太陽が昇る砂浜で戦士のポーズ1をとる女性の後ろ姿

【後編】古代インドのヴェーダの神々〜これも神様!?インドの神様のイメージが面白い〜

前回はヴェーダの代表的な神様をご紹介しました。

ヴァルナ(司法神・水神)・インドラ(雷神)・アグニ(火神)は天・空・地という3界を司る代表的な神でしたが、インドの神々はさらに多種にわたっています。

こんなものも神なの?というような、新しい発見があるかもしれません。

前回記事:https://www.yoga-gene.com/post-75864/

様々なものを神格化するのが興味深い

ヴェーダの神々の興味深いところは、太陽などの明らかに巨大な力を保持する存在だけでなく、身の回りのあらゆるものを神様だと説くところです。

例えば、お酒も神様となります。現在のインドでは、飲酒はあまり人前で誇れるものではないと考えますが、古代のインドの聖者たちは、何かしらのアルコールを摂取することによって、神々との交流を行っていたと言われています。

神様と交流するのに必要な飲み物も、神様だと考えるのが面白いです。

古代インドの様々な神様

どのような神様がいたのかご紹介します。

暁(あかつき)はスーリヤ(太陽神)の恋人

ヴェーダ時代の美しい女神ウシャスをご紹介します。

ウシャスは、夜明けの始まり、東の空がうっすらと白み始める頃を神格化した女神です。

暗い夜の空から、じんわりと光が浮かぶ美しい時間帯に神聖さを感じた古代のインドの人たちはロマンティックですね。

そんな美しいウシャスに恋をしているのが、ヨガでも有名な太陽神スーリヤです。

スーリヤは、いつもウシャスを追いかけています。ウシャスに追いつき優しく後ろから抱きしめますが、その瞬間にウシャスは消え去ってしまいます。

太陽の光によって終わってしまうウシャス。その儚さも魅力なのでしょうね。

そんな消えてしまうウシャスも、規則正しく毎日同じ時間に現れます。そのため、規則的な繰り返しを意味しているとも考えられています。

夜の女神ラートリー

そんな美しいウシャスにはラートリーという姉がいます。

暁の前に現れるラートリーは、夜を司る女神です。ラートリーも星の輝きを纏ったとても美しい女神です。

ラートリーは、夜の平和を守り、休息をもたらしてくれます。また、星々の輝きにより、夜の暗黒を払ってくれます。

インドでは、物質だけでなく時間も神として考えられていたのですね。

ヴェーダの考え方から生まれたインド音楽も、時間をとても重要視して、時間ごとの音の旋律を厳格に定めています。

死神ヤマは閻魔様

死の主であるヤマもヴェーダに登場します。

ヤマは、人類の始祖であるとも言われ、同時に初めて死んだ者だとも言われています。ヴェーダ時代には、ヤマは死の安楽な国への道を見つけたとも言われています。

色が黒く、2匹の犬を連れていて恐ろしい姿をしています。

このヤマは、仏教に取り込まれ閻魔として日本にも伝わりました。

最初は幸せな死後の世界へ導いてくれる神でしたが、後世では地獄に死者を送るかの判決をする怖い神様になってしまいました。

誰でも知っている閻魔様はヴェーダの神様だったのですね。

お酒も神様!?ソーマ神

ソーマは神々の飲み物と言われています。

何らかの植物の樹液由来の飲み物で、幻覚を見せる作用があり、不老不死をもたらすと言われています。その飲み物を神格化したのがソーマ神です。

またソーマは月(チャンドラ)と同一視されることもあります。

古代の神たちはソーマを飲んで英気を養い、また、古代インドの聖者(リシ)たちは、ソーマを飲むことで神々との交流を行ったと言われます。

リグ・ヴェーダではとても重要視されています。

近年インド、特にヨガでは、飲酒は良くないと考える人も多く禁止している州もありますが、古代には宗教儀式のために何らかのお酒を使っていたようです。

ちなみに現在のインドでは、ソーマという名前のワインもインドで販売されていて人気があります。神々と更新できる聖酒の名前のついたワイン、気になりますね。

ソーマと同一視されたチャンドラ(月)

