エルマーのぼうけん~誰しもに愛されるその理由は?~

みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、「エルマーのぼうけん」を取り上げたいと思います。

日本全国を、「エルマーのぼうけん」展が巡回しており、今はちょうど兵庫県の明石市立文化博物館で開催されているところだと思いますが、ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

日本では、渡辺茂男先生の名訳で知られており、原文と変わらぬ面白さで楽しむことができますよね。

小さい頃、私も兄も大好きで、夢中になって何度もよく読んだものですが、そういう方もきっと多い事でしょう。

そんな、みんなに愛される「エルマーのぼうけん」とヨガの関係を、考えていきたいと思います。

家族ぐるみで話し合って出来上がったエルマーの物語

作者のルース・スタイルス・ガネットは、1923年8月にニューヨークで生まれました。

ガネットは3歳の時に、革新的な学校に入学します。

それは、授業はせず、学びの中心はお話作りと積み木遊びというとても楽しそうな、面白そうな学校でした。

まだ読み書きもできないガネットが物語を語ると、先生や両親が書き取ってくれるという環境で育ったということですから、幼い頃から物語の中にどっぷり浸って育ったのだということがわかりますね。

自分で読み書きができるようになると、たくさんの物語をノートに書きためるようになりました。

「エルマーのぼうけん」は、ガネットが22歳の時に、スキー場でアルバイトをしていた際、退屈しのぎに書き始めた物語だそうです。

挿絵を担当したのは、父の再婚相手である画家のルース・クリスマンでした。

数々の優れた児童文学の挿絵を担当していた人で、現代アメリカの挿絵画家の中でも最も有名な1人です。

ガネットは、継母、それに児童文学にくわしいお父さんや、ボーイフレンドで後に夫になるピーターなど、家族みんなで話し合いながら、この物語と絵を完成させました。

かわいそうなりゅうの子を助ける

主人公のエルマー・エレベーターは、9才の男の子。

近所の街角で、年取ったのらねこと出会うところから物語は始まります。

そののらねこが、びしょぬれだったので、エルマーは、ねこに、自分のうちに来ませんか? と誘います。

ところが、エルマーのお母さんは、ねこが大嫌いでした。

それで、ねこを連れて来たエルマーをとても叱り、ねこを追い出してしまいます。

エルマーは、ねこを追いかけて行って、お母さんが失礼な態度を取ったことを謝ります。

そして、お母さんに秘密でこっそり、ねこにミルクをやったりして、ねことすっかり友達になります。

すると、ねこは、エルマーに、りゅうの話を教えてくれました。

そのねこは、若い頃、旅行家で、みかん島を旅したことがありました。

みかん島の近くに、どうぶつ島という島があったのですが、そこは暗いジャングルが広がり、猛獣がたくさん住んでいるという恐ろしい島でした。

そのどうぶつ島で、ねこは、かわいそうなりゅうに出会ったというのです。

どうぶつ島のまんなかには、どろ川が流れています。

どうぶつたちはこの川を渡るのにいつも苦労していました。

そんな時、雲の上から、どうぶつ島に1ぴきのりゅうの赤ん坊が落っこちてきたのです。

長いしっぽを持ち、身体は黄色と空色の縞模様で、ツノと目と足の裏は目のさめるような赤で、羽は金色でした。

どうぶつたちは、そんな素晴らしいりゅうの赤ん坊を捕まえて、りゅうの子の首に太いなわを巻き付けて、川岸につないでしまいました。そして、りゅうを自分達のためにこき使いはじめます。

(どうぶつたちは)おきゃくをはこぶように、りゅうをくんれんしはじめたのです。まだちっちゃな子どものりゅうだったのに、一日中、ひどいときには、よどおしもはたらかせたのです。
 ものすごいおもいにもつをはこばせたり、それで、もし、りゅうがもんくをいえば、はねをねじったり、からだをたたいたりしました。りゅうは、ちょうど川のはばくらいのながさのつなで、1ぽんのくいに、くくりつけられていました。(略)
 ほんとに、わたしがいままでにあったなかで、いちばんかわいそうなどうぶつだったでしょうね、このりゅうは。
「(エルマーのぼうけん)」

その話を聞いたエルマーは、かわいそうなりゅうを助けてやろうと心に決めます。

ちょうど、お母さんがとしとったのらねこに、とても失礼な態度を取って家から追い出してしまったところだったので、お母さんを心配させたってかまうものかという気持ちにもなったのです。

