、それがないと私たちは人生を全うすることができません。
もちろん、強すぎる欲望は苦しみの原因となります。
自分の内側の欲求が良いものなのか、悪いものなのかを客観的に判断できる知性が大切です。
ヨガでは常に客観性を大切にします。自分と向き合う時間を大切にしたいですね。