後期のヴェーダでは、チャンドラ(月)がソーマ(神酒)と同一視されています。

月はソーマで満たされた器だと考えられるので、神々がソーマを飲むことで月が満ち欠けします。

天界を守る風神ヴァーユ

ヴァーユは風の神様です。

同じ風の意味で、アーユルヴェーダなどではヴァータという言葉をよく使いますが、ヴェーダではヴァーユの方が多く登場します。

ヴァーユはプルシャ(原人)のプラーナ(生気)から生まれました。

ヨガの教典では真我(自分の本質)として知られるプルシャですが、ヴェーダの中では人間の祖先である原人として登場します。

ヴァーユは雷の神であるインドラと共に空界を治めます。日本の風神雷神と同じですね。

才色兼備なサラスワティ女神

学問や音楽の神様であり、ブラフマー神の神妃として知られる美しいサラスワティ女神ですが、元々は実在した川の名前でした。

古代インダス文明の頃にはあったと言われているサラスワティ川ですが、現在は存在していません。一説によると砂漠に干上がったとも言われています。

川は流れるものであるため、そこから言葉や音楽の神様となりました。また、神の言葉を書き記すデーヴァナーガリー文字もサラスワティ女神が作ったと言われます。

契約を司る神ミトラ

契約を行うことも神格化されています。

それが、同盟を司る神として知られるミトラです。ミトラは契約・条約・結婚などを司り、人間社会を組織します。

前編で登場したヴァルナと同様の役割を持っているため、ヴェーダでは並べて言及されています。

上下関係的な契約を司るヴァルナに比べ、同等な立場での契約を司るミトラは、友愛の神としても知られています。

現代のインドで代表的なヴィシュヌ神もヴェーダに登場

ここまでは、古代ヴェーダ特有の神々についてご紹介しましたが、現代のインドで圧倒的な人気のあるのはヴィシュヌ神とシヴァ神です。

シヴァ神は前編でご紹介した通り、ルドラ神として登場しますが、ヴェーダの時代にはまだそれほど重要視されていませんでした。

同様に、ヴィシュヌ神もリグ・ヴェーダではたった6篇にしか登場しない目立たない神でした。

ヴィシュヌ神は、太陽の光照らす作用を神格化したと考えられています。

太陽には様々な側面があるので、インドでは様々な太陽神が登場します。

リグ・ヴェーダでは、ヴィシュヌ神は3界(地・空・天)を3歩で闊歩したと書かれています。

同じような神話は、ヴィシュヌ神の化身であるヴァーマナ(小人)でもみられます。

ヴィシュヌ神の10のアヴァターラ(化身)が説く生きるヒント 前編

ヴェーダの中では控えめだったヴィシュヌ神ですが、現在のインドでは最も力のある最高神の1人です。

ヴィシュヌ神は、ラーマやクリシュナなど、土着の信仰を取り込んでいくことで、後世で人気を高めていきました。

ヨガ哲学の土台にあるインドの信仰

今回はインドの神様の中でも、現代ではあまり聞かない古代の神々についてご紹介しました。

ここに書かれた神々への信仰は、後にヨガやアーユルヴェーダに大きな影響を与えます。

自然を深く観察していた古代の人たちによって、時間や物質の特徴がとても詳細に表されていて、その土台があるからこそ人の体についても深い理解が得られたのですね。

ヨガを練習していても、スーリヤ(太陽)やチャンドラ(月)など、ヴェーダに登場する神々への祈りが含まれています。

ただ「太陽礼拝」と言われるよりも、古代の人たちがどのように太陽に対する祈りの心を抱いていたのかを知ることで、より太陽のエネルギーを実感できるようになるかもしれません。

今回紹介したヴェーダを土台にして、ウパニシャッド(ヴェーダンタ哲学)や、ヨガ哲学などが発展しました。

哲学を勉強するときには、その背景を知っていると理解が深まります。