健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2023年12月末までで約8,000件の報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回は2021年にドイツから報告された、ヨガやマインドフルネスを用いた子どもの自律神経系の発達へのサポートに関する研究を紹介します。
研究の背景:問題視される子供のストレス
慢性的なストレスに関連する疾患は世界中で大きく問題視されています。
これは大人だけでなく、学校に通う子どもたちに対しても同様で、ストレスによって不安症やうつ病などの精神的疾患、頭痛や腹痛、悪い姿勢などの身体的な問題の両方につながることが懸念されています。
子どもたちにとって1日の中で長時間を過ごす学校の環境は、子どもたちの成長の上でもとても大きな役割を果たし、これまでの見識から、精神的および身体的健康が、学業や認知能力を養い得るための基本的な要件であることが分かってきています。
慢性的なストレスは学力低下につながりかねません。
学校は、認知に関するスキル、社会における感情的なスキル、道徳的なスキルを含む総合的なアプローチによる教育を目指すことが望ましいでしょう。
ヨガやマインドフルネスのような、心と体を統合するメソッドを学校などの教育機関に取り入れることにより、心身両面のウェルビーイングを促進し、この社会問題が解決に向かう手立てになることが期待されます。
過去の研究からも、子どもたちに対するヨガの効果として、頭痛、腹痛、不安症やうつ病といったストレス関連の症状が減ったという報告がありました。
ヨガによって心の波が穏やかになることでストレスへの対処がうまくなり、自己コントロールや集中力の増進、社会性が向上することに役立ち、学習のサポートとなります。
そこで、この研究はヨガとマインドフルネスの8~12歳の健康な子どもたちに対する効果を検証することを目的としました。
研究の方法:ヨガベースの YoBEKA
8~12歳(小学校3~5年生)の健康な453名の子どもたちが参加しました。
ヨガをベースとした YoBEKA プログラムに沿った教育を受けたグループと、学校の先生から通常のカリキュラムに沿って教育を受けたグループで効果を比較しました。
YoBEKA(Yoga, Bewegung, Entspannung, Konzentration and Achtsamkeit)は、ドイツの教育者とヨガ教師によって作成された教育コンセプトです。
ヨガ、運動、歌、リラクセーション、集中、マインドフルネス等を用いたカリキュラムを、資格を有するトレーナーが介入し、参加者の年齢に合わせて提供しています。
簡単に学校でも取り入れられやすい内容としていて、例えば、授業中に子どもたちの集中力を取り戻すための2~3分程度の短時間エクササイズが行われ、45~90分の様々なエクササイズを組み合わせたクラスを行う場合などがあります。
研究の結果: 迷走神経活動の減少と自律神経の調整
16週間にわたりヨガをベースとした YoBEKA プログラムを実施し、効果の測定には心拍数変動の指標を用いました。
ヨガプログラムを実施したグループは、時間の経過とともに「迷走神経活動」が減少することが分かりました。
迷走神経活動は副交感神経とも関係しますが、長時間同じ姿勢をとったり疲れやストレスを感じたりすることをきっかけとして生じる、心拍数の減少や血圧低下のことです。
迷走神経活動の減少にともない交感神経の増加がみられましたが、ストレスレベルのバランスがとれたことが考えられます。
また夜間には、自律神経の調節が副交感神経側へ向かいやすくなるという傾向もみられました。
ヨガプログラムを導入したグループとそうでないグループとを比較した場合、統計的に優位な差が出るほどの大きな効果は見られませんでしたが、ヨガを導入することで自律神経系のバランスを調整する、自己調整能力の向上に繋がりそうであることが明らかになりました。
海外では学校にヨガを取り入れる取り組みが試験的にも行われ始めています。
学校とヨガの双方の専門家が、子どもたちの成長過程に合わせたカリキュラムをつくり、プログラム化して提供している事例があることが今回の文献から分かりました。
YoBEKAプログラムで推奨されているのは、1日あたり5分のヨガから始めようとのこと。
学校の先生にとっても負担にならない範囲でのプログラムの提供が考慮されています。
これまで大人に対して数多くの良い効果が報告されているヨガは、子どもたちの体と心の両面の成長サポートに大きく役立ちそうです。