健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年6月末までに約8,400件を超える報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回は、2024年に報告された職場ヨガの一例として、座りっぱなし・固まった姿勢に効くヨガの事例を紹介します。
- 研究の背景
- 歯科専門家向けに考案されたヨガプロジェクト
- 研究の結果・結論
1.研究の背景
職業に関連する筋骨格系の障害は、歯科医療従事者のなかでは深刻な健康問題です。有病率は64~93%にも及ぶとされていて、最も影響を受けやすい部位は、首と肩、腰が34~60%、股関節・臀部が15~25%との報告がされています。
報告されている腰痛や股関節・臀部の痛みには、脊椎のゆがみ、特に腰部の背骨のカーブの喪失、腰椎骨盤リズム(腰椎・骨盤・股関節の動作の連動)の変化、下位交差性症候群(反り腰・猫背)、圧迫症、椎間板ヘルニア、股関節周りの痛みや神経障害といった重度の障害も含まれます。
長時間の座りっぱなしや歪んだ姿勢は、脊柱と骨盤の可動性を低下させ筋肉の硬直・緊張を引き起こし、筋力の低下にもつながります。そのため、腰椎から骨盤に関係する各種の障害と密接に関連があります。
また、背骨のゆがみや自然なカーブの喪失、長時間の上半身の前傾姿勢、骨盤の斜めの傾きといった仕事中によく行う姿勢は、背骨への緊張や負荷を増やし、結果としてヘルニアなどの背骨や椎間板への影響だけでなく、腹部や胸部の臓器圧迫リスクの増加にも繋がりかねません。
しかし歯科医療従事者の仕事内容によっては、長時間にわたりアンバランスな姿勢をとることは避けられず、仕事中のリスクの軽減は困難となるでしょう。
近年、治療を目的としたヨガは、整形外科や理学療法における慢性疼痛、ヘルニアの治療だけでなく、産業や予防医学の観点も含めた多岐にわたる分野から注目を集めており、身体的・精神的・認知的な健康に関するすべての側面から優れた効果と利点が実証されています。
この研究では、歯科医療従事者が職場で行えるアーサナで構成したヨガプログラムを考案することを目的としました。
2.歯科専門家向けに考案されたヨガプロジェクト
このプロジェクトでは、歯科医療従事者が特に仕事で影響を受けやすいとされる腰、股関節・臀部、脚まわりへの負荷を緩和する内容を提案することにしました。姿勢学や人間工学およびヨガ療法の教授でもある著者の一人によって考案され、地域委員会に認証されたプロジェクトの一部です。
考案されたアーサナの対象領域は下半身です。具体的には腰、椎間関節、股関節、仙腸関節、膝関節、足首関節、腸腰筋、梨状筋、大腿方形筋、多裂筋、腰方形筋などがターゲットとなっています。また、歯科医院の環境(歯科用椅子、診療室やオフィス、家具など)を利用して実践できるアーサナが選ばれました。
アーサナを行うための全体的な推奨事項は「背骨の自然なカーブを維持しながら、バランスのとれた座位から始めること」、「深呼吸をしてゆっくりとポーズに入り、息を吐きながら動きを深め続けること」です。
また、身体に優しいゆっくりとしたペースで動き、精神的なスペースを確保しながら身体と呼吸に注意を払い、身体から発せられる声に受容的な態度で接し、どんな感覚や感情もすべて受け入れることができる状態であることも大切です。
アーサナを行っていて緊張や痛みが強すぎるときは、強度を下げる必要がある場合もあります。
3.研究の結果・結論
歯科医療従事者向けに提案されたヨガのアーサナによって、職業病ともいえる不調を抱えやすい下半身のアンバランスや障害を緩和することが実証されました。
以下は目的別アーサナの一例です。
背骨の伸展・可動性向上、脊柱前湾症の回復のためのアーサナ
- 座位または立位の後屈ポーズ
- コブラのポーズ
- アップドッグ
- 弓のポーズ
脇を伸ばす、体幹のねじれ、脚のストレッチ、股関節をリリースするためのアーサナ
- 立位半月のポーズ、側屈のポーズ
- 三日月のポーズ
- 三角のポーズ、ねじった三角のポーズ
- 座位のねじりのポーズ、椅子を用いたねじりのポーズ
背骨をリリースするための前屈系アーサナ
- 立位または座位の前屈ポーズ
- ねじった前屈のポーズ
- ダウンドッグ
股関節、臀部のためのアーサナ
- 戦士のポーズ
- ハイランジポーズ
- 門のポーズ
- 鳩のポーズ
- 4の字のストレッチ
ヨガのアーサナを日々行うことによって、身体がほぐれ心身がリフレッシュするとともに、固まった姿勢に起因する職業病、身体の痛みが緩和されることが分かりました。
今回の文献には写真がいくつも掲載されています。その中には職場の椅子に座ったままでできるポーズも載っていました。文献検索サイトに慣れていない方、とっつきにくさを感じている方も、写真を見ることをきっかけとしてアクセスしてみてください。