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ヨガでは「自分と向き合う」ことを大切にしていますが、自分の内面と向き合うことはとても大切な事です。
過去のことをいつまでも考えてくよくよしたり、先のことを心配しすぎて不安に駆られたり、ともすると私たちは今この瞬間に意識を集中させることを忘れてしまいます。ヨガは自らの心身と向き合うことを通じて、自分の気持ちを「イマココ」に持ってくることが出来るとても素敵なものです。ヨガが生活習慣となっている方は、それぞれ感じるところが多いと思います。
では、お伺いします。皆さんはどこでヨガをしていますか?
忙しい方はなかなかスタジオに足を運ぶことが難しいかもしれません。最近はネット上で有名なインストラクターの指導する動画が山のようにありますから、「別にスタジオに行かなくたっていいや」そう思われるかもしれません。プライベートの出張ヨガというのもありますよね?
でも、ヨガスタジオやクラスに行って、誰かと一緒にするのが好きという方も多いのではないでしょうか?かく言う私もそうですが、それは私が、ヨガを通じた人と人との繋がりや、コミュニケーションがとても大切なだと考えているからです。
今回は人と人との繋がりが心身に及ぼす影響について、医学的に学んでみましょう。
喫煙も肥満も周りの影響?人は想像以上に周りの影響を受けている
人と人とのつながりが、人の行動の選択に対して影響を与えているという点に関して皆さんはイメージがわきますか?
例えば、自分の周囲が皆喫煙者で自分一人だけその中で禁煙しようとした場合と、グループ全体で皆一度に禁煙をした場合、どちらが禁煙の成功率が高いかどうかは、容易に結果の想像がつくと思います。
実際に、ある人の社会的ネットワークにおいて、その人の親しい友人や親族が喫煙している場合、その人自身も喫煙者である確率は、親しい友人や親族が非喫煙者であった場合と比較して61%も高まるという研究があります。[1]
同様に、自分の周囲の親しい人が肥満であると、自分も肥満である可能性が上がるという、いわば肥満が伝染するという研究結果[2]も少し前にかなり有名になりました。
また、町を歩いていてジョギングやウォーキングをしている人とすれ違う事が多いと、自然と”自分も何かしようかな”という思いになっていくことは、決して不思議な事ではないですね。皆さんが人から影響を受けると同時に、皆さんも人に影響を与えている事になります。
では、こうした人と人との繋がりが非常に少ない状態に慢性的にさらされると、人はどのような影響を受けるのでしょうか?
孤独が実はとても危険である事をご存知ですか?
ニュースで「孤独死、社会的孤立」と報道されるのを目にする機会が最近増えてきている気がします。報道の論調は「独りでいることは良くない」という、ネガティブなメッセージを発信している事が多いです。
そうかと思うと、「お独り様」という言葉も近年浸透してきています。「お独り様」という言葉が用いられる際には、レジャー、外食など、「独りでも充実して楽しんでいる」といったポジティブなイメージがあります。
充実していると「お独り様」、寂しい気持ちが強くなると「孤独、社会的孤立」、とそれぞれの人がどのように状況をとらえているかで、表現の仕方が変わってきます。
このため、傍から見ると、お独り様を満喫しているように見える人も、実は大きな孤独を抱えていることはよくあります。逆に周りから見てとても孤独に見える人が、非常に満ち足りた生活を送っていることもあります。
しかし、多くの人にとって社会的孤立や孤独に見える状態が心地よいものでは無い、というのが現実だと思います。実際、最近の疫学研究において「孤独であることが心身にいかに影響を与えるのか」という点に関して報告が増えています。
結論から先に言うと、「孤独であることは心身にとって非常に危険なこと」です。
孤独を感じる要因は「理想と現実」とのギャップ
孤独の心身に対する影響を研究している権威であった、前シカゴ大学教授のカシオポは、”自分が望ましいと思う状態と現実との間のギャップ”が孤独を感じる際にとても重要な要因であると述べています[3]。
このため、先に書いたように傍から見て充実しているように見えても本人は孤独である場合、その逆に孤独に見えても本人は何とも思っていないという場合が生じます。
では、ある人がどの程度孤独なのかを評価する際に、どのように定量化しているのでしょうか?
