皆さん、こんにちは。丘紫真璃です。
前回、マリー・ホール・エッツの「もりのなか」をご紹介しましたが、今回は、エッツのもう1つの名作絵本「わたしとあそんで」を、ぜひ皆さんにご紹介したいと思います。
「わたしとあそんで」は、1955年にアメリカで出版された絵本です。日本では、1968年に詩人の与田準一による美しい日本語で紹介されました。
クリーム色の表紙の中には、大きな白いリボンをつけた幼い女の子がいて、こちらをじっと見つめています。
絵本のページを開いてみると、どのページも白い紙の中に、お日さまの光に包み込まれているかのような淡い黄色のやわらかい枠があり、その枠の中には野原と女の子の絵が温かいやわらかなタッチで描かれているのです。
見ているだけで癒されるこの「わたしとあそんで」とヨガのつながりを、皆さんと考えていきたいと思います。
作者の幼い頃の体験を生かした「わたしとあそんで」
作者のマリー・ホール・エッツは、1895年にアメリカのウィスコンシン州の小さな町に生まれました。
自然豊かだったウィスコンシン州で動物達と親しく遊んだ経験が、「わたしとあそんで」につながったと言われています。
小学1年生の時には大人の美術クラスで勉強するくらいの腕前になっていたエッツですが、大人になってからは社会事業に大きな関心を持ち、子どもの福祉のための活動を行っています。
しかし、健康を害してからは、福祉の活動からは身を引いて、絵本を描き始めました。
エッツの生み出した数々の絵本は、国境も、時代も超えて愛され続ける名作です。
静かにしていると…
最初のページには、野原に遊びに行く幼い女の子の姿が描かれます。
あさひが のぼって、くさには つゆが ひかりました。
「わたしとあそんで」
わたしは はらっぱへ あそびに いきました。
すると、バッタが1匹、草の葉に止まって、夢中で朝ご飯を食べているのを見つけます。
「ばったさん、あそびましょ。」わたしがつかまえようとすると、
「わたしとあそんで」
ばったは ぴょんと とんでいってしまいました。
その後、女の子は、カエルや、カメ、リスや、カケス、ウサギ、ヘビと次々に見つけて、「あそびましょ」と声をかけますが、カエルも、カメも、リスも、カケスも、ウサギも、ヘビも、みんな、女の子から逃げて行ってしまいます。
だあれも だあれも あそんでくれないので、わたしは
「わたしとあそんで」
ちちくさを とって、たねを ぷっと ふきとばしました。
それから いけの そばの いしに こしかけて、みずすましが
みずに すじを ひくのを みていました。
女の子は、音も立てずにじっと、みずすましを見つめ続けます。
すると…
わたしが おとを たてずに こしかけていると、ばったが
「わたしとあそんで」
もどってきて、くさの はに とまりました。
女の子がなおも音を立てずに腰かけ続けていると、カエルも、カメも、リスも、カケスも、ウサギも、ヘビもみんな、女の子の周りに戻ってきます。
わたしが そのまま おとを たてずに じっとしていると、だあれも
「わたしとあそんで」
だあれも もう こわがって にげたりは しませんでした。
さらに、鹿の赤ちゃんが茂みから顔を出し、息も止めてじっとしている女の子にそっと近寄って、ペロリと女の子のほっぺたをなめてくれます。
ああ、わたしは いま、とっても うれしいの。
「わたしとあそんで」
とびきり うれしいの。
なぜって、みんなが みんなが わたしと あそんでくれるんですもの。
にっこり笑った女の子の周りに、動物達が集まっている何とも心温まる絵が印象的にページを飾ります。
そして、女の子がお家に帰っていく絵で、この絵本は終わります。
…と、こうやって説明してみても、やはり、エッツさんの何とも心温まる優しい絵を見ていただかなくては、この絵本の魅力は全く伝わりません。
ですから、ぜひ、絵本で見ていただくとして、この「わたしとあそんで」と、ヨガはどのようにつながっているのでしょう。
無の心には動物達も寄って来る
女の子は、はじめ、動物達に遊んでもらいたくて、追いかけ回していましたよね。
