プラーナヤーマ、ヨガの呼吸法の治療的効果

プラーナヤーマ、ヨガの呼吸法の治療的効果

健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。

文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年3月末までで約8,300件の報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。

今回は2020年に報告された、プラーナヤーマの治療的効果について、これまでの報告をとりまとめて包括的に評価をした、システマティックレビューによる研究を紹介します。

研究の背景:補完代替医療として普及しているヨガ

補完代替医療として普及しているヨガ
補完代替医療として普及しているヨガ

補完代替医療は長年にわたって世界的にも注目が高まっていて、特に先進国においては人口の70~80%の多くの人が生涯に何らかの補完代替医療の経験があると言われています。

補完代替医療は、ハーブなどの天然植物を用いる方法と、心身の実践による方法の大きく2つのカテゴリーに分けることができます。

ヨガもそのうちの心身の実践による方法の補完代替医療の1つとしてみなされていて、近年幅広く普及されています。

ヨガは、身体的・精神的・感情的・霊的に総合した調和と健康をもたらすとされています。

ヨガ療法(Therapeutic Yoga)は、構造的、生理的、感情的、精神的な苦痛や制限を予防・軽減・緩和することを目的として、ヨガのポーズやさまざまな実践法を健康状態の治療に応用することと定義されます。

プラーナヤーマは、サンスクリット語の生命・エネルギーを意味する「プラーナ」と、広げる・調整する・コントロールを意味する「アーヤーマ」から成る、『ヨガの呼吸法』を意味する言葉です。

パタンジャリの『ヨガ・スートラ』の中では、ヨガの八支足のうち4つ目の段階にプラーナヤーマはあげられています。

通常は座った姿勢にて、速い呼吸、ゆっくり深い呼吸、片鼻呼吸、止息/保持など、意図的に呼吸を調節して行われます。

これまでのヨガの効果に関する研究の大半はアーサナとプラーナヤーマを合わせて検討・評価するものがほとんどですが、プラーナヤーマのみでもストレス解消、心血管系への有効性、呼吸機能の改善、認知機能の向上などへの健康効果が実証されつつあります。

この研究では、これまでに行われてきたプラーナヤーマの健康への効果に関する研究を包括的にレビューしてまとめることを目的としました。

研究の方法:文献検索サイトを用いた研究報告レビュー

文献検索サイトを用いて2017年6月までの関連する研究報告をレビューしました。

検索キーワードは以下のとおりです。

  • プラーナヤーマ
  • ヨガの呼吸法

一次的に669の研究報告が検出され、その中から今回の研究テーマに合わせて18の研究報告に絞り込みしました。

インドからの報告がほとんどです。

研究の内容や規模によって参加者は16名から160名、プラーナヤーマの実施期間は4日から6か月の幅がありました。

3.研究の結果・結論: プラーナヤーマで治療的効果を示すさまざまな疾患

これまでにプラーナヤーマの効果の調査が行われてきた疾患には以下のようなものがありました。

  • 呼吸器疾患(気管支喘息、閉塞性肺疾患、胸水貯留)
  • 悪性腫瘍(がん、QOL)
  • 心血管系疾患(心筋梗塞、高血圧)
  • その他の疾患(うつ、トラウマ)

さまざまな種類の疾患に対する研究において、プラーナヤーマに治療的効果を示したとの報告がされました。

特に、生理学的側面(体内で起こるさまざまな機能)と精神面などの心理学的側面について大きな利点があるようです。

呼吸器疾患患者に対しては、脈拍数、収縮期および拡張期両方の血圧、呼吸数、呼気量を含む肺機能に関する数値の改善が認められました。

また、発作の回数が減少し、副薬量が減少したなどの、生活の質の向上にもつながったとの報告もありました。

悪性腫瘍に関する疾患患者に対しては、精神面に対しても注目して評価がされ、疲労や不安、ストレスなどを軽減する効果が認められました。

他にも睡眠の質が改善し、抗酸化機能(細胞のダメージを防ぐ)やナチュラルキラー細胞(免疫機能)の増加の報告もありました。

心臓血管疾患患者に対しては、自律神経系に働きかける呼吸法によって心拍数や血圧が安定したと報告しています。

入院患者に対して病院でも調査が行われたこともあり、病気そのものだけでなく、検査や手術を受ける際の不安の低減にもつながったようです。

さまざまな病気の予防や、病気からの快復、QOL 向上の目的にも、幅広い面からプラーナヤーマを含めたヨガが多くの方に実践され、また現代科学的にも効果が実証されてきているようです。

アーサナと同様に、プラーナヤーマも内容や強度がいろいろあります。

特に疾患を有する人は専門家の元で指導を受けるなどして安全に取り組む必要はありますが、無理のない範囲での心地良い深呼吸は、どのような方にも取り入れやすそうです。

心身のリフレッシュ以上に、身体の中では目には見えない細胞レベルでの効果が発揮されているかもしれません。

参考文献