どの程度孤独かを評価する方法
孤独を定量化する際、UCLA孤独評価スケール[4]というものが用いられます。
日本語に翻訳され、日本人に対しても使用可能か検討されています[5]。
- 自分は周りの人たちの中になじんでいると感じますか
- 自分には人との付き合いがないと感じることがありますか
- 自分には頼れる人が誰もいないと感じることがありますか
- 自分はひとりぼっちだと感じることがありますか
(舛田ゆづり,田高悦子,臺有桂(2012):高齢者における日本語版 UCLA 孤独感尺度(第3版)の開発と その信頼性・妥当性の検討.日本地域看護学会誌誌,15 (1): 25 −32.より一部抜粋)
このような内容を合計20個。それぞれの質問に対して、決してない=1点、ほとんどない=2点、時々ある=3点、常にある=4点、の4段階で評価します。孤独感の強い人はこのスケールで高得点を取る人のことを指します。
こうした評価スケールを用いて、昨今の疫学研究の結果、「孤独」に関しては下記のことがわかってきました。
孤独は人体に対してマイナスの影響を及ぼす
孤独(社会的孤立)は
- 睡眠障害を起こし
- 不安障害やうつ病の原因になり
- ストレスホルモンであるコルチゾールを増大させる
- 体を炎症状態にする
- その結果として糖尿病、心臓病、認知機能障害、自殺企図などの可能性があがる
と云われています。[6]
このように孤独であることが、そうでない場合に比べて、心身共に非常にデメリットが多い事が疫学研究からわかってきました。私たちがあまり意識しないところに“健康の格差”が生じています。
こうした孤独による心身へのデメリットが、もし人と人との繋がりで改善されるとしたら、どう思いますか?
社会的つながりが健康的な長寿に貢献?!
先ほど登場した、孤独の心身への影響を研究している大家である故カシオポ教授は、その著書のなかで「人は社会的生き物であり、つながりを求めるものである」と言っています[7]。
また有名なTEDトークの中で”The village effect”の著者である発達心理学者のSusan Pinkerは2017年に「The secret to living longer may be your social life ,(邦題)長寿の秘訣は周囲の人との交流かも」[8]という演題を発表しています。
その中で、イタリアのサルディーニャ島は100歳を超える人の比率がイタリア本土の6倍、北アメリカの10倍であり、島民が健康なのは楽天的な性格や脂肪の少ないグルテンフリーの食べ物とは関係がなく、人と人との関係が密接で、直に会って交流することが多いからだと述べています。
この中で論拠としている研究[9]によると、習慣的な運動や禁煙、体重の管理などのいわゆる皆さんがイメージする”健康習慣”よりも、人と人との繋がりが多いことが、より長寿に貢献していることを示しています。まさに長生きの効用は”人との繋がりにある” と言及しています。
このように、人と人との繋がりが孤独を改善し、それが心身に対して良い影響を与えることが実証されて行っています。人と人とのこうした繋がりを、”ソーシャルキャピタル” と疫学や経済学、社会学の分野では言います。
ソーシャルキャピタルが健康を左右する
地域のソーシャルキャピタルが貧困だと、そこに住む人たちは社会的孤立や孤独のために心身に悪影響が出現し、逆に地域のソーシャルキャピタルが豊かであると、そこに住む人たちは気づかぬうちに健康になっているという恩恵にあずかることになります。
では、地域のソーシャルキャピタルを高めるにはどうしたらよいのでしょうか?
ヨガを通してできるソーシャルキャピタルの高め方
地域のソーシャルキャピタルを高めていく方法として行政レベルの政策から、個人レベルの草の根活動まで様々なものがあります。皆さんがヨガインストラクター、ヨガ愛好家として出来る、地域のソーシャルキャピタルを高める活動は、地域の社会参加活動を促すことです。
社会参加活動とは”家庭をこえた地域社会を基盤にして、同一の目的を有する人々が自主的に参加し、集団で行っている行動”と定義されます[10]。
スタジオに足を運んでくれる多くの生徒さんと繋がり、そして生徒さん同士のつながりを促し、そしてさらにはスタジオの外にでて、自ら地域で健康体操教室を主宰してみましょう。そして徐々にコミュニティを作っていきましょう。
可能ならヨガ仲間をつくってみて
ヨガインストラクターではない皆さんは、可能でしたらなるべくスタジオに足を運ぶか、もしくは地域のコミュニティに参加して体を動かす仲間を作りましょう。ヨガを通じて自分自身が心身共に健康になっていくだけではなく、自分の周囲の人も健康にすることが出来たらとても楽しいですね。
皆さんがヨガの指導をする中で、それぞれの生徒が健康になり、生徒たちが繋がることで更に生徒たちの健康が増幅され、結果として生徒たちの周りが繋がりの効果で健康になっていきます。
ヨガだからこそできる”つなぐ”
どうですか? 皆さんもご存じの通り、ヨガはサンスクリット語で”つなぐ”という意味が語源にあると言われています。体と心の繋がりに関して、ヨガは太古から注目しています。
インストラクターの皆さんは、より生徒との間のコミュニティを作ることに今まで以上に興味がわいてきませんか? スタジオを外に出て、コミュニティを作ってみようと思いませんか?
