みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、子どもに大人気の児童書「かいけつゾロリシリーズ」を取り上げてみたいと思います。
大人の方々も、子どもの頃、「かいけつゾロリ」を読んだことがあるのではないでしょうか?
1987年に第1巻が発売されてから、年2回のペースで刊行され続けた「かいけつゾロリシリーズ」は、2022年7月に出版された「かいけつゾロリ にんじゃおばけあらわる!」で、何と71巻目に達し、同一作者によって物語とイラストが執筆された単一児童書シリーズの最多巻数を記録したとしてギネスに登録されました。
子ども達に根強い人気を誇る「かいけつゾロリシリーズ」とヨガに、どのようなつながりがあるのでしょうか?
皆さんと共に考えていきたいと思います。
YouTube より「かいけつゾロリ」
「かいけつゾロリシリーズ」と言えば、忘れられない事があります。
本屋でのことでした。
私が児童書の本棚の辺りをぶらついていた時、小学生低学年くらいの男の子と、お父さんが言い合いをしていたのです。
男の子の手には、かいけつゾロリの最新刊がしっかりと握られていました。
その男の子にお父さんは、「本当に、それ買うのか?」と問い詰めているのです。
「それ買うんだったら、もう YouTube は見たらダメなんだぞ。本をあきらめるんだったらYouTube を見てもいい。どっちにする? お姉ちゃんは、本はやめてYouTube にするって言ったけど、お前は?」
それでも、男の子はゾロリを抱きしめていました。YouTube を見なくてもいいから、ゾロリの最新刊が欲しいと言うのです。
お父さんは、よほど、本を買いたくないのか、
「お姉ちゃんが YouTube 見てる時でも、お前は見たらダメなんだぞ。それでもいいのか?」と何度も、男の子に聞きました。
男の子は、いくらお父さんに言われても、ゾロリを抱きしめ続けました。お父さんは仕方なく、ゾロリの最新刊を買ったのです。
私は、ゾロリの威力に感心しました。
今の時代、わざわざ本を読まなくたって、面白いゲームや動画がたくさんあります。
それでも、男の子は、YouTube よりもゾロリが読みたいと頑張ったのです。ゾロリには、それだけその男の子を夢中にさせる魅力が詰まっているのです。
同じように子ども向けの本を書く仕事をしている人間として、ゾロリみたいに、子どもを無我夢中にさせる本を書かなくてはならないんだなあと、心から思った瞬間でもありました。
いたずらの修行を続けているゾロリ
ところで、「かいけつゾロリ」は、もともと、みづしま志穂先生の「ほうれんそうマンシリーズ」というほうれんそうマンが主人公の物語に出てくる悪役でした。
原ゆたか先生は、「ほうれんそうマンシリーズ」のイラストを手掛けていたのです。
ところが、「ほうれんそうマンシリーズ」が休止することになり、「ほうれんそうマンシリーズ」が再開されるまでのつなぎとして、原ゆたか先生が、みづしま先生の許可を得て、悪役のゾロリを主人公にした「かいけつゾロリのドラゴンたいじ」という本を作ります。
これが、かいけつゾロリシリーズの記念すべき第1作目となりました。
主人公のきつねのゾロリは、いたずらが大好き。
いたずらの王者になることを目指して修行の旅に出ているという設定になっています。
常に、子分であるイノシシ兄弟イシシとノシシと共に行動しており、各地をさまよい、行く先々で、大冒険を繰り広げます。
数々のいたずらを仕掛けては失敗し、それでもくじけずにまたまた新たな悪だくみを思いついていたずらに走るきつねのゾロリ。
いたずらの王者ではあるけれど、実は気は優しくてお人よし。
そんなゾロリに、子ども達は夢中になっているのです。
新しいスタイルを貫く
ゾロリの魅力は、実際に本を開かないとなかなか伝わりきらない面があります。
最大の特徴は、ただの児童書のスタイルを取っていないという点にあるでしょう。
イラストと文が一体化しているといったらいいでしょうか。
確かに、児童書なのですが、ふきだしがついていたり、マンガのようにページがコマ割りになっていたり、物語の途中に迷路があったり、とても細かくて詳しいメカの説明図のようなものが載っていたりもするのです。
イラストと文が一体になっているから、見ているだけでどのページも楽しくなってしまいます。
従来の児童書の形を取っているわけでもなく、かといって、マンガでもないような本は、35年前にはどこにもなかったでしょう。
ゾロリが、そんな新しいスタイルを取ったわけは、作者の原ゆたか先生が、本嫌いの子でも本をめくりたくなるような仕掛けを作りたいという思いがあったからだといいます。
