ヨガインストラクター養成講座では、多かれ少なかれ生理解剖学の講座が設けられているかと思います。
中には苦手に感じる方もいるかも知れませんが、なぜヨガインストラクターに生理解剖学の知識が必要なのでしょうか。
私たちは1人1人違う人間ですが、骨の数や、筋肉のつく位置、それに関わる、生理的現象は、ほぼ全員共通と言っても過言ではありません。
基本的な身体の仕組みを理解することで、より多くの人が変化を感じられるレッスンができたり、レッスン中のお客様の不用意なケガを防いだりすることができます。
今日はダウンドッグを例に、生理解剖学からみたシークエンスや、レッスン中の工夫についてお話ししていきます。
解剖学的に考えるダウンドッグ
さっそく、ダウンドッグの構造を解剖学的に考えていきましょう。
まず上半身から見ていくと、両手をバンザイするような姿勢になります。これは肩関節の屈曲というポジションになります。
ダウンドッグでは、両手で体重を支える必要があるため、両手でマットを押す力を使いながら、両手を上に上げています。
つまり、肩関節を屈曲させながら、肩関節の伸展筋も使っています。
続いては股関節を見てみましょう。股関節は屈曲しています。
ダウンドッグでは通常、下肢の伸びよりも上半身の伸びを優先するため、膝は曲がっても大丈夫なので、股関節を90度に屈曲することを優先します。
そして足首は、屈曲しています。
踵を床につけようとしながらも、爪先でマットを押し、体を支えています。
股関節の屈曲から、足首の屈曲を行うため、下肢の前面の筋肉は収縮し、下肢後面の筋肉は伸展していきます。
ダウンドッグで意識するポイント
このポーズをヨガレッスンの中で取り入れる場合は、今出てきた関節や筋肉を意識した動きを事前に取り入れることで、ダウンドッグが快適に取れるようになっていきます。
上半身
まずは上半身から考えていきます。
肩関節の屈曲は、日常生活の中であまり行わないため、急に体重をかけながらおこなうと、痛める可能性があります。
まずは、体重をかけない状態で、両手を上げる動きをおこなって行けると比較的安全です。
肩関節の屈曲には三角筋や、上腕二頭筋が使われます。
関節を動かしやすくするためには、まず、使う筋肉(主導筋)よりも、緩む筋肉(拮抗筋)を緩めていくことが効果的です。
肩関節の屈曲の拮抗筋は広背筋や大円筋になるので、背中のストレッチや脇をもんだりする動作を入れることで、肩関節が動きやすくなります。
また、小さい動きからおこなっていくことも効果的です。
指を肩先に乗せて、肘で円を描くように動かし、肩甲骨を意識しながら回旋の動作を入れていくことも、肩周りをほぐすことに効果的です。
下半身
続いて下半身です。
下半身は股関節も、場合によっては膝関節も屈曲させることを考えると、下肢背面をしっかりと緩めておくことが、快適なダウンドッグにつながりやすくなります。
筋肉を緩めるためには、反対の作用を持つ筋肉を収縮させることで、緩んでいくという「相反抑制」という性質を使うことが効果的です。
この場合は、前もも(大腿直筋や外側広筋)を収縮させる動きを行うことで、同時に裏もも、ハムストリングスが緩んでいく効果が得られます。
つまり、ナバーサナや、ダンダアーサナなど、前腿を収縮させる動きをシークエンスの中に入れていくことで、ダウンドッグでもしっかりと股関節が屈曲しやすくなります。
もちろん、直接ハムストリングスや、ふくらはぎを伸ばす、パスチモッターナアーサナや、ウッターナアーサナを取り入れることも、下肢後面を緩めていくことができます。
仕組みや構造を考えながらヨガに取り組もう
いかがだったでしょうか。
このように、ピークに持って行きたいアーサナの解剖学的な位置関係を分解しながらシークエンスを組むことで、安全で快適にピークポーズに入ってもらうことができます。
全体の流れを事前に説明してからレッスンを行うことで、参加される方もどういう意味があって、この動きをしているのかというのを理解しやすいですね。
難しいと思われがちな生理解剖学ですが、多くの人に当てはまる仕組みや構造だからこそ、多くの人が似た効果を感じられるレッスン作りに役立てることができます。
そして、ご自身の不調改善や、アーサナプラクティスにも応用できる考え方です。
ぜひ1度考えながらヨガを楽しんでみてください。