記事の項目
瞑想を習慣にする人は増えてきていると思いますが、瞑想状態に何が起きているのかを説明することはとても難しいです。
ヨガでは、瞑想は意識の向ける方向を変えることだと考えています。
『マンドゥカ・ウパニシャッド』では、3つの意識の状態があると解きます。
自分の意識がどこに向いているのかによって、自分の瞑想の状態を知ることができます。
意識の向く先によって世界の見え方が変わる
世の中には、目で見えるものしか信じられないという人もいえば、精神世界の抽象的な概念に没頭する人もいます。
世界は明るいと考える人もいれば、お先真っ暗で苦しいと感じる人もいます。
同じ映画を見ているときさえ、対極な感想が生まれることがありますね。
ヨガでは、全ては意識の向ける方向次第だと考えます。
また、教典『マンドゥカ・ウパニシャッド』によると、人々の意識は「起きている状態」「夢を見ている状態」「深い眠りの状態」の3つに分類されると説かれます。
さらに、瞑想によって4つ目の状態に気がつくことができます。
- 起きている状態:身体が活発に動いている。外の世界に向く。
- 夢を見ている状態:心が活発に動いている。内向的。
- 深い眠りの状態:暗闇に意識が向いている。
- 4つ目の状態:本質に意識が向いている。
ヨガでは、意識を「起きている状態」から「4つ目の状態」に近づけます。
それぞれの状態についてご説明します。
ヨガ学ぶ意識の状態4つ
意識が向くというのは、舞台でスポットライトを当てるようなものです。
人の意識は、同時に複数のものを見ることができません。
1箇所にライトを当てている時には、他のものを見えなくなってしまいます。
起きている状態
起きていう状態は、私たちが見ている物質世界全てを含みます。
目で見て、耳で聞き、鼻で嗅いで、舌で味わう、手で触ることができるもの全てを含んだ意識世界です。
全て自分の外側の物質世界です。
起きている状態は主に身体が活発に働きます。
私たちは、この起きている状態が全てだと考えます。自分たちは常に覚醒しており、世界の真実を見ていると思っています。
しかし、ヨガにとって、起きている時に見ている物質世界は自分の外にあるもので表面的だと考えます。
大切に使っていた1点ものの食器が割れてしまうと、とても悲しくなリます。
しかし、瞼を閉じてみましょう。食器が割れる前と、割れた後の私には何も変化がないことに気が付きます。
夢を見ている状態
夢を見るとはどういうことなのでしょうか。
ヨガでは、夢は心(チッタ)の遊びだと考えます。
目を閉じて外の世界からの情報を遮断することによって、内側にある心に意識が向きます。この心は常に様々な想像を行い、夢を作り出しています。
過去に経験した様々な感情から、様々な夢を生み出します。まるで現実のように感じたり、実際に身体が動いたり鼓動が早くなることもあるでしょう。
しかし、全て心の作り出す幻影でしかありません。
どれだけ怖い化け物に夢を見ても、目が覚めた瞬間に化け物の姿は消えています。
朝起きた時、そこはとても平和で安全なベッドの上です。
悪夢を見た時には目覚めが悪いかもしれませんが、心の作り出す幻影もまた、私自身には何の影響も与えません。
深い眠りの状態
夢も見ない、深い眠りの時に意識はあるのでしょうか?
きっと多くの人は意識が消失していると感じるでしょう。
しかし、そんな深い眠りから覚めたときに「よく寝た」「ぐっすり寝た」と感じるはずです。
全く意識が無かったのであれば、どうして良い睡眠だったと分かるのでしょうか。
ヨガでは、深い眠りの状態の時も意識はクリアに働いていると考えます。
夜の山道を車で走っているとします。車のヘッドライトに照らされて、周りの木々や、目の前の道路を見ながら進み続けています。
山の頂上に到達した時、車の前には何もありません。ヘッドライトは確かに前方を照らし、運転手は目を開けていますが、前方には何もないので、何も見ることができません。
同じように、深い睡眠の状態では、意識ははっきりと働いていますが、見る対象がない状態です。
人は深い眠りの中で幸せを感じます。なぜなら、その瞬間は恐怖や不安がなく、あらゆる苦痛から解放されているからです。
この状態では、人生の問題が無くなったわけではありませんが、それが見えなくなっただけで人は幸せを感じます。
4つ目の状態
4つ目の状態はとても説明が難しいです。
なぜなら、今までの3つの状態と別のものではないからです。
起きている状態、夢を見ている状態、深い睡眠の状態、それら全てを含んでいます。
意識が全てに行き渡っているのと同時に、特定の対象に向いていません。
意識そのものに意識が向いています。
それが深い瞑想の状態であり、宇宙全体の真実に意識が結びついている状態です。
あらゆるものを含み、全ての可能性を保持していますが、特定の姿に変容はしていません。それ自体が完全であり、どんな特徴も必要ありません。
起きて感覚器官から得た情報でも、夢の中で思考が作った映像でも、熟睡の中の暗闇でもなく、それを見ている自分自身に気がつけるのが4番目の状態です。
ヨガで自分の意識がどこに向いているのか観察する
ヨガでは、私たちが見ている世界は意識のスポットライトを向ける先の違いでしかないと考えます。
人間関係がうまくいかない時に、ある人は「こんなことを言われて私は傷つけられた」のだと、感情的なことばかりを言うでしょう。
他の人は、「いつも自分は時間通りなのに、相手は遅刻をする」と、社会的倫理で話します。
他の人は、「自分はこれだけお金を使ったのに、相手は当然だと思っている」と、物質(お金)について訴えるかもしれません。
お金、容姿など、物質的なものや外見的なものついてばかり話す人。感情や仁義などを重要視する人。
人によって意識の向ける方向が違うのだと理解していないと、会話が噛み合わない時にいつまで経っても相手のことを理解できずにいます。
まずは、自分自身について観察してみましょう。
自分の意識の向け方には癖があることに気がつくことができるでしょう。
また、同じ自分でも、いる場所や、一緒にいる相手、時間帯によっても変わることがあります。
同性の友人の前では、理論的で、損得ばかり考えている人が、恋人の前だけ、突然理性がなくなり感情でしか物事を考えられなくなることもあります。
また、昼間は外交的なのに、夜になると急にネガティブな妄想に襲われる人もいます。
自分自身が変わってしまったかのように感じる人もいますが、これは普通のことです。
うまくいかない時に、意識を向ける先を変えてみると、新しい発見があり、思わぬ正解が見つかるかもしれません。
静けさに意識を向ける時間を作る
日常的に人は外の世界や、思考、暗闇のどこかに意識を向けていて、自分の本質的な部分に向き合うことがありません。
本質はとても静かなものです。
体や心を止めないと、なかなか見つけることができませんし、瞑想中に眠ってしまってももちろん気がつけません。
ウパニシャッドの中では、オームというマントラを唱え、音が止まった後の静けさを味わうことを勧めています。
人によっては、アーサナで心と体の意識を研ぎ澄ませた後のシャバアーサナで感じるかもしれません。
静けさの中で、ただそれを味わう。
そんな時間があることで、毎日新鮮な意識で世界を見ることができるのではないでしょうか。