ヨガで睡眠の質と認知機能を高める

ヨガで睡眠の質と認知機能を高める

健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。

文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年6月末までに約8,400件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。

今回は、2021年に報告された「健康に欠かせない睡眠と認知機能の関係」と「ヨガによってもたらされる効果」について、過去の文献からの知見をまとめた研究を紹介します。

1.現代的なライフスタイルと睡眠

夜遅くまで仕事をする女性
夜遅くまで仕事をする女性

人間にとって睡眠とは、体内時計のリラックス期を表す重要なプロセスの一つです。睡眠には、夢を見るような活動的なレム睡眠と静かな睡眠のノンレム睡眠の2種類があります。

睡眠は生理学的な能動的プロセスに分類され、基本的にはホメオスタシス(恒常性)と体内時計によって働く生体リズムによって調節されています。

より詳細な睡眠と覚醒のパターンは、脳の視床下部にある視交叉上核によって活動が制御されていると言われています。

仕事、余暇、食事などの日常生活の中で特に健康的な生活の基盤となるものは、睡眠です。睡眠障害は、健康に悪影響を引き起こすことがすでに分かっています。

現代的なライフスタイルは、身体的、心理的、社会的におこる様々な健康の側面にも悪影響を及ぼす可能性があることが指摘されることもあります。現代技術の進歩による電子メディア機器の発達によって、人々の就寝時間は遅くなり、夜間の覚醒時間が長くなりました。この影響は大人だけでなく、子どもも含めたすべての年齢層で見受けられます。夜に電子機器などから発せられる光を浴びると、睡眠を調節する重要なホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、入眠の遅れや睡眠の途切れなどの睡眠障害を引き起こします。また、刺激性のあるコンテンツは睡眠の妨害につながる可能性があります。

飲食物に含まれるカフェインやアルコールも、正常な睡眠を妨げることがあります。例えば、カフェインは快楽・報酬と関連するドーパミン回路を刺激し覚醒を促します。カフェインの半減期は3〜7時間との報告もあり、午後または夜遅くに摂取した場合、就寝時間を過ぎてからも体内に残って睡眠に影響を与えるでしょう。

さらに睡眠と覚醒のサイクルは、栄養素やホルモンの影響を受けます。不規則な生活や不規則な食事時間は体内時計を乱します。その結果、睡眠不足に影響するとの報告もあります。

忙しさが優先されて睡眠時間が減ってしまうと、日中は疲れ切ってしまいます。すると当然のことながら、注意力や精神機能、パフォーマンスが低下したり創造力が衰えたりすることもあります。ひいては、学業成績や仕事の業績低下などにもつながりかねません。

2.睡眠と認知機能

気持ちよく寝ている女性
気持ちよく寝ている女性

睡眠が、脳の成長や学習、記憶の定着などの認知機能の発達と維持に果たす役割を証明する報告が、これまでに数多くあげられています。

新しい学習とその定着に関する長期記憶の形成はレム睡眠によると考えられており、レム睡眠の持続時間や深さと認知機能には関係性があると認められました。

また、脳の海馬で行われる宣言的記憶(事実と経験の保持)は、睡眠のある段階によって促されることが分かっています。睡眠第2段階のノンレム睡眠時に見られる睡眠紡錘の脳波状態が、言語記憶の保持と関係があることが報告されています。ノンレム睡眠時に短期的なエピソード記憶の変換が促進され、海馬と大脳新皮質の間のネットワークで記憶が定着していきます。

睡眠の量・質・効率は、短期記憶や長期記憶を問わず認知機能と深い関係があるようです。

3.ヨガによって睡眠の質と認知機能を高める

ヨガは、インド文化に根ざした身体的・精神的・霊的な健康を促進する生き方であり、アーサナ、呼吸法、瞑想などのさまざまな要素を持ち合わせています。

文献検索サイトに「睡眠と認知機能」「睡眠とヨガ」「ヨガと認知機能」のキーワードを入れてピックアップされた20件の報告から、ヨガによってもたらされる効果を確認しました。

睡眠に対するヨガや瞑想の効果について、以下の研究結果の報告がありました。

  • 睡眠と睡眠規則に関わる脳機能を改善し、ホメオスタシス(恒常性)を維持する
  • ノンレム睡眠、レム睡眠の両方を増加させる
  • 睡眠の改善によって、不安や不眠症を含むメンタルヘルスが向上する
  • 呼吸機能、心臓機能を高める、安定させる

また、認知機能に対するヨガや瞑想の効果については、以下の研究結果が報告ありました。

  • 記憶力、注意力、警戒心といった認知機能と関係する機能が顕著に向上する
  • うつ、不安、ネガティブな感情を予防し、認知機能とも関連するストレスを軽減する
  • 脳機能を改善し、自律神経系の活動を調整し、ホルモンなどの内分泌系を調節する

今回の研究結果から、ヨガの実践が睡眠と認知機能を最適化することがわかりました。具体的には、自律神経の機能がより良くなり、細胞組織レベルでの代謝機能が向上し、脳の重要な部位の機能と神経ネットワークの回路そのものの機能が高まることが分かりました。

ヨガを実践することは、健康促進のより良いサイクルにつながりそうです。

参考文献