『虎に翼』~理想を追い求め続けるということ~

みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。

今回は文学からちょっと飛び出して、現在放送中の朝ドラ『虎に翼』とヨガのつながりについて見ていきたいと思います。

法律の世界をテーマに扱ったこのドラマを、毎朝楽しみに見ているという方もとても多いのではないでしょうか。法律なんて堅苦しくて難しくてつまらないという固定観念を私も抱いていましたが、そんな固定観念を見事に打ち破り、法律の面白さに気付かせてくれる素晴らしいドラマだと思いました。

このドラマをきっかけに、改めて法律に目を向けてみたという方も多いのではないかと思います。

今回は、そんな『虎に翼』とヨガのつながりについて考えていきたいと思います。

主人公のモデル、三淵嘉子

主人公である寅子のモデルは、三淵嘉子。日本初の女性弁護士の1人であり初の女性判事、そして初の女性家庭裁判所長に就任した方です。法律の世界で活躍する女性のために、道を切り開いてきた先駆者と言えますね。

この経歴を見ただけでも非常に優秀な方だったということが伺えますが、実際に頭の回転が速く、元気で頼りになり、周囲を引っ張っていく存在だったようです。嘉子の父は、優秀な娘を見て「この子が男だったらどれだけよかったか」とこぼしていたということですから、かなり頭脳明晰だったのでしょうね。

嘉子は明治大学専門部女子部法科に進学し、法律を学びます。とてもパラフルな性格だったようで、授業の合間に友人とプールに泳ぎにいっては濡れた髪のまま授業に出て居眠りをしたり、東京で雪が降ればスキー板で自宅前の坂を滑ったり、料理学校に通ったりしていたようです。

それだけパワフルな性格だったからこそ力強く時代を切り拓いて、当時の法律の世界でも活躍できる存在となったのでしょうね。

そんな三淵嘉子をモデルにした『虎に翼』は、視聴率17%台を維持する人気の朝ドラです。法律考証など細かい点まできっちり押さえているということで、法曹関係者の間でも人気のようですよ。

ドラマのキーポイントは「はて?」

時は戦前。主人公の寅子はもうすぐ女学校を卒業する時期で、親の勧めでお見合いをしています。女性は結婚をして家庭を持つことが当たり前と言われる世の中。母親も当然のように結婚こそ女性の幸せだと寅子に言いますが、寅子自身はどうしてもそうは思えません。

お母さんの言う通り、結婚は悪くない、とはやっぱり思えない。なぜだろう。親友の幸せは願えても、ここに自分の幸せがあるとは到底思えない。というか、なんだ?したたかって。なんで女だけニコニコこんな周りの顔色を窺って生きなきゃいけないんだ?なんでこんなに面倒なんだ?なんでみんなスンとしてるんだ?なんでなんだ?

『虎に翼』

女性は結婚をして幸せを掴むべきと当たり前のように思われている世の中に、寅子は全力で抗います。そんな寅子の口ぐせは、「はて?」とつぶやくこと。女だから結婚をしなければならないということ、女だから男を立てなきゃいけないということ、女だから男の言うことに従わなければならないことに全力で疑問を感じる寅子は、事あるごとに「はて?」とつぶやき胸の中の疑問を周囲にぶつけます。女は男に従うものだとか、どうしても思いがちですよね。ですが寅子は、これが世の中の常識だからという風潮に決して流されません。この寅子の姿勢は、ヨガにもつながってきますよね。

『ヨガ・スートラ』には、常識だから、こういうものだから、本に書いてあるから、先生が言ったから……といって、それを鵜呑みにしてしまってはいけないとハッキリと書いています。常識や、誰かに教わったことを鵜呑みにしてしまってはダメで、常に自分自身で考えること。自分自身で考えて出した答えこそが正しい答えなのだと『ヨガ・スートラ』には書いてあるのです。だからヨガの師匠に教わったことさえ疑ってかかれと『ヨガ・スートラ』には書いてあるのですが、それはまさしく寅子の姿勢とつながってきますよね。

常識だから、母にこう言われたからといって、寅子はそれを受け入れません。自分自身がしっかり納得が出来るまで、「はて?」と疑問をぶつけ考え続けます。明治大学女子部で法律を教わっている恩師の先生が言うことにさえ、寅子は「はて?」と疑問をぶつけます。「はて?」と疑問を持ちそれを口に出すことができる寅子は、ヨギーの精神に通じている人だと私は思うのですが、みなさんはいかがでしょうか?

