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みなさんは「幸福な人生を歩めている」と感じていますか?
若い頃の自分と比べて、「あの頃は幸せだったな、楽しかったな」と考える人もいるでしょう。
私たちはどういった時期に苦しいと感じやすいのでしょうか。また、そんな時期を乗り越えるためにはどうしたらいいのでしょうか。
人生の苦しみは、いつ・どのように現れるのか
生まれてからずっと幸福という人も、ずっと不幸という人もとても稀です。
ほとんどの人は、急激な不運がなくてもすごく苦しい時期があると感じていたり、若い時は楽しかったのに今の人生には意義を感じられないと思ったりしているのではないでしょうか。
人生の幸福度はU字グラフ
もし、若い時と比べて今の人生が楽しくないと感じているのであれば、それは普通のことです。
アメリカの学者ジョナサン・ラウシュはハピネス・カーブという言葉を広めました。
人生の幸福度は、若年期に高く始まり、中年期に低下し、晩年には再び上昇し、U 字型を描きます。
学者たちは大量のデータを分析し、世界145国、地域や宗教、性別を問わず、この説に当てはまることを発見しました。
若い時には平均して人生を楽しむことができます。
15歳頃までがピークで、その後はしばらく幸福度が下がり続けます。
特に幸福度の落ち込みが激しいのは、30代中頃から40代です。
この時期に「私の人生はこれでいいのだろうか」と悩むことは、当たり前のことです。お先真っ暗だと感じている人もいるかもしれません。
なかなか人前では口に出しにくいですが、多くの人が同じように感じています。
その時期を超えると、人生の幸福度は50代から自然に上がってきます。
「なんだか今の人生に満足できない、幸せを感じられない」と思っている方も、世界中みんな同じなのだと分かるとちょっと安心しませんか。
たまたま現代に生まれたから、日本に生まれたからというわけではありません。
この幸福の U 字グラフの下がっている時、中年の時期は実際に人生が落ち込んでいるわけではありません。
社会の中でとても大きな責任を背負い、仕事や子育てなどに励んでいる人が多いことでしょう。
とても大きな成果を成し遂げている時期です。人生の最も重要な時期にいるのですね。
変化が起きている時は苦しみを感じる
私たちの心は変化を嫌がります。
変化の激しい移行期は、私たちの人生の中で最も困難な時期です。
私たちが自らそれらを選択したとしても、それらがもたらす不均衡は痛みを伴うものであったり、恐ろしいものであったりする場合があります。
移行期とは、結婚、転職などによってライフスタイルが大きく変り、自分自身の役職や社会的立場が変化する時です。
ここまでの変化でなくて、人から見たら些細な変化であっても、変化は私たちの心に大きなストレスを与えます。
例えば、職場の上司が変わり、報告するレポートの書式が変わるだけでも、すごく憂鬱だと感じることでしょう。
結婚や転職のように自分自身で決意したことでも大きなストレスとなります。
これがコロナウイルスのパンデミックによる生活様式の変化など、意図せずに訪れた変化の場合、より激しい苦痛を生み出します。
私たちの思考は、自然と変化を避けるようにできています。しかし、避けようとするほど苦痛は大きくなってしまいます。
人生の中での移行期の必然性を受け入れることがとても大切です。
仏教の言葉では「諸行無常」と言い、全てのものは常に変化し続けていて、いつまでも同じでいることはできません。
この変化することを受け入れることができれば、案外楽に生きられると感じるはずです。
移行期が苦しい理由はアイデンティティの崩壊
人生の通過儀礼の時期をリミナリティと呼びます。
リミナリティな状態は、人生の段階が進むときに起こります。例えば、学生から社会人になる時、初めて親になる時、部下から上司になる時など、自分のアイデンティティが大きく変わる時です。
過去の自分には戻れないけれど、まだ新しい自分にも慣れていない時期は、大きな苦痛を感じます。
これはアイデンティティの危機のようなものを引き起こし、「私は誰なのか?」という疑問が生じ、感情的に不安定になるからです。
苦しい時に人生と向き合えるのかが鍵
私たちは過去の出来事、それが不快だった出来事であっても、時間の経過とともにポジティブなものとして捉える傾向があることが研究でわかっています。
つまり、大変だったことも「良い経験だった」と思えるようになります。
人生で経験したほとんどの移行は、たとえ最も困難なものでも、何らかの前向きな成果をもたらします。
その効果を感じるまでには時間がかかるかもしれませんが、苦しい移行期が自分の人生を高めてくれるのだと知っておくと良いでしょう。
また、困難で痛みを伴う移行は、私たちの人生の目的についての深い理解につながります。
痛みや葛藤の期間は一時的に私たちを不幸にしますが、同時に自分の人生に深い意義があるように感じさせてくれます。
ヨガの教典『バガヴァッド・ギーター』では、正しい幸福について説きます。
最初は毒のようで結末は甘露のような幸福、自己(アートマン)認識の清澄さから生ずる幸福、それは純質的な幸福と言われる。
(バガヴァッド・ギーター18章37節)
私たちが人生を変えようとする時、その変化は必ずストレスとなり、苦痛を伴うこともあります。
しかし、それを乗り越えた先には、大きな成果があることを理解しましょう。
アイデンティティを見失わずに
苦しい時期を乗り越えると、その後で充実感が待っている。
そう分かっていたとしても実際に苦しさを感じている時には少しでも楽になりたいと思うはずです。
多くの人は、自分自身の生きる意義を見失って苦しみを感じます。
ヨガでは、自分自身の芯をしっかりと見つけることによって、人生のどんな局面であっても満足を得られるようにと働きかけます。
幸福感を感じるためには、自分にとっての幸福な状態、幸福の条件が何かを知る必要があります。
自分の人生に満足できていない人は、自分が本当に欲しいものを理解できていません。
飛び抜けて仕事で成功したい人は、仕事以外の時間を犠牲にしなくてはいけないかもしれませんし、バランスを重視していれば、そこそこ仕事も休暇も楽しみたいと思う人もいます。
しかし、自分の目指す状態が分からないと、収入も友人くらい今の倍くらい欲しいし、残業も減らして自分の時間を充実させたいし、趣味の習い事にも行きたいし、だけど週末には寝坊もしたいし、面倒な家事は嫌いだけどおしゃれな家に住みたいと、自分に足りないもの全てを欲してしまいます。
自分が持っていないものを得ている友人がいると、比較して自分はダメなのだと思ってしまいがちです。
どれも手に入れられないのは、本当に心から目指せていないからですね。
本当に欲しいものがわかれば、そこに向かって自分を変えるべきですし、もしも今くらいの“そこそこ”の生活が心地いいのであれば、自覚するだけで満足ができます。
満足できる人生を歩むための第1歩は、自分と向き合うことです。
自分の声が聞けるようになれば、アイデンティティを見失うことはありません。自分の本心が分かれば、自然と自分にとっての快適な生き方が見えてきます。
自分のためだけの時間を作る
忙しい人ほど、自分のためだけの時間を確保することは難しいですね。
仕事をしていても、子育てをしていても、「やらないといけないこと」が優先になってしまい、やりたいことは後回しになってしまいます。
そんな忙しい時ほど、自分の声を聞いてあげることは大切です。
ヨガの練習で自分の体や呼吸と向き合う、瞑想で心の休息をする、そんな時間が1日の中にあると、自分を見つめ直すことができます。
大変な時にも精一杯生きれば、いつか自分の人生を幸福だと感じられる時期が訪れます。