ところが、「遊びましょ」と言っては、バッタや、カエル、カメや、リス、カケスや、ウサギ、ヘビを追いかけていた女の子からは、遊び相手になってほしいから捕まえてみたいという願いがあふれ出しています。
そういう女の子には、動物達は決して近づきません。
ところが、誰も相手になってくれないので、女の子は腰を下ろし、ミズスマシが水をひくのをじっとだまって眺めるのです。
じっとしていたら生き物達が寄って来るかしらとか、誰も遊んでくれないから悲しくてイヤだわとか、そんなことを思いながらミズスマシを眺めているのではありません。
女の子は、ただ静かに、ミズスマシを見つめています。
ミズスマシが水をひく、静かな静かな池面を見つめていると、女の子の心も静かに静かに、静まり返ります。
ヨガ的に言うと、無の状態になって、ただただ、ミズスマシを見つめます。
動物達を追いかけ回していた時の女の子は、野原に遊びに来たよその女の子でした。
ところが、無の状態になって、静かな心でミズスマシを見つめる時、もう女の子は、野原に遊びに来たよそ者ではありません。
野原の一部になっているのです。
野原の中にいるたくさんのバッタや、カエルや、カメといった生き物と同じ、女の子という生き物として、そこに静かに座るのです。
すると、1度は逃げて来た生き物達がみんな、女の子の周りに戻ってきました。
それどころか、鹿の赤ちゃんまでも茂みから顔を出し、女の子の顔をペロリとなめに来るのです。
ミズスマシが水をひく静かな池のように、静かな心の人には、動物達も安心して近づいてくるのです。
無の状態は、動物を惹きつけるのですね。
そうして、女の子が、バッタ、カエル、カメ、リス、カケス、ウサギ、ヘビ、鹿の赤ちゃんに囲まれたところで、「ああ、わたしは、いま、とってもうれしいの。とびきりうれしいの」という喜びのセリフにつながってくるわけです。
動物達に囲まれて静かにほほえんでいる女の子には、温かい喜びがいっぱいに広がっています。
それは、なかなか懐かない犬やネコが心を開いてくれた時の喜びに似ているでしょうし、それだけではなく、なかなか打ちとけることのできなかった友達と仲良くなることができた瞬間や、苦手だと思っていた人と歩み寄れた時の幸せに似ているかもしれません。
さらに言えば、大きな野原という自然の中で、バッタや、カエル、カメや、リス、カケス、ウサギ、ヘビといった生き物達と共に自分も生きているという大きな大きな喜びが、そこにはあふれているような気がします。
そうして、温かい幸せな喜びにあふれた女の子を見る時に、読者の子どもも、大人も、だれもがみな、女の子と同じような温かい幸せな喜びにあふれます。
それは、ひょっとすると、緑や野原の中で生き物とふれあうたびに感じる喜びなのかもしれません。
でも、今の子どもたち…それから、私達大人も、自然とふれあう機会は減りましたよね。
こんな女の子のように野原で生き物と遊んだ経験のある大人が、どれほどいることでしょうか。
生き物とふれあうチャンスが減った私達は生き物と共に、今、この自然の中を生きているんだという大きな喜びを感じるチャンスがありません。
動物学者の河合正雄先生は、自然とふれあって、心の中に「内なる自然」を育むことこそ、人類にとって最も大切なことだと言っておられましたが、私達は今、「内なる自然」を育むチャンスをあまり持っていないのです。
だからこそ、生き物と触れ合う喜びを教えてくれ、「内なる自然」を育んでくれるこの絵本は、とても貴重なものではないでしょうか。
「内なる自然」を心に持った時、人の心は穏やかになります。
「内なる自然」に心が満たされて穏やかになった状態こそ、ヨギーが目指す状態と言えるのではないでしょうか。
「わたしとあそんで」は、幼い子どもにもぜひ読んであげて欲しい1冊なのですが、大人の方々にもとてもオススメです。
ストレスがたまってイライラが募る時、毎日に疲れ切ってしまった時、ぜひ「わたしとあそんで」を開いてみて下さい。
穏やかで暖かな幸せで、心の中がいっぱい満たされることをお約束いたします。