本の大きな特徴は、めくるという行為をすることです。
動画は1度再生ボタンを押せば、勝手に流れて物語が進行していってくれますが、本はそうはいきません。自分の手でめくらなければならないのです。
つまり、面白くなかったら、人はもうわざわざ本をめくるのをやめて、パチンと閉じてしまうのです。
原先生は、それを防ぐために、本が嫌いな子でも次々にページをめくっていきたくなるような楽しい仕掛けをたくさん作りました。
その結果、ふきだしや、コマ割り、迷路などがふんだんに盛り込まれた新しいスタイルの本になったわけですが、発売当時は、ふきだしやコマ割りがあったばっかりに、まるでマンガのようだと敬遠する大人もいたと言います。
本を読むのは良いことだけれども、マンガはいけないという大人達は、ゾロリはちゃんとした本ではないと決めつけました。
さらに、おならばっかり出てきて下品だからということで、学校の図書室に置かなかったりしたそうです。
そういえば、私が小さい頃、学校の図書室では、ゾロリを見かけなかった気がします。
それでも、原先生は、このスタイルを決してやめませんでした。
大人が子どもに読ませたい本を作るのではなく、子どもが喜ぶ本を作りたいという信念を決して曲げなかったのです。
小学生の自分が大好きだったものを、ゾロリに残らず詰め込んで、子ども達に楽しんでもらいたい。
その気持ちに1ミリのブレもなかったからこそ、自分のスタイルを貫き続けたのでしょう。
その結果、本離れが加速していると言われる現代でも、子ども達はゾロリを楽しみ、心躍らせているのです。
私は、自分の信念を曲げずに貫き通した原先生のその姿勢が、ヨガとつながるなと思うのですが、みなさんはいかがでしょうか?
「ヨガ・スートラ」には、他の人に言われるのではなく、自分自身で答えを見い出すことが重要だと書いてあります。
自分というものを深く見つめ、自分の確固たるブレない価値観を見つけ、他人のものさしではなく、自分のものさしで物事を見つめることがとても重要だというのです。
周囲の大人に敬遠されながらも、自分のスタイルを貫き通した原先生は、「ヨガ・スートラ」の教えをそのまま実行していると言ってもいいのかなと思います。
武器を持たせない
原先生がもう1つ、ゾロリの中で大事にしている信念といえば、ゾロリに武器を持たせないということだそうです。
ゲームというものはどうしても武力で解決するというスタイルになってしまっていますよね。
ゲームに没頭している子ども達は武力で物事を解決することに自然に慣れてしまっていると言えるのではないでしょうか。
けれども、世界のあちこちで戦争が起き、それがおさまらない今、武力で解決する方法は、本当に良いことだと言えるのでしょうか。
武力ではなく、もっと違う方法で困難を解決する方法を子ども達に伝えることは、とても大切なことではないでしょうか。
そこで、原先生は、ゾロリに決して武器を持たせず、武力で解決させないということを徹底しました。
たしかに、ゾロリは武器を持っていません。武力ではなく、おならなどのゾロリ独自の方法で、事件を解決していきます。
ゾロリのやることに笑っているうちに、子ども達は自然に武力で解決する以外の解決方法が自然に刷り込まれていくことでしょう。
もちろん、ヨガでも暴力は良いことだとされていません。
「ヨガ・スートラ」にもこうあります。
非暴力(アヒンサー)に徹した者のそばでは、すべての敵対がやむ
(「ヨガ・スートラ」第2章 35節)
ゾロリに武器を持たせず、武力ではなく、ユーモアあふれる方法で物語を解決していく。
それだからこそ、「かいけつゾロリ」は、第1巻が刊行されて35年たつ今でも、子ども達
に人気なのかもしれません。
ゲームや動画はとても面白いものです。
ですが、本好きの私としては、子ども達に本の面白さを伝えていけたらと心から思います。
そのために、まだまだゾロリ達には頑張ってもらいたいですし、子どもが YouTube よりも夢中になれる本を、自分自身でも頑張って作らなくちゃいけないなと心から思います。
ゾロリは、ちゃんとした本ではないという大人は、今ではとても少ないでしょう。
でも、もしも、そうお考えの親御さんがいらっしゃったら、ゾロリもちゃんとした本だと、私はお伝えしたいです。
そして、子ども達が読みたいだけ、ゾロリを読ませてあげて下さいと、お願いしたいです。
ゾロリで本に親しむことで、ほかの本も読んでみようと思うかもしれません。どうか、子ども達からその機会を奪わず、存分にゾロリを楽しませてあげて下さい!