広大な景色を背景に安楽座で座りチンムドラを組む女性の手元

「トリ・シャリーラ」 粗大・微細・原因 〜ヨガにおける3種の身体〜

自分の身体とは何かについて、深く考えたことはありますか?

それは目で見て触れることができる物質かもしれませんし、身体が五感を使って何かを感じている時に実感するものなのかもしれません。

ヨガでは人の身体はただの物質ではなく、そこに宿った感覚や記憶など、様々なものが組み合わさって作られていると考えます。だからこそ、様々な角度から自分の状態や意識について学んでいきます。「粗大な」「微細な」という表現を聞いたことがある人も多いと思いますが、ヨガでは意識の対象が微細なほど本質に近いと考えます。

今回は、このようなヨガ的な考え方に基づいた自分自身分の観察の仕方について紹介します。

ヨガで学ぶべき3種の自分「トリ・シャリーラ」とは?

自分自身を観察するときに、「3種の身体」を意味するトリ・シャリーラ、またはトラヤ・デハという概念があります。また、ヨガでは、全ての人は以下の3つの身体によって構成されていると考えます。

  • ストゥーラ・シャリーラ(粗大な身体)
  • スークシュマ・シャリーラ(微細な身体)
  • カーラナ・シャリーナ(原因となる身体)

これら3種の身体については『マンドゥキャ・ウパニシャッド』で解かれている「起きている状態」「夢を見ている状態」「深い睡眠の状態」とも関連しています。

では、それぞれ見ていきましょう。

粗大な身体:ストゥーラ・シャリーラ

目を開けている女性の横顔と光のダブルイメージ

ストゥーラ・シャリーラは「粗大な身体」と訳され、5つの粗大元素(空・風・火・水・土)によって構成されています。これは、過去のカルマ(行為)の積み上げで作られる物質的な身体なので、いつか必ず滅びます。人として誕生するときに創造され、時間と共に老い、必ず死を迎えます。

物質的な身体は、頭、手足、胴体の全ての肉体を含み、動き、呼吸、眠りといった物質世界でのあらゆる行為を生み出します。また、5つの感覚器官によって外の世界を体験します。しかし「粗大な身体」は、「起きている状態」で経験され認識されます。ストゥーラ・シャリーラへの意識が強い時は大きなエゴに繋がり、また、プラクリティ(物質の根本原理)によってとらわれているので常に変容し続けていて留まることはありません。

有限なものに対する執着は、苦しみの原因となります。

「粗大な身体」は、借り物の宿だと認識しましょう。人はこの世界を生きるために物質的な身体を与えられますが、これは様々な経験をするための器でしかありません。

物質世界との関わりを持つストゥーラ・シャリーラは、良いカルマ、悪いカルマの両方に束縛され、常にカルマ(業)を生み出し続けます。

微細な身体:スークシュマ・シャリーラ

目を閉じている女性の横顔と光のダブルイメージ

スークシュマ・シャリーラは「微細な身体」と訳され、プラーナ(生命エネルギー)、心、5つの微細元素(微細な空・微細な風・微細な火・微細な水・微細な土)、マナス(思考)、ブッディ(知性)によって構成されています。物質的な身体にスークシュマ・シャリーラがエネルギーを与えると人は行動することができるので、スークシュマ・シャリーラの半分は霊的であり、残りの半分は物質的な身体であるということもできます。つまり、「粗大な身体」と魂を結びつけるのがスークシュマ・シャリーラなのです。

スークシュマ・シャリーラは、「夢の状態」で経験することが可能です。「夢の状態」では主に心の働きに意識が向き、物質的な身体は休止しています。

スークシュマ・シャリーラは、「粗大な身体」が生み出したカルマ(行為)をサンスカーラ(潜在印象)として蓄積し、物質世界への束縛を生み出します。このサンスカーラ(潜在印象)が元となり、人は輪廻転生を繰り返すと考えられています。

微細なスークシュマ・シャリーラは物質的なものではありませんが、物質的な身体の経験と密接に関わっているため、肉体の寿命とともに消滅します。

原因となる身体:カーラナ・シャリーナ

カーラナ・シャリーナは、私たち個人が存在するための「原因となる身体」と訳され、無知から構成されています。それ自体には特徴がないため、認識することはとても困難です。

教典『ヨガ・スートラ』では、全ての苦しみを生み出す原因を“無知(アヴィディヤー)”と呼び、『バガヴァッド・ギーター』では、真実を正しく見れないことを“マーヤー(幻影)”と呼びます。どちらの書も、これらが物質世界での苦しみの原因だと説きます。

苦しみの原因となる無知は、「起きている状態」や「夢の状態」が休止している時や、肉体的な体が滅んだ後でも潜在的な要因として常に存在し続けていることから、「夢も見ない深い睡眠の状態」とも呼ばれており、私たちに影響を与え続けています。

ヨガでは3種の身体全てを手放す方法

中を見上げて両腕を広げる女性

ヨガでは必ず、認識することから始めます。

まず、私たちが3種の身体から構成されていることを認識していきましょう。最も認識しやすい「粗大な身体」から始めます。物質的な自分に意識を向けていくことで、その物質と関わりのある「微細な自分」にも気が付きやすくなります。

「微細な自分」とは、私たちの内側を流れるエネルギーや心の働きです。心の働きは意識していないと勝手に思考を生み出し、間違った認識による思い込みを想像し続けます。心への意識を深めていくことで、心の生み出す幻影の原因にも気が付きやすくなります。

原因となるカーラナ・シャリーナを認識することは簡単ではありませんが、瞑想によって自分の心の働きとしっかりと対峙することで少しずつ見えてきます。

5つのコーシャ(鞘)とトリ・シャリーラ

外側の「粗大な身体」から順番に意識を向けていくアプローチは、パンチャ・コーシャ(5つの鞘)の概念ともよく似ていますね。

深い内面へと意識を向ける
5つのコーシャを理解し、自分のより深い内面へと意識を向ける

ストゥーラ・シャリーラ(粗大な身体)はアンナマヤ・コーシャ(食物鞘)、スークシュマ・シャリーラ(微細な身体)はプラーナヤマ・コーシャ(生気鞘)とマノマヤ・コーシャ(意思鞘)とヴィジュナーナマヤ・コーシャ(理知鞘)、カーラナ・シャリーナ(因子となる身体)はアーナンダマヤ・コーシャ(歓喜鞘)に結びついています。

どちらも、認識しやすい外側から手放していくことで、本質に近づいていくことができます。

身体(シャリーラ)という言葉を使うと、どうしても物質的な身体のみをイメージするのが一般的だと思いますが、内側に流れるエネルギーの流れや、心の働き、身体に宿る記憶、それら全てが自分の身体を構成していることを意識してみましょう。

ヨガでアーサナ(ポーズ)の練習を行っている時でも、身体と心の繋がりを感じやすくなるはずです。

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