夕焼け空に向かって座る人のシルエット

6種類のアグニ(炎)で人生を明るく照らす

エネルギー不足で活動することができなくなったり、エネルギーが有り余って行動や感情が暴走してしまった経験はありませんか?

これらは全て、私たちの体や心の中に燃えている炎(アグニ)が関係しているとヨガでは考えます。アグニとは何か、アグニにはどのような種類があるのかを学んで、日常生活で活かしていきましょう。

自分の内側の炎に気が付く

炎に囲まれて目を閉じる髪の長い女性

ヨガやアーユルヴェーダでは、アグニ(炎)という言葉を頻繁に使います。

ヨガでは自分の内側の不純性を燃やすことを重要視するため、自分の内に宿る物質的なものやエネルギー(プラーナ)、心理的な炎の存在に注目します。火が燃えていないと私たちは生命活動を維持することができませんが、暴走してしまうと全てを焼き切り人生を崩壊させてしまいます。自分の内側でどのような火が燃えているのかに気付き、アグニのエネルギーをバランスよく正しく使うことが大切です。

今回は、自分の内に宿る6種類の代表的なアグニを紹介します。

・ブータアグニ(Bhutagni):身体を温める火

・カーマアグニ(Kamagni):欲望の火

・ジャタラアグニ(Jataragni):消化の火

・バダバアグニ(Badabagni):批判の火

・プレマアグニ(Premagni):愛の火

・ギャーナアグニ(Jnanagni):知性の火

身体の状態を整えるブータアグニ

まず、私たちの日常活動に関わってくるブータアグニ(Bhutagni)を見ていきましょう。

ブータアグニは家を温める火。人間にとっては、器である身体の内側に暖かさを保ってくれる火です。特に寒い時期には、身体の内側から生まれてくる熱を感じやすいですよね。人が活動するためには、一定の体温を保つ必要があります。その熱を生み出してくれるのがブータアグニです。

アーユルヴェーダでは、ブータアグニは5つの要素(土・水・火・風・空)に働きかけています。主に肝臓で働き、消化したものをさらに細かく分解して、体内の各組織で吸収できるようにするアグニです。

熱情を生むカーマアグニ

炎に向かって歩くドレス姿の女性の後ろ姿

カーマが「快楽」や「喜び」を意味するとおり、カーマアグニ(Kamagni)は強い欲望や情熱を生み出すアグニです。時に強すぎる熱情は、人を飲み込み支配してしまうこともあります。特に、異性に対する愛欲、大きな財産を手にしたいという欲望、成功への欲、人から賞賛されたいと思う自己顕示欲はとても強いものなので、多くの人がそれらの欲望にのまれて大きな間違いを犯してしまうことがあります。

しかし一方で人間を始めとする生類は、より魅力的な異性との交配を求めることや、より大きな富や縄張りを手にしたいという情熱によって、生命を繋いできたともいえます。

全てを消化してくれるジャタラアグニ

消化の炎であるジャタラアグニ(Jataragni)は、アーユルヴェーダでもよく知られています。

私たちは食べたものを消化の炎で燃やすことで、生きるためのエネルギーを生み出します。消化の炎に栄養が行き渡り燃料が充分な状態であれば、それが生殖の炎にもなります。

またジャタラアグニは、体内浄化にも重要なアグニです。消化の炎が弱く食後に未消化物が体内に残ってしまうと、それが腐ってアーマ(未消化の毒素)となり心身に悪い症状を起こします。しかし充分なアグニの力があれば、体内の不純性や毒素を燃やし切ることができます。だから、体内を浄化させるためにも充分なアグニの力が必要なのです。

ヒンドゥー教だけでなく、キリスト教やイスラム教など多くの宗教で断食のルールが設けられていますが、それは体内の毒素を全て取り除くための実践です。

人々を飲み込むバダバアグニ

バダバアグニ(Badabagni)は水の中の火として知られていますが、他者からの批判の火でもあります。

周囲の人から非難を浴びせられた時、私たちの内側で大きな炎が燃え上がります。

例えば、大勢の人の前に立った時のことをイメージしてみましょう。心臓が高鳴り、喉がカラカラに乾き、顔が火照ってしまいます。これは、自分の内側から生まれる強い炎の実感ですね。

バダバアグニはとても強烈です。人によっては、大きな怒りとなり爆発的なエネルギーを生み出します。一方で、その炎の強さに耐えきれず自ら命を絶ってしまう人もいます。

幸福を与えてくれるプレマアグニ

夕日をバックに小さい子供を抱く母親のシルエット

私たちを幸せに導いてくれる炎は2つあります。

1つめは、先に出てきたカーマアグニです。これは欲情的な激しい愛です。この燃えるような激情は必ずしも人を幸せにしてくれるものではありません。ドラマティックで人を強く惹きつけますが、激しく燃えて散っていくことも多いです。

2つめは、プレマアグニ(Premagni)です。カーマアグニに対して、プレマは慈愛、母親の愛のような穏やかで大きな愛です。心から相手の喜びを願うことができ、見返りなく純粋に包み込むような愛です。そのような愛は人の心を豊かにし、喜びを教えてくれます。

純粋な幸福を知るギャーナアグニ

ギャーナ(またはジニャーナ)(Jnanagni)アグニは知識の愛であり、ヨガで到達できる真実の叡智の炎です。ヨガでは、正しい知識を得ることであらゆる欲望や苦悩の原因を燃やし切ることができると考えます。

彼の企てが全て欲望と意図(願望)を離れ、彼の行為が知識の火により焼かれているなら、知者たちは彼を賢者と呼ぶ。

『バガヴァッド・ギーター』4章19節

正しい知識とは物質世界への囚われを手放し、自分自身や宇宙の本質を知ることです。

本当の幸福が富や社会的地位、若さや視覚的な美しさでないことに気がつくと、束縛の原因となる欲望を焼き切ることができます。また、無常なものに対する執着が生み出す苦しみも消えていきます。 自分の本質は「アートマン」や「ブラフマン」といったヨガ用語を勉強しても正しく理解することができません。ヨガの練習を実習し、自分の経験で学ぶ必要があります。

日常生活で内側の炎に意識を向けてみましょう

暗闇で灯るキャンドルを持つ人の手元

今回は自分の内側にあるアグニ(炎)について紹介しました。

少し意識してみると、様々な熱が身体の内側から湧いてくるのを感じることができます。

炎の力はあらゆる活動の源になるのです。それが包み込んでくれるような暖かさであれば幸せを感じられますが、暴走してしまうと行動や感情も暴走してしまうことがあるので注意が必要です。 精神的な炎と身体の炎は繋がっています。例えば、激しい怒りや緊張状態が続いたことでバランスを失って胃が痛くなってしまったり、皮膚の炎症が起こったりすることがあります。また緊張状態が続くと、身体の内なる火も燃えるので体温も高くなります。 一旦燃え始めた炎は全てを焼き切るまで消火することが難しいのですが、乱れた炎を落ち着かせてくれるのは、内側の静けさの中から生まれてくるギャーナアグニ(知識の炎)です。

ヨガや瞑想の中で感覚がクリアになってきた時、その静けさがあらゆるものを包み込んでいきます。静かな炎というとイメージが難しいと思いますが、ロウソクの炎を想像してみてください。その火を見ていると、光はとても穏やかで明るく静かであることが分かると思います。 人生を明るく照らしてくれる、知識の炎を大切に灯し続けたいですね。

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