部屋の窓から見える月に向かって座る女の子

『おやすみなさい おつきさま』に満ち溢れるヨギーの求める安らぎ

みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。

今回は、アメリカで1000万部超えの名作絵本『おやすみなさい おつきさま』を取り上げたいと思います。

この絵本を、子どもの頃に読んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。雅子妃も思い出の宝物とされているこの絵本は、優しい静けさに満ち溢れています。時代や国を超えて、これからも長く愛される1冊であることは、まず間違いないでしょう。

今回は、全ての子ども達に読んであげたいこの名作絵本とヨガの関係について考えていきたいと思います。

マーガレット・ワイズ・ブラウンとクレメント・ハードの名コンビ

ブルックリンの街並み

『おやすみなさい おつきさま』の作者はマーガレット・ワイズ・ブラウン。挿絵はクレメント・ハードです。

マーガレット・ワイズ・ブラウンは、1910年にブルックリンで生まれ、ロングアイランドの郊外で育ちました。彼女は近所のいたずらっ子のリーダー的存在であり、小さい子ども達にお話を聞かせるのが上手な少女でもあったようです。友達や子ども達に、とても慕われていたことがわかりますね。

1935年、バンク・ストリート教育大学に入学。この大学には幼児期の発達に関する世界的に有名なセンターがあり、マーガレットはそこで学びながら、子どものためのお話を書きはじめます。

編集者としても活躍し、多くの作家や画家による絵本を出版していきながら、自分でも多くの絵本を創作しました。そうした仕事の中で、画家のクレメント・ハードと出会いました。

マーガレットは、ハードの絵が気に入り、『ぼくにげちゃうよ』を出版。人気作となります。さらに2人は『おやすみなさい おつきさま』も共同で出版し、こちらも初版6000冊を超える超人気作となりました。アメリカでは知らない人のいない『おやすみなさい おつきさま』は、時代や国を超えて愛され続ける永遠の名作なのです。

お部屋の全てに「おやすみなさい」

ベンチと棚とベッドがある子供部屋

『おやすみなさい おつきさま』を開くと、大きな緑の部屋の中で小うさぎの子がベッドに入り、今にも眠りにつこうとしている絵が描かれています。

おおきな みどりのおへやのなかに

でんわが ひとつ

あかい ふうせん ひとつ

えの がくが ふたつー

『おやすみなさい おつきさま』

ページをめくると、どんな絵なのかということもくわしく描かれます。

それは(お部屋の中の絵は)

めうしが おつきさまを とびこす えと

さんびきのくまが いすにこしかけてる え

『おやすみなさい おつきさま』

さらに、ページをめくると、部屋の中の様子が事細かに語られます。

こねこが にひき

てぶくろ ひとそろい

にんぎょうのいえ 

こねずみ いっぴき

くしとブラシ

おかゆが ひとわん

うさぎのおばあさん ちいさいこえで

「しずかにおし」といっています

『おやすみなさい おつきさま』

そして次のページから、子うさぎはお部屋から見える全てのものに「おやすみなさい」の挨拶をはじめます。

おやすみ おへや

おやすみ おつきさま

おやすみ おつきさまをとびこしているうしさん

おやすみ あかりさん

おやすみ あかいふうせん

『おやすみなさい おつきさま』

そうして子うさぎは、くしやブラシ、おかゆのおわんなど、全てのものに「おやすみ」と挨拶をするのです。

なかには「おやすみなさい だれかさん」まであり、何も書いていない真っ白なページまであります。まさしく子うさぎは、だれかさんに向かって「おやすみなさい」を言っているのです。それは妖精かもしれないし、神様かもしれないし、子うさぎを見守っているご先祖さまの霊かもしれない。読む人がいろいろ想像できる誰かさん……目に見えないけれどきっとそこにいる誰かさんに向かってさえ、子うさぎは「おやすみ」と挨拶をするのです。

そうして、目に見えるものにも見えないものにも、全てのものに挨拶をした子うさぎは、最後には明かりを消しベッドに横たわって目をつぶります。

おやすみ  そこここできこえるおとたちも

『おやすみなさい おつきさま』

そんな言葉で、絵本は静かに終わります。

安らぎと安心感

森に囲まれた静かな湖

夜というものは、どこか不気味で怪しいものです。

夜一人で眠るのを怖がる子どもっていますよね。私も夜一人で暗がりに取り残されるのが怖かったことがありました。闇というものは、得体のしれない恐怖に満ち満ちているような雰囲気があります。

そんな夜、子うさぎは緑の大きな部屋の中で、一つ一つのものに挨拶をしていきます。

お部屋や、赤い風船、明かり、くし、ブラシ、おかゆのおわん……部屋から見える全てのものに子うさぎは挨拶をしていきます。

子うさぎと一緒に「おやすみなさい」と、一つ一つのものに挨拶をしている間に、読者の心の中には安心感と暖かな安らぎが満ち満ちてくるのです。

そんな安心感と安らぎで心の中がいっぱいに満ち溢れている状態。これから、安らかに眠りにつける穏やかな状態。これこそ、ヨギーがヨガをする時に得ようとしている安らぎなのではないでしょうか。

ヨギーが、ヨガをする一番の目的は、心を穏やかにすることです。『ヨガ・スートラ』の冒頭にも、ヨガをする一番の目的は、心を平穏に保つことにあるとハッキリと明言しています。

怒ったり、悲しかったり、苦しかったり、怖かったりすると、心の波は荒立ちますよね。

そうではなく、安らかな状態に保っておくこと。

まるで、風のない日の湖のように心の波を穏やかな状態に保っておくこと。

それこそが、ヨガの大きな目的です。

そのためにどんなことをすればよいのかという方法が、『ヨガ・スートラ』にはいっぱい書いてあるのです。

ですから、『おやすみなさい おつきさま』を読むことそのものが、ヨガだと言えるのではないでしょうか。ページをめくっていくだけで、自然と心が安らぎと温かさでいっぱいに満ち溢れてくるわけですから。

『ヨガ・スートラ』には、こうあります。

あるいは、夢や深い眠りの中で得られる体験に集中することによって

『ヨガ・スートラ 第1章38節』

悲しみや苦しみ、怒りや恐怖などで心が波立った時には、深い眠りについた時の安らかな感覚を思い出して、心を安らかにしなさいと書いてあるのです。

『おやすみなさい おつきさま』にいっぱい溢れている安らぎこそ、ヨギーだけでなく全ての人に必要なものではないでしょうか。

『おやすみなさい おつきさま』には、余計な言葉が一切ありません。子うさぎのいる緑の大きな部屋の様子が、一つ一つていねいに描かれているだけ。そして子うさぎが、その一つ一つに、ていねいに「おやすみなさい」と挨拶をするだけなのです。

だからこそ、この絵本はとても静かです。子どもにもわかりやすいハッキリした色彩でありながらも、静けさに満ち満ちています。だんだん暗くなっていき、部屋の全てのものが暗がりの中に沈み、子うさぎが眠りつくまでの穏やかな静けさが見事に描かれているのです。

夜なかなか眠ろうとしない子どもや、1人で眠るのを怖がる子どもに読んであげるのに、まさしくピッタリの絵本です。子どもだけでなく、ストレス社会の今、なかなか安眠できない大人のみなさんが読むのにもピッタリだと思います。

安眠できずに悩んでいる大人の方も、ぜひ、眠る前に『おやすみなさい おつきさま』を読んでみて下さい。安らかな眠りにつけるかもしれませんよ。