そんなわけで、エルマーは年取ったのらねこのアドバイスを聞いてぼうけんに出発します。そして、素晴らしい冒険をして、りゅうの子を救い出します。

エルマーが愛される理由

訳者の渡辺茂男先生によれば、「エルマーのぼうけん」は、アメリカでも大人気だったそうです。

日本でも昔から現代にいたるまで、人気の児童書の1つですよね。

だからこそ、「エルマーのぼうけん」の展覧会まで開かれているわけですが、では、なぜ、エルマーはこんなにも子どもたちを夢中にさせるのでしょう。

誰かを助けるために立ち上がる

愛される物語の主人公はたくさんいます。

いろんなタイプの愛される主人公がいる中で、エルマーの大きな特徴は、優しさと勇気でしょう。

エルマーは、年取ったのらねこに親切にしてやり、お母さんに内緒でミルクをやったりする優しさを持っていました。

さらに、かわいそうなりゅうの話を聞いて、自分が助けに行ってやろうと決心までするわけです。

りゅうを助けるのは、年取ったのらねこにミルクをやるほど簡単にはできません。

何しろ、恐ろしい猛獣がうじゃうじゃいるのです。

その島に入ったら、2度とは生きては帰れないと言われるくらいなのです。

それでも、かわいそうなりゅうを助けてやりたくて、エルマーはぼうけんに出かけるわけです。

大変な勇気、そして、優しさを持っていると言わないわけにいきません。

昔話のヒーローでは、かわいそうな誰かを助けるために立ち上がることのできる勇気と優しさを持っている場合がとても多いですよね。

そういった主人公は、時代を超え、世代を超え、国境を越えて人気です。

そしてまた、誰かを助けるために立ち上がることのできる人は、ヨギーの目指すべき人であると「ヨガ・スートラ」には書いてあります。

自分のためではなく、誰かのために働きなさいということが繰り返し書かれているのです。

この世界の生きとし生ける全ての生き物の中にプルシャがあると、ヨガでは考えられています。

プルシャのことを神と言い換えてもいいのですが、どんな生き物の中にも神様がいる。

だから、誰かのために働くということは、相手の中にいる神様のために働いているということなのだとヨガでは教えられるわけです。

だから、ヨガでは誰かのために働きなさいと教えられるわけですが、かわいそうなりゅうを救うために、恐ろしい冒険に勇敢に立ち向かったエルマーは、ヨギーのお手本となるべき少年だということができるでしょう。

自由で新しい発想

もう1つのエルマーの大きな特徴は、賢さということでしょう。

この賢さは勉強が出来る賢さを言っているのではありません。エルマーは、とても機転が利く少年なのです。

例えば、りゅうの子を救うため、どうぶつ島のジャングルを進んでいたエルマーは、恐ろしいライオンに出会ってしまいます。

ライオンは、エルマーをにらみながら、こんな恐ろしいことを言います。

「ふつうなら、ごごのおちゃのじかんにとっとくのだが、ちょうど、はらをたてたんで、おれさまは、はらぺこだ。おまえをくうのに、おあつらえむきだ」
(「エルマーのぼうけん」)

ライオンは、そう言いながら、前足でエルマーを捕まえて、どのくらい太っているかさわってみたりするのですが、そんなことをされたら恐ろしくて気が動転してしまうところでしょう。

ところが、エルマーは落ち着いて、ライオンにこう言います。

「どうぞライオンさま、ぼくをたべるまえに、どうして、そんなに、とくべつおこっているのかおしえてください」
(「エルマーのぼうけん」)

エルマーは、ライオンが、たてがみがクシャクシャになって小枝がいっぱいからまってしまったことに腹を立てていることを知ります。

そこで、リュックサックから、くしと、ブラシと、七いろのリボンをとりだして、こう言ってやります。

「まず、あなたのまえがみをつかってやってみせますから。そこならあなたもみえるでしょう。
 はじめに、しばらくブラシをかけます。それからくしをつかいます。
 それからまた、小えだやもつれがすっかりとれるまでブラシをかけます。
 それから、三つにわけて、こんなふうにあんで、さきのほうをリボンでむすびます」
(「エルマーのぼうけん」)

ライオンは、自分のまえがみが3つ編みに編まれ、キレイなリボンで結んでもらったことにとても喜び、ブラシとくしを渡されると、一生懸命、自分でたてがみをとかしはじめます。

その間にエルマーはこっそり逃げてしまうのですが、どうですか。エルマーは、とっても機転がききますよね。

エルマーがこんなにも機転がきくのは、物に縛られない柔軟な発想ができるからこそでしょう。

ライオンにくしとブラシとリボンの使い方を教えたってムダだと常識に縛られた考え方をしなかったからこそ、思いつくことが出来た計略ではないでしょうか。

物に縛られない柔軟な発想をするということは、これまたヨギーの目指すところです。

そして、自由で新しい発想ができることも、エルマーが愛される理由の1つではないでしょうか。

アッと驚くような新しい発想ができる主人公は、世代を超え、国を超え、誰しもを夢中にさせるものですから。

自分にはできない冒険に出会う

私達は、エルマーのような優しさや勇気、賢さを持ちたくてもなかなか持てません。

恐ろしいどうぶつ島に、かわいそうなりゅうの子を救いに行くなんて、とてもじゃないけどできませんよね。

だからこそ、私達は物語の主人公が、優しさ、勇気、賢さを持ち合わせていると嬉しくなるのです。

自分にはできない冒険を代わりに勇敢にやってくれるから、その冒険談に夢中になってしまうのです。

訳者の渡辺茂男先生が、アメリカで、エルマーの物語に出会った当時、日本の子ども向けの本といったら、教訓的なものばかりだったそうです。

だからこそ、アメリカの子ども達がそろいもそろって喜ぶ「エルマーのぼうけん」を、日本の子ども達に紹介して笑顔にしたいと、エルマーの翻訳に取りかかり、素晴らしい名訳で、日本の子ども達に届けてくれました。

1人でも多くの日本の子どもを笑顔にしたいと思いながら訳した渡辺茂男先生もまた、誰かのために働いた素晴らしい人の1人だと言えると思いますし、それは、この楽しい、素晴らしい、ワクワクする物語を書き上げた作者のガネットにも同じことが言えるでしょう。

「エルマーのぼうけん」は、ただひたすら面白く、ワクワクするばかりです。

そんなワクワクするエルマーの物語は、「エルマーとりゅう」、「エルマーと16ぴきのりゅう」と続きます。

もし、エルマーの物語をまだ読んだことがないという方はぜひ、読んでみませんか。

子ども心に戻り、思い切りワクワクする楽しいひとときが過ごせることと思います。