糖尿病患者が ヨガクラスにやってきた!

糖尿病患者がヨガクラスに!注意すべきポーズは?【医師による症例】

皆さんはヨガにどんな期待をしていますか? 美容、健康、アンチエイジング、ダイエット、様々思うところはあると思います。

最近、糖尿病の方が健康目的にヨガを積極的に取り入れるようになってきています。そのため、現在既にヨガインストラクターの皆さんもスタジオで糖尿病の患者さんと接しているかもしれません。また今後は、「実は糖尿病です」という生徒さんも増えてくるかと思います。

ヨガは糖尿病の何にいいのでしょうか? そして糖尿病の患者がヨガをする上で気を付けておきたい点はどんなことでしょうか? 今回はヨガと糖尿病について、ケーススタディで勉強しましょう。

症例:糖尿病で内服薬で加療中の生徒さんがやってきた

おばあちゃんのアイコン
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46歳女性、II型糖尿病と診断されて5年が経ちました。

30代での妊娠出産が3回。3回目の出産が39歳の時でした。その時、妊娠糖尿病と診断を受け、出産後一度血糖値は改善したものの、41歳で人間ドックを受けた時に高血糖を指摘され、精査の結果II型糖尿病の診断を受けました。

それ以降、食事や定期的にウォーキングなどの運動をしていますが、友人から「ヨガがいいんじゃない?」と勧められたて今日、ここに来ました。

現在、II型糖尿病に関して内服薬で加療しており、インシュリンの注射はまだ行っていません。

そもそも糖尿病って何? 「I型糖尿病」と「Ⅱ型糖尿病」を理解しよう

糖尿病は大きく「I型糖尿病」と「Ⅱ型糖尿病」に分かれます。

  • I型糖尿病はインシュリンが膵臓から分泌されなくなることによって生じます。比較的若い人に多く、インシュリンの補充が必須です。
  • Ⅱ型糖尿病はインシュリンの効きが悪くなる事(インシュリン抵抗性)やインシュリンの分泌が減少する事によって主に中高年を中心に生じます。全てではありませんが、食事や運動などの生活習慣が発症と関連しています。

糖尿病に関してより詳しく知りたい方は、国立国際医療研究センターの糖尿病情報センターのWEBサイト[1]がおすすめです。

糖尿病の人がヨガをするメリット

糖尿病の人がヨガをするメリット
糖尿病の人がヨガをするメリット

糖尿病の人がヨガをするメリットは主に下記の3つがあります。

  1. ストレスマネージメント効果
  2. 副交感神経系優位にする効果
  3. 身体機能改善効果

それぞれに関して簡単にご説明します。

1.ストレスマネージメント効果

ヨガを行う事でストレスが軽減されます。すると、交感神経系、副腎皮質、視床下部下垂体系に作用してコルチゾールやアドレナリンの分泌が下がり、心拍数、血圧の低下や血糖の低下、抗炎症作用が期待できます。更にこれらがインシュリン抵抗性の改善(II型糖尿病の場合)及び酸化ストレスの軽減につながっていきます。

2.副交感神経系優位にする効果

ヨガにより迷走神経系刺激を介して、自律神経のバランスが交感神経系優位から副交感神経系優位に変わります。その結果1の経路を更に補う形でストレス軽減、抗炎症作用などとにつながっていきます。

3.身体機能改善効果

適切な運動習慣は、糖尿病による合併症を予防します。更にはヨガは他の運動とは異なり、アーサナ、呼吸法、瞑想、食事、睡眠など生活全般に対する介入を意味します。その結果として生活習慣がより改善されていく事が期待されています。

糖尿病の人がヨガをするデメリット

特にありません。かといって、ヨガが他の運動よりも優れているという事ではありません。ウォーキングでも、水泳でも、太極拳でも構いません。

ただ、継続してできる運動習慣とバランスの良い生活習慣が重要なポイントであり、この2点を満たすという意味で、ヨガは適しています。

アーサナだけでなく、呼吸法、瞑想、生活スタイルを加味した包括的なものです。糖尿病の人にヨガを指導する際には、アーサナ以外のヨガの良い点を皆さんのバランスの良い生活習慣に取り入れていくと尚良いと思います。

最も気になる!ヨガで血糖値は下がるのか?

