「子どもたちの心の健康」に対するヨガの効果

「子どもたちの心の健康」に対するヨガの効果

健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。

文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年6月末までに約8,400件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。

今回は、2023年に報告された「子どもたちのメンタルヘルスとヨガの効果」について、過去の文献からの知見をまとめた研究を紹介します。

研究の背景

ストレスを抱える子ども

2017年にイギリスの保健機関は、5~16歳のうち10.8%もの子どもが何らかの精神的障害・疾患を抱えていると報告しています。さらにコロナ渦以降には、その割合が16.0%まで増加している可能性があるとも示唆しています。イギリスでは、2018年に年間5万人の子どもたちが、メンタルヘルス面の介入や治療を受けたようです。

これは世界的にも大きな問題になっており、2020年に世界保健機関WHOは、11~15歳の子どものうち約100万人が気分の落ち込みや不安症を含む精神疾患があると報告しています。

WHOの報告によると、子どもの精神疾患は、何らかの身体的、感情的、社会的な環境やその変化が原因となって引き起こされ、年齢が上がるにつれて疾患にかかりやすくなるとも考えられているようです。特に思春期の子どもは、感情的な障害だけでなく身体的症状をともなって発症する場合もあることが分かっています。

家庭、学校、いじめ、ソーシャルメディアなどの多面的な現代社会環境の中で、日常の様々なプレッシャーに苦しむ子どもや若者を目にすることが、さらに一般的になりつつあります。子どもの発達期のストレスは成長期だけでなく、成人後の認知・行動へ影響する可能性があることも指摘されています。

一方、問題や課題の対処法を学ぶ能力を身につける機会に受ける適度なストレスは、心身の成長にとって、ある程度は必要な場合もあるでしょう。
しかし、脳と身体機能を調節する自律神経系・内分泌系・免疫系はつながっているので、ストレスが慢性化すると脳の発達にも影響が及ぶ可能性があります。さらに、認知機能や感情・行動のコントロールへの悪影響につながりかねません。

古代インド発祥のヨガは、「個人の意識・魂と、普遍的な意識・精神との結合」を意味し、身体的運動(アーサナ)、呼吸法(プラーナヤーマ)、瞑想の3つの主要な要素で構成されます。これは実践的哲学であり、健康や充足感のために身体・心・精神を統合し、心と身体の幸福につながることを目指しています。

ヨガの介入によって、メンタルヘルスの予防と治療が可能であることは、すでにいくつもの研究報告があります。例えば2016年の研究では、学校ベースで行われるヨガプロジェクトを12週間行った結果、呼吸のコントロールと瞑想で心を鎮めることが、子どもたちの身体的イメージを肯定的にすることが分かりました。

他にも体の運動機能、柔軟性、姿勢の改善、心血管の健康機能の向上など、様々な面での利点が報告されており、学校にヨガや瞑想が介入する効果についての研究が世界中で注目を高めています。
特に、成長期や思春期で心身ともに不安定になりやすい子どもたちにとって、心と身体を落ち着かせて幸福感や自尊心を高める前向きなヨガは、大きな期待がよせられています。

そこで今回の研究では、過去に報告された子どもたちに対するヨガの効果をとりまとめ、特に精神的健康に対する効果を確認することを目的としました。

研究の方法

2008年1月~2022年5月の期間、文献検索サイトに「ヨガ」、「マインドフルネス」、「子ども(Children / Child / Youth / Adolescent)」、「学校」のキーワードを入れて検索しました。
対象年齢は5~16歳。学校ベースで行われるヨガを対象としました。

一次検索の結果597件の報告がヒットし、その中から今回の研究デザインに合う21件の報告に絞り込んで効果を確認しました。

国別には、アメリカからの報告が一番多く14件、次いでインドから5件、コロンビアとイギリスから1件ずつの報告数となっています。
個々の研究報告の参加人数は、30人から344人の幅がありました。

子どもたちの心の健康に対するヨガの効果

クラスで授業を受ける子どもたち
クラスで授業を受ける子どもたち

学校ベースで行われる子どものヨガクラスは、1クラス当たり30~60分。週2~3回や、週5回取り入れられている場合もありました。本研究では、推奨される子どものヨガクラスの時間は45~60分であると結論されています。

今回確認した過去の研究報告をレビューした結果、学校ベースで行われる子どものヨガクラスが、子どもたちの精神的健康を向上させることに期待できる結果が得られました。また、ヨガはストレス対処の練習にもなることから、医療的な治療の必要性を減少できることにつながることも分かりました。

ヨガが子どもの精神面に与える効果は、以下のとおり確認されました。

  • ストレスの減少
  • 不安や怒りの軽減
  • 抑うつ症状の軽減
  • 自尊心の上昇
  • 前向きな課題対処能力の向上
  • 感情制御能力の向上
  • 自分自身への思いやりの高まり、健康的な行動
  • 学業成績、社会的スキルの向上

子どものヨガに対して肯定的な結果がほとんどであった一方で、体育のようなより活発な運動と比較した場合には満足感が低いという声もありました。
この結果から学校ベースで行われるヨガは、取り入れ方に工夫が必要かもしれません。

子どもたちの心身の健康と成長にも、ヨガは役立ちそうです。結論づけるには情報はまだ不十分であるとの記載もありましたが、世界中で研究が進められていて、子どもがヨガをすることは肯定的であり、ヨガの効果に対する期待が大きいことが分かりました。

参考文献