憲法第14条

女性蔑視が強い戦前の世の中で主人公の寅子は「はて?」と疑問を持ち、その疑問を周囲にぶつけ法の世界に飛び込んで女性初の弁護士の1人として戦いますが、出産した女性は仕事をやめるべきだという強い圧力があったことや、多忙で心身ともに疲れ果てていたこともあり、寅子は弁護士をやめてしまいます。

しかし弁護士をやめたことにモヤモヤした思いを残していた寅子に、出征することになった寅子の夫の優三はこんな言葉を言います。

寅ちゃんが出来るのは、寅ちゃんの好きに生きることです。また弁護士をしてもいい。別の仕事を始めてもいい。優未のいいお母さんでいてもいい。僕の大好きな、あの何かに無我夢中になってる時の寅ちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。いや、やっぱり頑張らなくてもいい。寅ちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです。

『虎に翼』

出征していった優三と兄の直道は戦死し、やがて父も亡くなります。多くの犠牲を出した戦争が終わった後に制定されたのは、新しい憲法でした。新しい憲法の象徴ともいえる憲法第14条はこの物語の冒頭にも出てきましたし、事あるごとに繰り返し流れます。このドラマの一番のテーマが憲法第14条ですので、ここに載せておきましょう。

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において、差別されない

憲法第14条では、女性だから、朝鮮人だから、貴族だから、お金がないから……といって生き方を縛られなくてもいいと宣言しているのです。性別や人種、家柄などで縛られた生き方をする必要は一切なく、自由に好きに生きる権利が誰にもあると、はっきりと明言しているのです。

この憲法第14条と、出征前に優三さんが寅子に残した言葉に背中を押された寅子は、再び法の世界に飛び込む決意を固めます。そして、戦前は認められていなかった女性の裁判官を目指して法律の世界で闘っていくのです。

理想を求めてもがき続ける

新しい憲法では、性別や人種、身分、家柄などに縛られずに自由に生きる権利が、全ての国民に認められました。縛られずに自由に生きるということは、言ってみれば自分の心に素直に生きるということではないでしょうか。

このテーマは、寅子の前に繰り返し出て来ます。航一さんという新たな人物が目の前に現れ、次第に彼に惹かれていくシーン。戦死した優三さんが今でも大好きで、優三さん一人をずっと想い続けていたいと思うのに、どうしても航一さんに惹かれてしまう自分がいるという苦しみを寅子は素直に航一さんにぶつけます。すると、航一さんはこう答えます。

僕は優三さんの代わりになるつもりはありません。あなたを照子(航一さんの前妻)の代わりにもしない。お互いに、ずっと彼らを愛し続けていい。数カ月後、来年はわからないけれど、今どきどきする気持ちを大事にしたってバチは当たらないんじゃないですか? 永遠の愛を誓う必要なんてないんですから。

『虎に翼』

「永遠の愛を誓う」などということに縛られる必要はないし、今の自分の気持ちに素直になっていいという航一さんの助言に「なるほど」と納得する寅子。航一さんと永遠を誓わない愛を育み始めます。

自分の心に素直になる生き方をするということは、まさしくヨギーにとって理想の生き方と言えるのではないでしょうか。ヨガの目的は、縛りから自由になること。自分の心を見つめ、自分の心に素直になるということです。その理想に近づくために、ヨギーは修行をするのです。そう考えた時、自分の心に素直になり後悔しない生き方をすることをあきらめない寅子の姿勢は、まさしくヨギーの理想と重なるのではないでしょうか。

ヨガの教えは、それが理想であったとしても実現することは本当に難しいことばかりです。それは憲法第14条でも同じで、このドラマでも新しい憲法の理想が掲げられながら憲法の理想と現実が乖離している様が繰り返し描かれます。ですが寅子は、理想に近づくことを決してあきらめません。現実をちゃんと見ろ、理想ばっかり追いかけるなと同僚に言われた寅子は、怒りながらこう言っています。

現実って何ですか?理想は掲げ続けなきゃただのゴミくずですよ。

『虎に翼』

どんなに理想を実現することが難しくても、それをあきらめてしまっては絶対に実現するわけはありません。大切なことは理想を掲げ続けることだと寅子は言いますが、まさにその通りだと思います! ヨガも同じですが、理想を目指し続けることこそがとても意味のあることなのでしょう。

憲法第14条の理想は、今なお実現されているとは言えません。このドラマは、今の私達に問いかけるドラマでもあるのです。そんなことを考えながら、このコラムを書きました。『虎に翼』も終了まで残りわずか。楽しみに見守りたいと思います。