ここは研究によって変わってくるところです。そもそもどんなヨガをどの程度行うかで、結果に非常にばらつきがあるところです。更には他の運動と比較して優位にヨガが血糖値を下げるのかどうかに関しても現状はっきりとしたことは言えない状態です。[2]

皆さんは、「ヨガは血糖値に対しては何もしないよりはマシだけど、他の運動に対して特別優れているかどうかは不明」という事を覚えておきましょう。
(注:II型糖尿病に関して検討した文献です。)

糖尿病患者にお勧めのアーサナ

ヨガの世界では糖尿病(II型糖尿病)に対しては膵臓をマッサージすることで膵臓を刺激して若返り(rejuvenate)をはかることが治療上意味がある、と伝統的に考えられてきました。正直、「???」という感じではあります。

ですが、健常者に対して以下の4パターンのアーサナを行った前後でのブドウ糖負荷刺激に対する膵臓β細胞の感受性を検討した資料[3]があります。β細胞とは、インシュリンを分泌する細胞であり、そのブドウ糖負荷に対する感受性が増加することで、より効果的にインシュリンが分泌されるということです。

  • (I) dhanurasana + matsyendrasana
    (弓のポース+ねじりのポーズ)
  • (II) halasana + vajrasana
    (鋤のポーズ+正座のポーズ)
  • (III) naukasana + bhujangasana
    (ナウカーサナ+コブラのポーズ)
  • (IV) setubandhasana + pavanamuktasana
    (橋のポーズ+放屁のポーズ)

結果は、統計上、IVのみがブドウ糖負過刺激に対してβ細胞の感受性が有意に増加したというものでした。更に説明を加えればこの結果をもって、特定のアーサナが膵臓のβ細胞の機能賦活する効果がある、ということまで現状断定する事はできない、という事になります。

しかし、ヨガに限った話ではありませんが、II型糖尿病では運動により筋肉にインシュリン受容体の発現が促進され、その結果として血糖値改善が認められることは有名な事実です。簡単にまとめれば、特定のアーサナにこだわる必要はあまりなく、無理のない範囲でヨガを行えばよく、さらに言えばヨガでなくても良い、ということになります(笑)

解決策:糖尿病患者へのヨガの注意点

糖尿病患者へのヨガの注意点

むしろヨガインストラクターの方々に気にしてほしいのは、何に効果があるかよりも何をしない方が良いかという点です。

注意すべきは逆転のポーズとバランスのポーズ

糖尿病患者は、高脂血症、高血圧、全身の動脈硬化、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、緑内障、白内障などキリがないほどの合併症を抱えている方が多いです。

そのため、基本は無理のない範囲でおこなうことを本人に充分理解してもらった後、逆転ポーズは避けた方が賢明でしょう。

主な理由としては、下記の2つが挙げられます。

  1. 糖尿病患者は同時に動脈硬化と高血圧を合併することが多く、動脈硬化がある方は血管の弾力性がなくなった結果として、血圧が上がりやすくなっています。逆転のポーズ全般が更に血圧をあげる可能性があるため、動脈硬化がある方と、高血圧の既往がある方には逆転のポーズは積極的にはお勧めしません。
  2. 糖尿病の合併症で網膜症、緑内障があります。逆転のポーズは血圧と眼圧(目の中の圧力)を上げ、それが網膜症と緑内障に対してマイナスに作用する恐れがあります(網膜出血と緑内障発作)。白内障は糖尿病の合併症でありますが、逆転のポーズでマイナスは特にありません。

また、糖尿病性神経症は末梢神経障害を生じ、その結果としてバランス感覚が乱れます。バランス感覚を視覚で補っているため、立位でも目を閉じると転倒しやすくなる可能性がある点も覚えておきましょう。

ヨガクラスでも血糖を上げるための水分や飴を

更には一般的にヨガをやる際には水分の事は考えても糖分補給は考えません。しかし糖尿病患者はレッスン中に低血糖発作を起こす可能性があります。

気分不良の際には周りを気にせずにに休む事、そしてレッスンに低血糖発作時に血糖を上げるためのブドウ糖や飴、ジュースなどを持参するように指導しましょう。

これだけは覚えておこう!

  • 糖尿病患者は定期的な運動習慣と共に生活介入をすることが病気の治療上重要である。その点に関してヨガの果たす役割は大きい。
  • 特定のアーサナが糖尿病に関して特に効果があるかに関しては、医学的エビデンスがまだ明確ではない
  • ヨガが他の運動に比べて特別優れているかどうかはまだ明確な事は言えない

参考資料

  1. 国立国際医療研究センターの糖尿病情報センターHP
  2. Jayawardena R, Ranasinghe P, Chathuranga T, Atapattu PM, Misra A. The benefits of yoga practice compared to physical exercise in the management of type 2 Diabetes Mellitus: A systematic review and meta-analysis. Diabetes Metab Syndr. 2018 Sep;12(5):795-805. doi: 10.1016/j.dsx.2018.04.008. Epub 2018 Apr 18. Review. PubMed PMID: 29685823.
  3. Manjunatha S, Vempati RP, Ghosh D, Bijlani RL. An investigation into the acute and long-term effects of selected yogic postures on fasting and postprandial glycemia and insulinemia in healthy young subjects. Indian J Physiol Pharmacol. 2005 Jul-Sep;49(3):319-24. PubMed PMID: 16440850.