そして、インストラクターでない皆さんは、スタジオに足を運んでみる気になりませんか? または、地域のコミュニティに参加して何か運動をしてみようと思いませんか?
自分の健康を増進していく行為が人の健康増進に貢献し、それが自分に返ってくるという健康の連鎖はとても素敵な事だと思います。
これだけは覚えておこう!
- 孤独は心身に非常に悪影響。孤独は毒。
- 人は自分が思っている以上に周囲から影響を受け、同時に周囲に影響を与えている。
- 人と人との繋がりが孤独を改善し、それによって様々な健康増進効果が期待される。
- ヨガインストラクターとして、ヨガを通じてソーシャルキャピタルを高めていく事により、より多くの方の健康増進をはかることが出来る。
参考資料
- Christakis NA, Fowler JH. The collective dynamics of smoking in a large social network. N Engl J Med. 2008 May 22;358(21):2249-58. doi: 10.1056/NEJMsa0706154. PubMed PMID: 18499567; PubMed Central PMCID: PMC2822344.
- Christakis NA, Fowler JH. The spread of obesity in a large social network over 32 years. N Engl J Med. 2007 Jul 26;357(4):370-9. Epub 2007 Jul 25. PubMed PMID: 17652652.
- Cacioppo S, Grippo AJ, London S, Goossens L, Cacioppo JT. Loneliness: Clinical Import and Interventions. Perspectives on psychological science : a journal of the Association for Psychological Science. 2015;10(2):238-249. doi:10.1177/1745691615570616.
- Russell D, Peplau LA, Cutrona CE. The revised UCLA Loneliness Scale: concurrent and discriminant validity evidence. J Pers Soc Psychol. 1980 Sep;39(3):472-80. PubMed PMID: 7431205.
- 舛田ゆづり,田高悦子,臺有桂(2012):高齢者における日本語版 UCLA 孤独感尺度(第 3 版)の開発と その信頼性・妥当性の検討.日本地域看護学会誌誌,15 (1): 25 −32.
- Berkman LF, Syme SL. Social networks, host resistance, and mortality: a nine-year follow-up study of Alameda County residents. Am J Epidemiol. 1979 Feb;109(2):186-204. PubMed PMID: 425958.
- Cacioppo JT, Hughes ME, Waite LJ, Hawkley LC, Thisted RA. Loneliness as a specific risk factor for depressive symptoms: cross-sectional and longitudinal analyses. Psychology and aging. 2006;21(1):140–51. . [PubMed]
- Holwerda TJ, Deeg DJH, Beekman ATF, et al Feelings of loneliness, but not social isolation, predict dementia onset: results from the Amsterdam Study of the Elderly (AMSTEL) J Neurol Neurosurg Psychiatry Published Online First: 10 December 2012. doi:10.1136/jnnp-2012-302755
- Brinkhues S, Dukers-Muijrers NHTM, Hoebe CJPA, van der Kallen CJH, Dagnelie PC, Koster A, Henry RMA, Sep SJS, Schaper NC, Stehouwer CDA, Bosma H, Savelkoul PHM, Schram MT. Socially isolated individuals are more prone to have newly diagnosed and prevalent type 2 diabetes mellitus – the Maastricht study. BMC Public Health. 2017 Dec 19;17(1):955. doi: 10.1186/s12889-017-4948-6. PubMed PMID: 29254485; PubMed Central PMCID: PMC5735891.
- Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection, (2008): W.W. Norton & Co.
- 「The secret to living longer may be your social life ,(邦題)長寿の秘訣は周囲の人との交流かも」
- Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review. Brayne C, ed. PLoS Medicine. 2010;7(7):e1000316. doi:10.1371/journal.pmed.1000316.
- 「つながり」と健康格差 村山洋歴史 (2018) ポプラ社