健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2023年9月末までで約7,900件の報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回は職場でヨガを取り入れることの効果について、2020年のシステマティックレビュー(すでに報告されている過去の個別の研究をとりまとめる手法)による研究を紹介します。
研究の背景:求められる職場のストレスへの取り組み
職場環境にまつわるストレスは社会全体の問題としてもとらえられ、解決・改善への取り組みは大変重要視されています。
仕事のストレスは、一般的には、職場の要求が従業員の持つ能力を超えた時に発生する感情面に引き起こされる一連の結果と定義されます。
企業・経営の側の視点では、生産性の低下が起こったり、職場環境における安全衛生面での機能が低下したりすることによる経済的損失が増大するでしょう。
個々人に対してはストレスによる感情面への負の影響は潜在的に身体面にも影響することが分かっており、心血管系疾患・筋骨格系疾患・精神障害がその代表的な例として知られています。
ストレスに対しての取り組みはすでに様々が実践されており、ライフスタイルの変化、栄養面の改善、運動不足解消などが主にあげられます。
その中で、職場におけるストレス改善のための企業健康プログラムは、一般的には生活習慣や医療面での支援に関するもの、または、生活習慣と医療の両面を組み合わせたプログラムが提供されることが多いようです。
ヨガは、身体と心の両面へのアプローチを組み合わせたアクティビティーの一種で、すでに補完代替医療の1つとしても認められて用いられてきました。
身体と心の密接な関係性はすでに数多くの研究結果でも報告されて、広く知られているとおりです。
例えば、ヨガによって QOL が向上し、ストレスと関係するホルモンや血中成分などの生物学的指標が減少することなどが過去にも報告されてきました。
そこで、これまでに報告されているヨガに関する研究報告をとりまとめ、職場環境におけるストレス対策への有効性を確認することを目的としました。
研究の方法::文献サイトを用いた報告のレビュー
文献検索サイトを用いて2020年5月までに発表された関連する報告をレビューしました。
主な検索キーワードは以下のとおりです。
- ヨガ
- 職場環境
- 雇用、従業員
- 職場の健康プログラム
- 精神的ストレス
- 燃え尽き症候群
- ストレスの知覚
研究の結果:ヨガにはストレス低減の効果がある
一次検索をした結果の3,392の文献がヒットし、そこから今回の研究目的に合わせて最終的に6のメタアナリシスによる文献に絞り込んで内容を確認しました。
ヨガをしたグループとしていないグループの比較をした研究が対象とされ、参加者の合計は487人(ヨガの実施あり266人に対して実施なし221人)で、参加者の年齢層は平均すると30代~50代でした。
実施されたヨガクラスの内容は個々の参照文献により様々でしたが、ストレッチやヨガのポーズ、呼吸法および瞑想が含まれていました。
6つの文献は、ヨガの本場のインドだけでなく、アメリカ、イギリス、スウェーデン、台湾からの報告があり、ヨガの補完代替医療への可能性を含めた様々な効果とその応用は世界的にも注目されていることが分かります。
ストレスの主な症状として、不安、イライラ、疲労感、睡眠障害、苦痛、燃え尽き症候群などが挙げられますが、これらの職場環境を背景とした健康問題は公衆衛生における社会全体的な問題とも認識されています。
特に責任を伴う立場になり得る40~54歳くらいの年齢層において、男女ともに高いストレスがかかりやすいというような報告もあるようです。
また、身体を主に使う仕事や、専門的知識による頭を使う仕事など、仕事内容の違いによってもストレス負荷のかかり方が変わってきます。
職場の健康プログラム等を通じてヨガを実施した結果、従業員の知覚ストレスを軽減する効果があることが分かりました。
参加者や従事する仕事などの背景によって結果に多少の違いはありますが、詳細には以下の効果が挙げられました。
- ストレスの減少とともに仕事能力が向上する
- 苦痛が減少するとともに仕事の効率が向上する
- 精神面・感情面でのウェルビーイングが保たれ、ストレス耐性・受容性が高くなる
- 腰痛の減少と身体面の健康が改善する
ストレスをはじめとした精神面から引き起こされる病気についての知識や理解が深まり、その対策は全世界的にも大変注目されています。
ヨガによって適度に身体を動かし、呼吸法や瞑想を行うことは、身体の内側や心の健康も維持・向上されることだけでなく、さらには仕事の能力そのものが高まることの助けとなり、効率までもが良くなることが研究結果からも明らかになって来ています。